ガチャ18 ささやかな仕返し
背の高い木々を軽々と跳び移りながら、樹猿が私たちを翻弄する。
いや、正確に言えば翻弄されているのは私だけだった。
クオウは死角から飛びかかってくる樹猿をまるで見えているかのようにたたき落とした。
「スワンプ」
たたき落とされた樹猿は即座に起きあがってまた樹の上に上ろうとするけど、それよりも早くクオウの魔法が樹猿を捕らえた。
スワンプ。教えて貰ってないから何魔法なのかは知らない。
地面を泥沼に変えて魔物の動きを封じる効果のある魔法。クオウは基本的に足止めに使うことが多いけど、底なし沼になってるみたいだからもがき続けるだけでいずれは沈んで死ぬことになる。
「アースランス」
魔法は解除すると元の地面に戻るから、一度泥沼に足をとられた魔物は固まった地面から抜け出せなくなる。
クオウは身動きが取れなくなった樹猿の首をはね飛ばし、さらに攻撃の隙をついて襲いかかってきたもう一匹の樹猿を土魔法で串刺しにした
「ウォーターウィップ」
クオウはそのまま、倒した樹猿を確認もせず魔法で作り出された水の鞭を振るい、一本の樹の枝に叩きつける。すると、なぎはらわれた枝と一緒に樹猿が落下してきた。
落下の衝撃で一瞬動きが止まった樹猿は一匹目と同様に首をはね飛ばされ、戦闘は終了した。
相変わらず強い。
クオウの戦う姿を見て、単純にそう思った。
今クオウが戦っていた樹猿は決して弱い魔物じゃない。この徘徊の森第一階層に生い茂る無数の樹木とよく似た体毛を持っていて、動かずに擬態されてると目で探して見つけるのは凄く難しい。フクロウで木の枝に擬態するのがいるじゃん? あんな感じ。
そのうえとっても身軽で樹の上をぴょんぴょんと飛び回るから、魔法で狙うのも難しい。
魔法は術者の意に応じてある程度柔軟に発動するけど、避けられた場合ホーミングするわけじゃない。だからこの樹猿を魔法で倒すなら動きを予測して魔法を使わないといけない。
私一人だったら、倒すのに結構苦労する相手なのは間違いない。
そんな魔物を、クオウはあっさりと三匹も倒して見せた。一回だけならまぐれかもしれないけど、この階層でクオウが樹猿を倒したのはこれで五回目だ。しかも、戦うたびに倒し方が洗練されていく。
一回目の戦闘が終わった段階で、次の階層への扉は出てきた。だから先に進むだけならもうこの階層に用はないんだけど、クオウはある程度魔物との戦い方を覚えてから進みたいみたいで、そう言われれば今の私に拒否権はないから今もこうしてクオウが満足するまで付き合ってる。
クオウが強いんだろうなってことは、情報を交換した時になんとなくわかってた。
だって、クオウは私が伝えるまでレベルやスキルのシステムを理解してなかった。っていうか、自分の持ち物にいつの間にかスマホが増えていることにさえ気が付いてなかった。
つまり、クオウはこのダンジョンの運営が用意したシステムに頼らなくても始まりの坑道を突破できたってことになる。
あんまり詳しくは聞けなかったら正確にはわからないけど、たぶんクオウの世界では剣や魔法を使って戦うのは当たり前のことだったに違いない。それならあんなに戦い慣れてるのも頷ける。
改めてクオウの強さを確認して、私としては困ることになった。今のクオウは間違いなく私より強い。遠距離からいきなり攻撃しても多分対処して逆に私の首がはねられると思う。さっきの樹猿みたいに。
それにクオウには謎がある。この徘徊の森第一階層で一戦終えたとき、次の階層への扉が出現したけど、クオウはそれを全く驚いてなかった。これはおかしな話だ。
だって、始まりの坑道を真っ当に突破してきたなら、レベルを上げるために各階層で何回か戦ったはずなんだ。それで今回だけ一戦終わったら扉が出てくるっていうのはクオウの視点からみればおかしいわけで、私に何か聞いてくるのが正しい反応のはず。
でも一切反応しないってことは、クオウはこれまで私と同じように各階層を一戦だけで抜けてきたってことになる。
