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ガチャ16 マッチング

 痛む体に鞭をうって、なんとかポケットにしまってたポーションを取り出そうと試みる。

 杖を握っている右手は動かせるけど、左手は動かせそうにない。しょうがないから一度杖を手放すことにした。


 ポーションは、戦闘の余波で容器の瓶が割れてしまったようで、割れた容器の破片だけが残ってた。ズボンはそもそも流血で濡れてるからどのタイミングで容器が割れたのかはわからなかった。

 仕方なくスマホを取り出してストックのポーションを顕現化させる。普段だったら勿体ないとか思うところ何だろうけど、今は全身痛すぎてそれどころじゃない。


 顕現したポーションを無理矢理浴びるように飲み干すと、全身に広がる痛みは嘘みたいに消えていった。体の傷も治り、普通に動かせるようになった。


「痛かった……、ううぅ……、死ぬかと思った……」


 さっきまでの戦いを思い出すと涙が止まらなくなる。どうして私は、あんなに痛くて辛くて苦しかったのに最後まで戦えたのか今考えるとわからない。

 あふれ出る涙を左手で拭おうとして、気が付く。


 あれ……? おかしいな? 左手が動かない。っていうか、感覚がない……?


「ひぃっ!?」


 自分の左腕があったはずの場所を見て、私は思わず声をあげてしまった。

 肘から先がない。切断面が綺麗にふさがっていて、まるで最初からそうだったみたいになってる。


「ど、どこ? 私の左手は?」


 戦闘中に引きちぎれたならどこかに落ちているはず。腕にくっつけてポーションを飲めば治るかもしれない。

 私は涙をこらえて必死に探した。でも、どれだけ探しても私の左手は見つからなかった。


 泣き出しそうだったけど、戦う時のことを考えて気持ちを落ち着ける。


「大丈夫、大丈夫だよ……。私は魔法使いだから、左手がなくても戦える……。戦力に変化はない……」


 そうだ。戦えるなら大丈夫。

 それに、ショップの中級ポーションは欠損のバッドステータスを治すって書いてあった。だから、大丈夫。戦い続けて、お金を貯めれば腕は治せる。大丈夫、大丈夫。


 よし、涙は引っ込んだ。


「これって、宝箱だよね……」


 左手を探し回ってるときに、広場の中央で金色の宝箱を見つけた。その時は腕を探すのが優先だったから開けなかったけど、これはボス討伐の報酬ってことかな?


「カード?」


 宝箱を開けてみると、中には1枚のカードが入っていて、手に取ったら金色に光り輝いて消えちゃった。


 スマホを見たら、案の定取得したカードがスマホに表示されてた。


神剣の勇者ハルト


 レアリティはSRで分類は呪文。呪文っていうのは一回使ったらなくなる魔法カードのこと。だからこのカードは一回こっきりの消耗品だ。肝心の効果は、ショートサモンって書かれてる。

 詳しい説明を見てみると、どうも戦闘中に一度だけ呼び出すことの出来るお助けユニットみたいだった。で、戦いが終わったら効果終了でユニットもカードもなくなると。


 いざという時の切り札にはいいかもしれないけど、一回しか使えない切り札っていうのも頼りない。そもそもどれくらい強いのかもよくわからないし。

 むしろ、これを売り払ってそのお金で色々道具を揃えた方がいいかもしれない。

 試しにショップで買値を確認してみたら、驚くべきことに50万dになることがわかった。

 これは凄いことだ。50万dもあれば眠りも食事も困ることはなくなるし、中級ポーションだって買える。装備もRで一式揃えられる。私の基本的な戦闘力がググッと上昇する。


「でも……なんでだろう……」


 このカードを売ってそのお金で基盤を整える明確なビジョンを描けるのに、そのうえでなぜだかこのカードは売っちゃいけないような気がする。

 なにせ、SRの1回こっきりの助っ人だ。たぶん、いつか私がとんでもないピンチに陥ったときに、それを切り抜けるための糸口になるんじゃないかと、そう思う。


 とりあえず、判断は一旦保留することにした。

 実際左腕がなくても戦闘ですぐに困ることはないだろうし、せっぱ詰まった問題じゃない。

 これから先どうしても大金が必要で、そのときにまだこのカードを持っていたら、その時に売ろう。


 それに、中級ポーションや装備はともかく、食べ物や簡易結界箱は暴れ坑道狸の素材を売ったお金で十分買えそうだし。


 ひとまずこの日は、このボス部屋でゆっくり休むことにした。この部屋なら多分魔物がわくこともないだろうから。

 まさか、ボスがリポップしたりしないよね?







