ガチャ13 やむを得ぬ決意
なんか、体が痛い……。こたつで眠っちゃった時みたいな……。
っていうかさむっ! エアコンの温度下げすぎたかな。
「う~ん……、え?」
見覚えのない、石畳の部屋。私はそこに横たわっていた。
どうりで体が痛いわけだ。
「どこ、ここ……?」
私は、自分の家で、自分の部屋で眠ってたはず。明日は休みだから、お風呂は朝入ろうって考えて、それで……。
もしかして私、誘拐された? でも一般家庭のJCを家の中から誘拐するとかリスク高すぎると思う。身代金目当てなら私なんか狙わないだろうし、性的な目的なら夜道を歩いてる子を狙うだろうし。
心当たりが全くない。だけど、とりあえず外に出てみることにした。外に出れば何かわかるかもしれないから。
「開かない」
何かに引っかかってドアは開かない。閉じこめられてる? 本当に誘拐されたってこと? それって、やばくない?
「ちょっと! 誰かいないの! 誰かー!」
大声で助けを求めてみても何の反応もない。
そうだ! スマホで助けを求めればいいんだ!
短パンのポケットに手を入れると、自分のスマホが入ってた。あれ? でもそういえば寝る前に枕元に置いたような……? まあ、いっか。ないよりあった方が良いに決まってるし。
「初期設定が完了していません。このまま攻略を始めますか?」
電源を入れたら、急にそんな声がスマホから流れた。初期設定? スマホの初期設定のこと? そんなのとっくに終わってるはずだし……。ていうか攻略ってなに?
よくわかんないけどとりあえずお母さんに連絡しよう。……先に警察かな?
「あれ? なんで!?」
この変な警告画面から移動できない。ホームボタンを押しても画面が変わらない。ウイルス?
よくわかんないけどこういうって適当にYesとか押しちゃいけないんだよね。詐欺とかかもしれないし。
「初期設定を始めます」
Noを押したら画面が変わった。初期設定をやりなおせってことかな? 面倒くさいけどテキトーに終わらせて早く電話しよ。あ、ここって電波通ってるのかな。
名前の入力画面が出てきた。私の名前がカタカナで入ってる。え、こわい。なんで私の名前入ってんの? 電話帳とかからデータ抜いてる?
「あなたが戦う時、何が大切だと思いますか?」
……? え? 何? どういうこと? スマホの初期設定じゃないの? 戦うとき? あー、これなんかのアプリが起動しちゃってんのかなー。
終わるまでホームにすら戻れないとか完全にウイルスだよこのアプリ。開発会社倒産しろ。
あ、おまかせってあるじゃん! どうせ終わったらアンインストールするしこれでいいや。
「初期設定が完了しました」
はいはい完了完了と。えーっとそしたら……。あれ……? メニューにゲーム終了がないんだけど。え、これどうやって終わらせんの? あーもう一回再起動したら直るかな。
直んない。
「ざっけんな死ね!」
なにこのアプリマジでクソ! てかおかしいでしょ!? 再起動してなんでアプリの画面が最初に出てくるわけ? あ、もしかしてこれ犯人が加工したスマホとか?
そりゃそうだよね。よく考えれば拉致って連絡手段そのまま残しておくわけないし。
じゃあなに? これは暇つぶしに持たせてるってこと? クソ! ふざけんな!
それから、一旦スマホはしまって部屋の中をあちこち見たけど脱出できそうな場所はなかった。最後に念のため、もう一回ドアが開かないか試してみる。
「えっ……」
開いた。洞窟みたいな場所が見えた。
そして、何かが居た。私はそれに気がつかれるよりも早くドアをしめた。
凄く嫌な感じだった。大きさは中型犬くらいだったけど、ペットの犬とは空気が違った。化け物とでも言えばいいのかな。とにかく普通じゃなかった。
それにさっきはドアが開かなかったのに、今度はあっさりと開いた。今とさっきの違いなんて、このスマホしかない。
もう一度スマホを起動して画面を見てみる。何かのアプリのホーム画面みたいな、ショップとかガチャとか編成とか、そんなボタンがいくつも並んでる。
よく見ると、画面をタッチするような指示が出てた。
指示通り一度画面を押してみたら、デフォルメされた女神みたいなキャラクターが出てきて何か言い始めた。
「使徒よ、旅立つのです。試練への扉は開かれました。凶悪な魔物を打ち倒し、奈落の迷宮を制覇したそのとき、あなたはあるべき場所へ帰るでしょう」
どんなゲームにもある、ストーリーの説明だった。だけど、私はなんだか嫌な予感がした。
だって、試練への扉は開かれましたって言った。凶悪な魔物って、あるべき場所へ帰るでしょうって言った。なんでこんなに、今の私の状況と一致してるの?