単純に、各階層の扉の出現条件がレベルじゃなくて1度戦闘することだったっていう可能性もあるからまだ断言は出来ないけど、クオウには私に伝えてない秘密があるはずだ。それは元の世界の話とかじゃなくて、このダンジョンのシステム関連で。
まあ、そもそも私はクオウのレベルやスキル構成を教えて貰ってないから何をどこまで隠してるのかもさっぱりわからないんだけど。
どうもクオウは私を戦力としてみなしてないみたいだし。
この徘徊の森第一階層の戦闘はすべてクオウ一人で対処してきた。これは私が怠けてったわけじゃなくて、クオウから直接手を出すなって言われたから。反発する気持ちがないわけじゃないけど、パーティー組んでるから私にも経験値は入るし、下手に逆らってまた揉めるのも面倒だからお望み通り私は戦ってない。
どういうつもりなのかは知らないけど、私とクオウは根本的な考え方が全然違うから私には理解できないなにかがあるんだと思う。
「こんなところか。今日は扉の近くで野営する。平民、準備をしておけ」
「かしこまりました」
死ね。
クオウは私に戦闘での役割を求めないけど、その代わりなのか全ての雑用を押しつけてくる。情報を交換したときに結界箱や食べ物を買える話をしたら、『貴族である私がそんな雑事をやるはずがないだろう。貴様がやれ』と言い放ちやがったのだ。
雑用をするだけで戦わなくていいのなら悪くないと思うところもあるけど、そもそもの話結界箱や食べ物、野営道具を用意するのはお金がかかるわけで、クオウは払うつもりが全くないみたいだからその金銭的負担は全て私にのしかかる。
これがお貴族様の搾取ってわけだ。まさか現代日本に生まれた女子中学生の私がお貴族様から厳しい取り立てを受けることになるなんて、誰が想像出来ようか。
きっと昔の農民もこんな思いだったんだね……。
「このまま真っ直ぐです」
内心ムカつきながらも私はスマホのマップを見ながらクオウを扉まで誘導する。このフロアは同じような形の樹がどこまでも続いてるから、道を覚えてくことは不可能に近い。目的の場所を目指すにはスマホのマップが必須で、雑用を押しつけてくるというのはこういうことでもある。
来た道を引き返す間は魔物からの襲撃はなかった。多分結構長い時間が経たないと魔物はリポップしないんだと思う。始まりの坑道で初日に私が引き返したときもそうだったから。
無言で歩くクオウとただナビをするだけの私たちの空気は決して良いものとは言えないけど、大きな問題もなく扉にたどり着くことができ、早々に食事を取ることにした。
そこでふと魔が差した。
別に食べ物に毒を混ぜようなんてわけじゃない。
ただちょっと憂さ晴らしをさせてもらうことにしただけだ。
「こちら、私の世界の高級料理でございます」
5食入り30dの袋麺。それなりに量が入ってる割に値段も安くて、中々コスパがいい。袋麺とは言ってもピンからキリまであるけど、私は一番安いやつを高級料理と詐称してクオウに提供した。
どうせクオウには袋麺がほんとは安物だなんてわからないんだから、高い物を選んでもしょうがない。
高いものだって言っておけば満足するでしょ。
「ほう、悪くない味だ。貴族である私に相応しい。褒めてやろう」
「……ありがとうございます」
表情筋に力を入れてなんとか吹き出すことをこらえた。
やばい、自分でやっといてなんだけど袋麺を高級品だと思いこんで食べる貴族とか草生える。しかも、悪くない味だ(キリッ)、とか私を笑い殺す気か? 腹筋痛くなってきた。
クオウは私が食事の準備をしているところなんてほとんど見てなかったから、私がこれを料理して作ったと思ってるみたいだ。じゃなきゃ私に対して褒めてやろうとか言わないだろうしね。
いやー、クオウをボコボコにするのはもう少し先になりそうだけど、良いストレス解消法が見つかってラッキー。
どうでもいいけどこいつ鬱陶しいくらい貴族貴族連呼してくるな。
その後、クオウに食べ物の名前を聞かれた私がうっかり素直に答えてしまい、販売品のリストからそれを見つけだしたクオウに滅茶苦茶怒られるのだが、それはまた別のお話。
袋麺……、美味しいんでしょうか?




