ガチャ17 クオウ・グオ
驚くべきことに、その外国人は日本語で流暢に話し出した。二つの言語を話せる人のことをバイリンガルって言うんだよね。なんか格好良い。ああ、でももしかしたら日本生まれ日本育ちで外国語しか話せないって可能性もあるよね。
よし、相手が日本語話せるならなんの問題もない。
(私は六実と言います。怪しいものじゃありません)
「あ、わわ、私は六実でしゅ。あ、あああ怪しいものじゃないです」
自分で想定したよりも声は震えてどもってた。
そうだった。私はコミュニケーション能力に重大な欠陥を抱えているがために友達の一人もいないボッチ女子だった。
なぁにが、私が大人になって穏便に会話を成立させよう(キリッ)、だ!
ボス戦に勝ったことでいつもより内心のイキリがひどくなってたみたいだ。反省しなければ。
私が会話の主導権を握るのは無理。ここは大人しく物騒な金髪外国人の質問に答えて信頼を得よう。
「ムツムィ? みない容貌だが、出身はどこだ?」
「あっ、に、日本です」
「聞いたことがないぞ、そんな国は」
思わず目を見開いた。
だって、日本語がぺらぺらなのに日本を知らないなんて、そんなことありえないと思ったから。でも、金髪外国人が嘘をついているようには見えない。
「あ、あの、でも――」
「黙れ!!」
「ひぃっ!」
金髪外国人は唐突に怒鳴り声をあげた。
その怒気に気圧されて、私は言われたとおり口を噤む。男の空気がガラッと変わったのを感じた。
刃物を持っている相手に一方的に怒鳴りつけられるのは初めてだけど、魔物を相手にするのとはまた違う恐ろしさがある。
怖い。
「貴様、平民の分際で貴族の質問を遮るとは何様のつもりだ! 頭が高い!」
「ご、ごめんなさい!」
意味がわからなかった。貴族とか平民とか、平安時代でもないのに何言ってるんだって思った。でも、怖かったからとりあえず謝った。今はただこの人が向けてくる怒りから逃れたくて、楽な方に流された。
でも、ちょっと待ってよ。これっておかしくない? だって私、悪いことしてないよね?
咄嗟に謝っちゃったけど、これって逃げただけだ。なんで私が下で、この人が上なの? そもそもいきなり剣突きつけてくるとか失礼すぎない?
「馴れ馴れしい! 言葉遣いも知らないのか!」
「……」
たぶん、今までの私なら状況に流されてそのままずるずるとこの人の下僕になってた。
でも、今は違う。だった私は決意したから。逃げないって。だったらダメだ。ここで、戦いもしないで優劣を決められたらダメだ。
相手は、多分油断してる。
叩きのめしてやる。
「申し訳ありませんでした」
「ふん……、出来るなら初めからやれ」
だけどそれは今じゃない。
この部屋は狭い。それに今、私たちの距離は近すぎる。武装をみる限り、この男は明らかに前衛。この部屋で本気でやりあうとしたら私が圧倒的に不利。
叩きのめすなら、この部屋を出て、ある程度実力を把握してからだ。それまでは悪意を隠す。死ねばいいのにって思うくらいムカついてるけど、今は見逃してやる。これは逃げじゃなくて勝つための一手。傲慢な態度で私を見下したことを後悔させてやる。
・
それから、男の質問に答えるという形で情報を提供した後、男は簡単にだけど自分のことを話した。
男の名前はクオウ・グオ。イース王国という国に仕えるグオ伯爵家の長男で、次期伯爵だって本人は言ってた。クオウはイース語と呼ばれる言語で話しているようで、彼には私もイース語で話しているように聞こえるらしい。
たぶんこれは、違う国や世界の出身の人が意志疎通出来るようにっていう運営側の配慮だと思う。言葉が通じなかったら、私とクオウはこの部屋で殺し合いをしていたかもしれないし。
クオウはたぶん、私の住んでいた世界とは違う世界から来たんだと思う。だって、イース王国なんて国は聞いたこともないし、クオウも日本のことを何も知らないみたいだった。