「あ、あはは、嘘、だよね……? こんなことあるはずない……」
凶悪な魔物を倒しって、私がやるの? このアプリで遊べばいいの? ドアが開いたのは、関係ないよね? さっき外にいたやつと戦えってことじゃないよね?
怖い。ガチガチって、震えた歯が音を立てる。立っていられなくなる。
嘘だ。こんなの嘘だ。嘘だ、嘘だ、嘘だ!
「帰してよ! 家に帰して! お願いします! 帰してください! 誰か! 誰かいませんか!? 助けて! 助けてください!!」
声がかれるほど叫んでも、何も変わらない。私は薄暗い絶望の中で、泣きわめいた。だけどそんな元気もいつかはなくなる。それは何の意味もない、無駄な行為だった。
・
ドアから出られないまま、7日経った。
お腹が空いた時、ショップで食べ物を買ってみたら実際にそれが出てきた。だから飢え死にしなくて済んだ。でも気分はさらに落ち込んだ。
だって、食べ物は何もないところにいきなり出てきた。こんなの普通じゃない。つまりそれは、この部屋の外に居たあれが、魔物とかいう敵だってことの証だから。
戦わなければどうしようもないっていう現実を、突きつけられたような気がした。
丸一週間、絶望に包まれながら考えてた。正直、ずっと怖いとか帰りたいって気持ちや、悪い想像ばっかりしちゃってまともに考えられなかった。でも一つわかったことがある。
私は今、このスマホの中にお金を持ってるけど、このまま食べ物を買い続けてればいつかはなくなっちゃう。そうしたら、この部屋で籠城することも出来なくなる。
それが私のタイムリミット。弱虫で、後ろ向きな私は、ただ飢餓の果てに朽ちていくだけ。
だから決めた。虚勢を張って、決意した。
この部屋を出る。魔物を倒して、迷宮を制覇して、家に帰る。日常に帰る。
それに普段から考えてたことだったんだ。特別な私は、何かがあれば凄い人になれるって。その機会が今は巡ってきてないだけだって。
ポジティブに考えれば、これはまさにその機会だ。だから私は、このクソッタレなゲームを作った運営の意図に乗って、そのうえで利用してやる。私という人間の糧にしてやる。特別な、凄い人間になってやる。
気が狂いそうな孤独。喚きだしそうな恐怖。全部を抑えつけて、私は自分に言い聞かせる。
お父さん、お母さん、今までごめんなさい。
私、自分でもわかってた。いつも悪いのは自分で、誇れることも何にもなくて、自分に自信がなかった。だから虚勢を張って、嘘で塗り固めて、自分を守ってたんだ。
本当はみんなが羨ましくて、妬んでた。だけど、どうせ自分には手に入らないからって諦めて、逃げてたんだ。楽な方に逃げてたんだ。
本当にどうしようもない、馬鹿で頭空っぽで、何にもわかってないのは私だった。
でも、ここから帰ることが出来たら、ちゃんとする。真っ当な人になって、友達も作る。
お父さんやお母さんにとって、自慢の娘になってみせる!
そうだ、だから踏み出せ私!
怖い
今、ここで進めなくちゃ、きっともう死ぬまで進めない!
戦いたくない
ここで震えて終わりを待つだけになる!
死にたくない
ドアを開け!
ドアノブを握る手が震える
逃げるな!
怖くても!
戦いたくなくても!
死にたくなくても!
震えていても!
逃げ出すな!
前にしか道はない!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
他の誰でもない、自分自身の背中を押すために、吼える。
私は、その一歩を踏みだした。
先が思いやられますね。




