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ガチャ10 第五階層

 結局、レベル7から8まで上げるのには当初の予定通り丸二日かかった。

 狸人を倒すスピードは上がったが、そもそもこの階層に長居することになった原因はエンカウント率の低さにある。そこが改善されなかった以上は、劇的に予定が繰り上がることもないということだ。


「ん?」

「どしたん? はよ行こうや」


 次の階層への扉を開こうとしたのだが、ガチッと途中で何かに引っかかるような音と、聞き覚えのある電子音が響いた。扉は開かない。

 つい最近似たような状況があったなと思いつつスマホを見てみると、案の定警告が出ていた。


「扉の先に強大な気配を感じる。扉を開きますか?」


 機械音声で告げられた内容は要するに、この先ボス戦だけど大丈夫か? 何か準備しなくていいか? ということだった。

 チュートリアルにしては結構長いと感じていたが、たぶんこのボスを倒したら終わりということなんだろう。


 それほど心配することはないと思うが、一応ポーションを飲んでHPを満タンにしておく。それから、すぐに使えるように顕現したポーションをポケットに突っ込む。

 準備と言えばこれくらいか。


「新しいスキルは取らんくてええんか?」

「今は必要ないからな」


 ないかあるかで言ったら、そりゃあスキルはあった方が良い。だからデブ猫がスキルの取得を確認したのも当たり前と言えば当たり前の話だ。


 レベルアップすることでスキルポイントが付与されることには、最初のレベルアップの時に気が付いていた。厳密に言えば、確信を持ったのはレベル3になった時だが、どうやらレベルが1上がることに50ポイントが付与されるようだ。

 初期設定を終えてから、俺は一度もスキルを取っていないしガチャも回していないため、現状で350のスキルポイントを保持している。Nスキルなら7つ、UNなら3つ、Rでも1つはスキルを取得出来る。これだけ選択肢があれば、探索や戦闘も楽になるスキルを得られるだろう。


 しかし俺はガチャを引きたい。

 だったらレアガチャを回せば良いと思われるかも知れないが、ソシャゲを一つでもやったことがある紳士淑女のみんなならちょっと考えればわかるはずだ。

 そう、ガチャには必ずと言っていいほど、10連ガチャという売り方がある!


 10連ガチャとはその名の通り、10回分の対価をまとめて支払ってガチャを10回引くことを指す。それだけならば、単発でちまちま引くの変わらないと思うだろう。

 しかーし! 10連ガチャの凄いところは、必ず何らかの特典があることなのだ!

 例えば、10連ガチャを引くとSR以上1枚確定とか、10回分の対価で11回引けるとか、とにかく単発で10回引くよりも圧倒的にお得!


 ガチャあるところに10連ガチャあり。これはアカシックレコードにも刻まれた揺るぎなき真実。であれば当然、このゲームのガチャにも10連ガチャはあるということになる。

 初期設定の時には出てこなかったが、レベルアップでスキルポイントを手に入れたときに見てみたらいつの間にか10連ガチャの項目が増えていた。特典はSR以上1枚確定。


 俺は初期設定の際、10連ガチャがないことを疑問に感じていたが、この対応は素晴らしいと讃えざるをえない。


 ソシャゲーマーとして、10連ガチャがあるのに単発で引くなどということがあっていいだろうか? いやない。

 もしもチュートリアルの時から10連ガチャの存在を知っていた場合、俺は単発ガチャすら引かずに戦いを始めていたかも知れない。

 今思えば当然危険で愚かしい行為だが、10連ガチャを目の前にした俺は正常な判断を下すことなど出来なかっただろう。まさしく今の俺のように。


 普通に考えて、2000ポイント、すなわち40レベル分のスキルポイントを博打に使うなど頭のおかしい行為だ。SR以上が確定しているとはいえ、それがスキルになるかもわからないし望んだ物が出るかもわからない。2000ポイントで方向性を見据えて堅実に強化した方が良いに決まっている。

 だがそれでも、俺に10連ガチャを諦めるという選択肢はない。だから俺はこのさき、Lv41になるまでは一切スキルの獲得をせずに戦い続ける覚悟を決めている。


 たかがガチャ、されどガチャ。


 ガチャ中毒者には譲れない一線がある。


「難儀な病気やなぁ」


 呆れた様子のデブ猫は無視して、俺はYesを選択した。







 意図したわけではないが、現在俺は攻撃力特化のキャラになっている。他のステータスも、このチュートリアルにあっては特別に低いというわけではないのだろうが、攻撃力だけが異常なほどに特出している。

 では、そんなキャラクターが最も得意とする戦場はなんだろうか? それは持久戦を伴わない一騎打ちだ。


 攻撃は最大の防御という言葉がある。極端な攻撃力で敵を一撃粉砕し、そもそも攻撃させなければダメージを受けない。つまりはそういうことだ。

 いや、実際の意味は少々ニュアンスが異なるが、まあそんなことはどうでもいい。

 とにかく一騎打ちにおいて敵を一撃で倒しうる攻撃力というのは極めて有効なわけだ。


 ボス戦というのは、基本的に敵が単騎であることが多い。中には配下を引き連れていたり、使い魔を召喚したりして集団戦になるケースもあるが、可能性としては精々1割か2割と言ったところだろう。