 魔物がポップしない可能性に賭けて眠ったけど、どうやら賭けにはかったらしい。野営道具一式に含まれていた寝袋でぐっすりと眠った結果、初日から続いていた気だるさはようやくなくなった。MPも全快したし、そろそろ次の階層に進もうと思う。


 次のフロアは一体どんな場所なのか。扉を開けてすぐ目の前に敵がいる可能性も考えて、私は警戒しながら次の階層への扉を開いた。

 開かれた扉からあふれ出す光の奔流。凄く眩しくて、何度経験しても慣れそうにない。目をつむりたくなるけど、それは危ないからなんとか薄目を開けて状況把握に努めた。


 光が収まると、そこは石畳の部屋だった。

 複数の雑魚戦や激しい死闘ですっかり忘れていた怒りと憎しみがぶり返す。


「クソ運営死ね」


 言ってもどうにもならないとわかっていたけど、言わずにはいられなかった。

 もしかしたら、何か運営側からアクションがあったりするかなと思ったりもしたけど、とくになにもない。


「はぁ……」


 今更こんなところですることもない、と言いたいところだけど、どうもこの部屋は最初の部屋とは違うみたいだった。何が違うかと言うと、部屋の中央に石で作られた台座が置いてあって、その台座の上に液晶画面が埋め込まれてる。

 この画面に触ることはクソ運営の思惑通りに動くみたいでしゃくだけど、でも多分このゲームを攻略するうえで必要なものなんだと思う。そういう予感がする。

 だから、嫌々、渋々、しょうがなくではあるけど、私はその画面を触ってみた。


「パーティーのマッチングを開始しますか?」


 スマホから聞こえてくるのと同じ機械音声で、台座の画面はそう読み上げた。スピーカーはないように見えるけどどこから音出てるんだろ?


 パーティーのマッチング。つまり、ここからは複数人で進むことが出来るという理解であってるのかな? もしそうならこれはもう本当に嬉しい。飛び上がりたくなるくらいに喜ばしい。


 一人で戦うことはとても不安だった。帰るために虚勢を張って、折れそうになる度に自分を奮い立たせて、なんとかここまで来たけど、私はもういつ諦めてしまってもおかしくない。

 孤独に死と向き合う不安に苛まれて、心が折れるよりも先におかしくなってしまうかもしれない。立ち上がれなくなってしまうかもしれない。

 でもそんな時、お互いに支えあえる仲間がいれば。励ましあって不安を吹っ飛ばせるような友達がいれば、きっとまだ頑張れる。最後まで歩き続けることができる。そんな気がする。


 私は期待に高鳴る胸を抑えようとして、自分の左手がないことを思い出した。


 もし、このマッチングされる仲間が日本人だったら、左手のない私を気持ち悪いって思うかな?

 人は自分とは違うものを受け入れるのが本当に苦手だから、私は拒絶されちゃうかも……。

 ……それでもいっか。仲良くできればそれが一番だけど、ただ単純に戦力が増えるってことの方が今は重要だよね。


 本当は期待や希望で胸が一杯だけど、自分の心に予防線を張ってからYesを押した。


「マッチングしています。少々お待ち下さい」


 これで、思い通りにならなくても傷は浅くなる。最初から諦めてれば、反動は最小限に抑えられる。

 悪い癖だってわかってるけど、これは私に深く染みついた呪いみたいなもので、今更自分の意志で変えられるようなものじゃない。期待して裏切られるのは辛いから。


「マッチングが完了しました。ルームを統合します」


 気が付くと、目の前に誰かが居た。

 その人は、私が何か反応するよりも速く剣を突きつけてきた。目は口ほどにものをいう、なんて諺があるけどまさにそんな感じで、私を警戒しているんだなってことが視線から凄く伝わってくる。


 金髪碧眼の男性で、年は私より少し上くらいかな。あ、でも日本人は外国人と比べると童顔らしいから、そうするとこの人は同い年くらいなのかもしれない。身長はたぶん15cmくらい上かな。

 どこの国の人なのかまではわからないけど、結構美形だ。とは言っても、乙女的なドキドキは感じなかった。凶器を突きつけれてることへのドキドキが大きすぎる。


 いきなり剣を向けられて恐ろしいのはもちろん、ムカつく気持ちもある。正直内心は罵詈雑言の嵐だ。でも、とりあえず私が大人になって穏便に会話を成立させようと決めた。じゃないとパーティーをマッチングした意味がない。


 あ、でも私英語とか喋れないな。


「何者だ? 名を名乗れ」

片腕なくなってるのに冷静すぎませんか……?

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