そりゃあ、単純に私とクオウが無知なだけでお互いの国を知らなかっただけって可能性もあるけど、クオウから聞いたもう一つの話が、クオウ異世界人説の信憑性をかなり高くしてくれた。
クオウのいた世界には魔法があって、貴族は魔法を使って平民を統治してるらしい。
魔法を使えるのは貴族だけで、貴族は平民には出来ない色んなことを出来る。だから貴族は選ばれた人間で、平民は貴族に奉仕するのが当然で、その対価として貴族は領地を守り、発展させ、結果として平民の生活を守る。
選民意識乙、ってかんじ。
クオウがやたらと私に対してキレたのも、この認識の違いからくるものみたいだ。クオウは自分のことを選ばれた特別な人間だと思っていて、私のことを自分に奉仕すべき平民だと思ってるから、当然私は媚びへつらった態度をとるべきだと考えてる。
でも私は、基本的な考え方として人の価値に差はないって教育されてるから、本心は別として建前の態度はお互いに対等で尊重しあおうって感じになる。
そうすると、自分が上だと思ってるクオウと対等だと思ってる私との認識が合わない。で、思い通りにならないからクオウはキレる。
最初から真っ当に話が出来るわけなかったってことだね。
「おおよそ貴様の事情はわかった。しかたがないから一緒に連れていってやる。この私が貴族であったことに感謝するんだな」
クオウから突きつけられてた剣は話の途中でおろされてて、今は行動の制限は受けてない。
お互い似たような状況であることは理解したのか、途中からクオウの警戒度は大きく下がってた。私に対する侮りは上がったような気がするけどね。
「ありがとうございます、クオウ様」
脳内でクオウをボコボコにする妄想をしながら、にっこり笑って素直にクオウの言うことに従う。仲良くしようと思わなければ緊張することもなくて、取り繕った言葉は自分でも意外なほどスラスラと口にできた。
私もクオウの事情はなんとなくわかったけど、だからって大人しく下僕になってやるつもりはない。今は妄想だけだけど、いずれ現実でボコボコにしてやる。
「それと、これに着替えろ。今の貴様はあまりにも見苦しい。仮とはいえ従者の格好がそれでは貴族としての品位が疑われるからな」
「……はい。ありがとうございます」
元々私はTシャツに短パンっていうかなりラフな格好で、防具も買ってなかったからボス戦でかなり服が破損した。下着も破れた隙間から見えちゃってる。
今まで一人だったし、ボス戦が終わって腕もなくなって変な気分だったから気づかなかった。
言われてみればたしかに、見苦しい格好だ。でもだからって、顔を赤らめるでもなく苦虫を噛み潰したような顔で着替えを渡してくると言うのはどうなんだ。そもそも私は従者じゃない。
そりゃあ私の体は貧相かもしれないけど、健全な男としてもっと正しい反応があるんじゃなかろうか。
まあ、こんなところで襲われるのも嫌だからどっちかって言ったら興味もたれない方がいいんだけど。
私が何も言わなくても、クオウは後ろを向いたのでお言葉に甘えて渡された服に着替える。傲慢ではあるけど紳士的な部分もないわけではないようだ。
っていうか、腕が一本だと凄い着替えづらい。手伝ってくれないかな……。無理か。
渡された時点で何となくわかってたけど、着替え終わって全身を見てみると、まさに魔術師のローブと言った感じの服だった。上下が一体になってゆったりしていて、フードが付いてる。丈は足下すれすれまであってちょっと動きにくい。
クオウの世界の魔法使いは貴族ということだけど、こんな日本人がイメージするような服装がスタンダードなんだろうか。
着替えが終わったことを告げると、クオウはとくに私の方を見ることもなく、行くぞと言って次の階層への扉を開いた。
私も立てかけていた杖を掴んでそれに続き、光の奔流に飲み込まれた。
相性はあまりよくないみたいですね




