ガチャ20 我慢の限界
結局、クオウは樹猿を見つけることは完全に諦めて私を守りながら戦う方法を追求するようになった。でも、一朝一夕で戦い方を変えるなんて出来るわけもなくて、クオウは今までの戦いでは受けていなかったような攻撃を何度も食らってた。
元々私以上の戦闘能力を持ってるクオウだから今はなんとかなってるけど、私を庇いながらじゃその実力を十分に発揮できないのは端から見ても一目瞭然だ。一戦ごとに増える生傷の痕が痛々しくて仕方ない。
自分よりも強い存在の庇護を受けるのはとても安心できて、暖かいお日様の光に包まれてるような、そんな抗い難い心地よさがあった。
だけど、甘えていいのはここまでだ。このままずるずるとこの懐かしさにしがみついていたら、私はもう戻れなくなる。
これは夢だったんだ。私みたいな弱っちくて泣き虫な女の子を守ってくれる、そんな幸せな夢。
でも、それは夢だから。だからもうお終い。私はここで目を覚まして、自分の足で立ち上がる。自分の腕で切り開く。
「クオウ様、もうやめましょう」
「何だと? 何のつもりだ平民? 貴族であるこの私に逆らうと言うのか! 平民の分際で!!」
周囲を警戒しながら怒声をあげるクオウ。
でもそれは嘘だ。私はもう気づいてる。口では怒ってるみたいに言ってるけど、その言葉には感情が乗ってない。いや、正確には怒りの感情はって言うべきかな?
クオウが何を考えてそんな演技をして、本当はどんな気持ちかなんて、そんなことはわからない。
「私だって戦えます! このままではクオウ様だって危険です!」
私を戦わせないで、それどころか私を守りながら戦うにはクオウは力不足だ。今は何とかなっても、魔物がさらに強くなったらクオウは死ぬと思う。
別にクオウがどうなろうが知ったこっちゃないけど、クオウがいなくなるのは戦力的にマイナスになるから出来る限り避けたい。っていうかクオウが殺されるような相手に私一人で勝てる気しない。
だから、ウルウルと涙目で上目遣いをしながらクオウの感情に訴えかける。
どうだ、現役JCの涙目&上目遣いコンボは!?
効いてるか!?
「……ならん! 私は一人で問題なく戦える。貴様とてそれは見ていただろう」
効果はいまひとつのようだ。
今、この階層での話に限定するなら、たしかにクオウはかすり傷くらいしか負ってない。だけど前までは、そのかすり傷すらなかったんだ。
常識的に考えて、私だって戦えるんだから一緒に戦った方が良いに決まってる。だってのにクオウはそれを認めない。その理由だって言おうとしない。
クオウにもクオウの理屈があるんだってことはわかるけど、それを説明しようともしないことがもどかしい。
そんなに平民は信じられないのかな?
……もういい。そっちがその気ならこっちにだって考えがある。
「かしこまりました。出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした」
「ふん、わかればいいのだ」
いつまでその余裕が続くか見物だよ。
・
徘徊の森第三階層。第一、第二階層では出てくる魔物が樹猿だけだったけど、この第三階層では木精霊という魔物が出てくるようになった。蔦やや木の枝をいくつも絡み合わせて人型にしたみたいな魔物で、物理攻撃と水、土の魔法に耐性があるみたいだった。
魔物図鑑みたいな便利アイテムは持ってないし、ヘルプにも各魔物の詳細までは乗ってないから耐性情報は経験からの判断になるけど、クオウが何度も攻撃してやっと一体撃破出来るレベルだから、たぶん間違いない。
第二階層に引き続き出てくる樹猿は多くて二回、魔法なら一回で倒せることもあるから、第三階層でいきなり魔物が強くなったってことは考えにくいしね。
クオウの攻撃手段は、剣の物理攻撃と水、土、泥魔法の四種類だけだと私は推測してる。今までそれ以外の攻撃手段を使ったことがないし、明らかに効きが悪い木精霊に対しても同じように戦ってることからこれも多分間違いない。
つまり何が言いたいかというと、この階層はクオウとの相性が非常に悪いってこと。こんな状況でもギリギリ私を守りながら戦えてるクオウには流石と言わざるを得ないけど、そろそろこの拮抗を崩させてもらうとしよう。
結局、クオウが一人で戦うと言って聞かないのはクオウが一人で戦えるから成り立つ話なわけで、クオウが一人で勝てないのなら私がやむを得ず参戦するのは仕方がないことになる。
私は唐突にふらりとよろめいて、木精霊の放ったニードルブランチの直撃コースに体を滑り込ませる。
ちなみにニードルブランチとは、木精霊の体内にある細い木の枝を飛ばしてくる攻撃である。
「っ!? くっ!」
