ガチャ24 たき火のせい
意識のなくなったクオウに無理矢理上級ポーションを飲ませてから、七時間が経過して今は夜。
クオウは瀕死の状態異常が治療されて、今もちゃんと生きてる。呼吸をしてるし、編成画面でもHPは満タンだから間違いない。けど、HPが回復した後も目を覚まさなかったから、簡易結界箱を使って休憩することにした。
すっかり夜になってしまったから、クオウはテントに寝かせて、私はたき火の番をしてる。
あの時、残りのカウントダウンがいくつだったのかわからない。だけど、ちゃんと間に合った。クオウが生きているのがその証拠。私にはその事実があれば些細なことなんてどうでもよかった。
神剣の勇者ハルトは、結局あれから戻ってこなかった。たぶん、悪魔を倒したことで戦闘が終了したから帰還したんだと思う。ショートサモンの説明にはそう書いてあった。
自分の目で見た訳じゃないけど、勇者が勝利したことは確信してる。それは、悪魔が私たちの前に姿を現していないこともそうだけど、私のレベルが上がって次の階層への扉が現れたから。
いきなり300ポイントが付与されたあの時。目の前のことでいっぱいいっぱいだった私は気づかなかったけど、扉も一緒に現れてたみたいだった。それはつまり、あの時にレベルが18になったってこと。
ショートサモンの助っ人は、編成画面に表示されない。それはクオウの状態を確かめるときに表示されてなかったから間違いない。だけど、扱いとしては同じパーティーに所属してるってことになるんだと思う。
同じパーティーメンバー扱いの勇者が悪魔を倒した。だから私はレベルが上がったし、扉は現れた。スキルポイントが手に入ったタイミング的にも、そういうことなんだ。100ポイントじゃなくて300だったのはよくわからないけど。
勇者、彼は一体何者なんだろう。
私たちと同じプレイヤー? それとも運営の手先?
あの悪魔を倒して私たちを助けてくれたことは感謝してるけど、そもそも彼が運営の手先ならマッチポンプみたいなものだ。
見た目や名前的には完全に日本人だった。だけどその強さはとても同郷の人間とは思えないもので、だからこそ彼が何者なのかわからない。もしも彼が明らかに私とは違う種族だったなら、クオウみたいに元々強いプレイヤーだったんだって納得も出来たかもしれない。
色々と思うことはあるけど、同時に考えても仕方ないことだって諦めてる。
だって、あのカードはもう持ってないし、SRの同じカードが今後手に入る可能性もあんまり高くはないんじゃないかな。
あの勇者と会うことは二度とない。だから考えてもどうしようもない。
「う……、こ、ここは……? 死後の世界か……?」
小さなテントの中からクオウの声が聞こえた。目が覚めたみたいだ。
もうかれこれ2週間近くこのテントを使ってるのに、死後の世界と勘違いするなんて、まだ本調子じゃないのかもしれない
「平民……!」
テントから出てきたクオウが、たき火で暖を取る私を見て驚いたように言葉をもらした。
っていうか、平民呼びに戻ってるし。
「死にぞこなって残念だったね、貴族様」
生きているからこそ叩ける軽口と、平民呼ばわりの意趣返しをしてやった。
普段のクオウなら怒鳴りつけてくるところなんだけど、そんな元気もないのか、それとも私の態度に困惑してるのか、どうしていいかわからないという表情で、たき火を挟んだ私の対面に腰掛けた。
「クオウもさ、言いたいこととか、聞きたいことあるかもしれないけど、その前にやるべきことがあるって私は思う。無礼だーとかって言うのはなしね」
「……ああ」
これまでずっと、私たちはすれ違ってすらいなかった。だってお互いに歩み寄ろうとしてなくて、なにも話さない癖に一丁前に相手に理解を求めてた。
立ち止まってたんだ。ただそこに停滞することは簡単で、甘えてた。
でも、それじゃあダメだ。もっと早くこうするべきだった。
「前にも話したけど、私は大した争いなんてない平和なところに住んでたんだ。生き物を殺したことなんて、虫くらいかな。命をかけた殺し合いなんてやったこともなかった」
「いきなりスキルとか装備とか持たされてもさ、なんだそれって感じだよ」
「だから坑道を抜けて、初めてクオウに会ったとき、凄く安心した。知らない場所で、たった一人で命のやりとりをするなんて、ほんとに心細かったから」
「なのにクオウ、いきなり剣突きつけてくるし、怒鳴りつけるしで、内心ムカついてんだ。やり返してやるー、なんて考えて、ほら、ラーメンの件とかあったでしょ?」
「でもそれだって、クオウがいたからなんだって思うよ。きっと私一人だったらもっとすり切れて、ふざけたり、怒ったり楽しんだりなんて出来なくなってたんじゃないかって思う」
「樹猿に奇襲されてから、私を守ろうとしてくれたでしょ? 嬉しくて、心地よくて、ずっとそのままでいたいって思った。誰かに守ってもらえるってことが、あんなに凄いことだなんて、昔の私は気づいてなかった」
「ずっと守られてたら楽だったのかもしれないね。でも私はそれじゃ駄目だって思った。きっとそれじゃあ、このダンジョンを攻略することは出来ないって」
「それに、このまま一人で戦ってたらクオウは死んじゃう。私はそんなのやだ。絶対嫌だ。」
「だからさ、クオウ。あの時の続きになるけど、これからは二人で戦おうよ。クオウが私を守ってくれるのは嬉しいけど、私にもクオウを守らせてよ。私はクオウと……、……仲間になりたいよ」
顔が熱いのは、たぶんたき火にあたってるからだ。
もしかしたら顔が赤くなってるかもしれないけど、それだってたき火のせいだ。
全部たき火のせい。
「私は……、私の存在理由は、貴族であることだけだ。これまでもずっとそうやって、家を、民を守ることで私は私を実感できた」
「戦うことも、死と隣り合わせになることも、私にとっては慣れ親しんだものだ。死にたいと思うわけではないが、いつでも死ぬ覚悟は出来ている。いつか私は、守るべきもののために戦って、貴族として死ぬのだと、ずっとそう考えていた」
「だがここには何もない……! 何もなかったんだ! 私の守るべきものが! 私は何のためにここにいる!? 何のために生きている!?」
「平民……、いや、ムツムィ。君が強く、立派な人だということは、君を初めて見て、そして話を聞いた時にはわかっていた。これまで戦いと無縁だったいたいけな少女が、腕を失ってでも気丈に戦い続けるなど、どれほどの強さが必要なのか」
「わかっていて、それでも私は君に弱さを求めた。君を守るべきものに見立てて、守り続けることで、私は私の存在理由を、この場所でも貴族であろうとしていた」
「……すまなかった。全て私自身の弱さが招いたことだ。だが、わかってほしい。私にはそれしかないんだ。私はここで、君を守って朽ち果てたかった! そうすれば私は私のまま終われた!」
「なぜ助けた!? 言っただろう!? もういいと! あの男はなんだったんだ!? 君のとっておきだったんじゃないのか!? だったら、あの場は逃げ出していればよかった! ボス部屋を抜ければまたマッチングはされるだろう! 君はそこで、新しい仲間と出会うべきだった!」
クオウは真剣だった。私にはわからないけど、クオウにとっては自分の命を懸けるほどのことだった。
そうか。やっぱりクオウにも、理由があったんだ。
「私はさ、平民じゃないよ」
「……わかっている」
「ここにはクオウの守りたい平民はいないし、家だってない」
「……わかっているっ!」
「だったらさ、死にもの狂いで生きて帰って、本当に守りたいものを守るべきなんじゃないの? こんなところで死んじゃっていいの?」
「わかっているんだ! そんなことは!!」
興奮した様子で立ち上がるクオウ。私もクオウに合わせて立ち上がった。たき火の横を通ってクオウの隣に移動する。
少し落ち着いたのか、クオウは私の目を見てゆっくりと話始めた。
「駄目なんだ。帰ればいいとわかっていても、今の私が耐えられない。ずっと一人なら大丈夫だったかもしれない。だが、君に出会ったからこそ、私は何かを守ることを思い出してしまった。今更、何者でもない自分でいることなど出来ないんだ……!」
泣きそうな顔だった。
私は一人で辛かったけど、クオウは私のせいで辛かったんだね。
「ん」
「――!?」
クオウが話を区切ったタイミングで、私は背伸びした。
「な、なにをする!?」
「今の、セカンドキスなんだ」
大慌てで私の肩を掴んでひきはがすクオウに、私は悪戯が成功した子供みたいに笑って答えた。
「ファーストは、さっきクオウを助けるために使っちゃった」
クオウは口をパクパクとさせて、何か言おうとしてるけど言葉が出てこないみたいだった。
「ねえ、クオウ、責任とってよ」
むこうの世界の文化なんてわからない。っていうか、私の世界でもファーストキスくらいで責任とってなんて重すぎる。
でも、そんなの関係ない。
「このダンジョンに居る間だけでいいから、私と付き合って。平民と貴族じゃないから上下関係はないよね」
クオウが貴族だから平民を守るって言うなら、そうじゃなくなればいい。
新しい、クオウの生きる理由があればいい。
「私が恋人としてクオウを守るから、クオウは恋人として私を守るの。それがクオウの、ここにいる理由。それじゃダメかな?」
「……私のために自分を安売りするようなことはするな。私はそんなことをさせたいわけじゃーー」
「そうじゃない! そりゃあ、クオウに死んで欲しくないって気持ちはあるけど、それは同情とかそんなんじゃない!」
自分でも驚くほど大きな声で否定してた。
でもきっと、それだけ私の中でクオウの存在が大きくなってるんだ。
さっき、私は一つだけ嘘をついた。
言いたくて、でも言えなかった。クオウが私と仲間でも良いと思ってくれるなら、それでも良いと思って勇気を出せなかった。
クオウの仲間になりたいのは嘘じゃない。
でも、あの時本当に言いたかったのは
「私は、クオウの生きる理由になりたい」
見上げたクオウの顔が赤いように見えたのは、きっとたき火のせいじゃない。
「好きだよ、クオウ」
クオウはもう何も言わなかった。
私は瞳を閉じて、クオウを受け入れた。
効果は抜群だ