 今回俺が挑む始まりの坑道のボス、暴れ坑道狸も単騎だった。その時点で、俺の勝利はほぼほぼ確定したと言って良い。


 そもそもからして、チュートリアルのボスである以上UR武器なんてものがなくても倒せる前提で設計されているはずだ。

 そう、だから暴れ坑道狸が神剣アルティマテリカを受けて生きているはずがないと思いこんでいた。


「ぐぅぁッ!?」


 獣のようなうめき声をあげて吹き飛ばされたのは俺の方だった。

 坑道の終着点、広い半球形のスペースの壁に叩き付けられ、混乱と痛みに襲われながらも急いでポーションを飲み干す。


 焦るな。さっきまでは完璧だった。

 暴れ坑道狸は象ほどもある巨体で俊敏だったが、その動作は単調で回避することはさほど難しくない。だからまずは距離を取りつつ行動パターンを把握して、動作の間隙を縫い、俺は神剣で切りつけた。それで終わるはずだった。

 だが、暴れ坑道狸は未だ健在。それどころか攻撃を受けた直後に反撃してくるほどの元気っぷり。


 不可解だが、状況を整理してわかったのは悪いことだけじゃない。

 よく見ると、切りつけた左後ろ足は傷が深く出血も激しいため無傷ではないようだ。それにあの様子ではさっきまでのように暴れ回ることも難しいはず。すぐに追撃をかけてこないのがその証拠だ。


 一撃で倒せなかったのは計算外だったが、その一撃を当てるまでは完全に俺が戦場を支配していた。冷静に戦えば勝てる。


「ユァァアアン!!」


 傷の痛みでふんばりがきかないのか、振るわれる前足の鋭さは目に見えて落ちている。回避するまでもない。


「ヌラア!」


 未だに重くは感じるため万全ではないが、神剣を振るうことができるようになった俺の剣技はすでに一流のそれだ。力の乗っていない前足を受け流すのではなく、切り飛ばす。

 そのまま踏み込み、右後足を切断する。一撃目はただ当てればいいと考えていたから安全重視で深く切り込まなかったが、最初から切断する気で切ればこれくらいは容易い。


「ユゥゥゥンッッッ!?」


 痛みに悲鳴を上げながら崩れ落ちた狸は、それでもまだ光の粒子にはならずジタバタと暴れ回る。

 このまま放置しても流血でいずれは死ぬだろうが、あまり長くこの有り様を見ているのも気分が悪い。

 ジタバタと暴れるせいで近づきづらいが適当にぶつけるだけでもダメージにはなるため、わざわざ急所は狙わずに何度か切りつけると、暴れ坑道狸は光の粒子となって消えていった。


「一撃もらっとったけど、大丈夫やったんか?」


 暴れ坑道狸が完全に消えたところで、物陰に隠れていたデブ猫が桃色の靄をまとって姿を現した。


「HP的には問題ないぞ。すぐにポーションも飲んだしな」


 一応スマホでHPは確認して見たが全快している。飲んだのは下級Lv1のポーションなので、狸の攻撃は3割以下のダメージだったようだ。


「それより、福招き使ったのか?」

「不足の事態やったんやからしゃーないやろ! ご主人が死んだらわいもお終いなんやで!?」

「あー、わかったわかった」

「あいたっ! 真面目に聞かんかい!」


 ニャーニャーと騒ぎ立てるデブ猫だが、まあこいつもこいつなりに俺を心配してくれたのだろう。

 ボス部屋は逃げ道がない。だから桃色の靄をまとう福招きを使ってデブ猫が目立ってしまい、ターゲットにされたら逃げられない。それを避けるために福招きは使わない方針だったのだが、そのリスクを侵してでも福招きを使ったというのは、それだけ俺を心配してくれたということだ。


「悪かったよ。次からは油断しない」

「わかればええんじゃい!」


 口ではそう言いつつもペシペシと尻尾ビンタを繰り返すデブ猫。よほど腹に据えかねたようだ。


 油断。たしかに俺は油断していた。だが、本来であれば油断とはいえない、むしろ当然の認識だったのも事実だ。攻撃力にSSS+の補正を受けている俺でさえ倒すに数回の攻撃が必要だった。ガチャを引いてないやつにあれが倒せるのか?

 それとも、もしかしてこのゲームは俺専用か? 根拠もなく他のプレイヤーがいると思っていたが、俺の能力に合わせてボスの強さが変動したりしてるのか?


「半分正解で半分不正解ですね」


 それは俺の声でもデブ猫の声でもなかった。

 透き通るような、人魚の歌声のようと形容してもなお、その美しさを表すことが出来ない。そんな声だった。

美しいだなんてそんな、それほどでもありますけどね!

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