複数の木精霊の攻撃を時に剣でなぎ払い、時に魔法で防いでいたクオウが無理矢理私を庇おうとして大きく体勢を崩した。やっぱり、私がダメージを受けそうになったら守ろうとするみたいだ。
クオウと私は地面を転がってなんとかニードルブランチを回避したが、私が立ち上がるよりも早く別の木精霊がツリーバインドを放つ。
地面から飛び出した木の根が私を拘束しようとうねりながら迫るが、クオウはそれを切り飛ばした。あんなに動き回る木の根を切り飛ばすとかやばいでしょ。
でも、クオウの健闘はそこまでだった。三体目の木精霊が放ったツリーバインドが一瞬私を狙う動作でフェイントをかけてからクオウを縛り上げた。
本来のクオウならそんなフェイントであっさりと翻弄されたりはしないんだろうけど、今は私というお荷物を抱えているから引っかかってしまった。
クオウには悪いけど、これで私の条件は整った。
「クオウ様! ファイアボール! エアスラッシュ! アースランス!」
クオウを拘束している魔法を使った三体目の木精霊を燃やし尽くし、残り二体には牽制として風と土の魔法を使った。一撃で倒せなければ更に追加で魔法を使うつもりだったけど、火魔法を受けた木精霊はあっという間に光の粒子になって消えていった。
どう見ても炎が弱点だもんね。
術者が死ねば当然魔法は解ける。解放されたクオウは即座に二体の木精霊に切りかかり、多少時間はかかったけど勝利した。
「申し訳ありませんクオウ様。つい、咄嗟に」
そう、これこそが私の用意した筋書きだ。
あなたが力及ばずピンチに陥ったから仕方なく私が助けてあげたんですよー。本当は言いつけ守って手を出したくなかったけどしょうがなく、しょうがなく戦ったんですよー、と言える状況を作りだしたのだ。
いきなりよろめいたのは当然わざとで、そのままでは無難に勝利しそうだったから無理矢理ピンチに陥って貰うことにした。
自分でもちょっと強引だし無茶したかな? と思うけど、これで一人でも戦えるなんて言い訳は使わせない。
「ふん、余計なことを。何度も言っているが貴様は手を出すな」
「ですが、あのままでは……」
「そもそもあの程度の拘束など抜け出すことは容易だった。早とちりをするな、愚か者め」
んなあ!? お、愚か者だと~!?
この、こんのクソ貴族め!
堪忍袋の緒が切れた!!
「ふざけんのも大概にしてよっ!!」
あーもういい! やってらんないよこんなお坊ちゃんのお守りなんてさ! あんたが一人で戦って死ぬのは勝手だけど、私は巻き込まれて死にたくないんだよ!
「だったら私だって一人で戦うから、あんたも一人で戦ってればいい! なにが貴族だバーカバーカ!!」
こいつに付き合って行動を制限されるくらいだったら一人で探索した方がずっと楽だ! 最初から一人だと思った方が戦える!
私は捨てぜりふをはきながらダッシュで来た道を引き返す。パーティーの解除はスマホで出来る。それは事前に編成画面で確認してある。
そりゃあ、一緒に戦ってくれる仲間は居た方が良いと思ってた。仲良くなれなくても、単純に戦力が増えるのは大事だと思ってた。
だけど今のままじゃ何の意味もない。むしろ一人で戦ってたときより自由に動けない分弱くなってるかもしれない。
ああ、クソ! とにかく一人で樹猿と木精霊を倒す方法を考えなきゃダメだ。木精霊は火魔法で一発だけど、樹猿の奇襲への対処をどうするかが課題になるかな。最悪探知系のスキルを取ればなんとかなるかな……。
「待て!」
「ええ!?」
聞こえてきた声に驚いて走りながら振り向くと、クオウが凄い速さで追いかけてきてた。顔が怖い。迫真の表情だ。
何!? なんで追いかけてきたの!? だってあいつ最初仕方ないから連れて行ってやるって言ってたよね!? こっちから逃げれば追いかけてくる道理はないでしょ!?
私とクオウのステータスにどれほどの差があるのかわからないけど、クオウはあっという間に距離を詰めて私の右腕を力強く掴んだ。
「やだ! 離して!!」
「なぜ逃げる! 逃げるな!」
私の右腕を掴む手に更に力が込められた。
「い、痛い! 痛いよ!」
「あっ、す、すまない……」
離された腕をさすりたくても私には左手がない。じんじんと残る痛みを我慢しながら、私はクオウを睨みつけた。どうせ逃げても追いつかれるからここでまた逃げ出しても意味がない。
「なんで追いかけてくるの!? 一人で戦いたいんだったら勝手に一人で戦えばいいじゃん!? 私を巻き込まないでよ!」
「き、貴様、言葉遣いが」
「そんなことどうだって良い!! 答えて!」
「私が貴族で、貴様が平民だからだ。わかったら大人しくついてこい」
こいつはコミュニケーション能力を持ってないのかな?
私だって大概コミュ障だったけど、ここまで話の通じないやつは始めて見た。
……もしかして、わざとそうしてるの?
修羅場ですね!




