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創造主 対 救世主

 レッドカーペットの向こう側に、巨大な扉が。


この奥にいる者は、何者なのだろう。エネミーの王みたいな奴がいるのか、それとも……。


「行くぞ、エル」


「え、あ、はい」


「それと――心構えをしておけ」


「え」

 

エルの返事を待つ事なく、僕は扉を開け放ち――玉座を見据える。


 そこには、一人の女性・・がいた。


階段を登った先に一つの椅子とベッドがあって、椅子に腰かけていた女性・・は、僕達二人を見て、笑った。



「お前が、エネミーの王か?」


「いいえ。……一応、王女と呼ばれています」



 女性はゆっくりと立ち上がり、柔らかな言葉で問いに答えた。


「やっぱり、か」


「な――何が。あの方は、アリメント、でしょう!?」


「ええ――エルもそうでしょう?」


 僕とエルの元へ降りてくる女性。エルの手を取り、同胞の来客を喜んだ。


「なぜ、アリメントの貴女が、この城で、生きる事が出来ているのです!? もしやここはアリメントを捕えておく食糧庫!? ならば他にもアリメントが」


「いないわ。今は私と、エルだけ」


 首を振り、僕を見据える女性は、エルと同じく僅かに褐色の肌を有していた。


 年はエルよりも生きているだろう。人間で換算すると二、三十代と言った所だ。


彼女はゆったりとした丈の貫頭衣だが、エルの様に野生で生きる生活をせずに居たからか、非常に清潔感のあるアリメントだった。


「エネミーとアリメントは、繁殖の術を知らないだけで、繁殖をする事は出来たんだな」


「その通りです、地球のお方。私は数匹の選ばれたエネミーと交わり、子を産み、育て、慈しむ者――王女なのです」


「何故アリメントが生まれない?」


「生まれないわけではありませんが、比率としては九対一と言った所です。


 時々生まれますが、けれどここに居ては虚力を捕食されてしまうだけですので、そっと山へ、エネミーに見つかりにくい場所へと、捨てに行きます」


「もしかして、エルも」


「ええ。私が産み、私が名付け、私が山へと捨てに行きました」


 エルは、今まで持っていた価値観が壊されたように、目を見開き、だらりと腕を垂らしている。



意図しては居ないが――先ほどエルへ、彼女のように子を産んだ者を、何と呼ぶかを教えてしまっているから。



「貴女が、私の……ハハ? カゾク?」


「ええ、母です。よく成長し、よく母へ会いに来て下さいました」



 嬉しいと僅かに目を潤わせ、エルを抱きしめる、母を名乗るアリメント。


混乱し、事実をどう受け止めるべきかもわからぬエル。


そして僕も――この事実を受け止めた上で、どうするべきかを悩んだ。



「僕は、エルを連れて、アンタが産んだであろう多くのエネミーを殺してここまで来た」


「彼らもエルを喰う為に必死でした。弱肉強食の世界では、貴方の行動は正しいもの。むしろエルを守って頂き、感謝している程です」


「僕がなぜ地球の人間だと知っている?」


創造主様・・・・に、教えて頂きました」



 大きなベッドの向こう側に。


一人の男が、椅子に腰かけながら、本を読んでいる。


銀の短髪、端麗な顔立ち、皺一つないスーツを身にまとい、優雅にフォードル・ドストエフスキーの長編小説『罪と罰』を読むその男は――



「……成瀬伊吹」


「久しぶりだね、大和」


 

僕と同じパラケルスス。


罪を司る神霊【シン】と同化した、錬金術師だ。



「このミューセルという世界は、お前が作った世界なんだな」


「その通り。俺が設計し、生み出した創作物だ。


 君は俺の司る【シン】が、どんな能力を持っているか、知っているだろう?」



 僕達パラケルススは、錬金術師であり、神さまだ。


【リジェネレイト】を用いて物質を変換させる事に加え、等価交換の法則と物質保存の法則を無視し、ありとあらゆる物を生み出す事が出来る。


しかし僕は、自分の理解している物を生み出す事しか出来ない。


これは、僕に触れている空気中の酸素等を別の物質へと無理矢理変換させて、別のモノへと作り変えているだけに過ぎないからだ。(それでも他の錬金術師には出来ない偉業だが)


そして師匠である菊谷ヤエ (B)も、ドルイド・カルロスも、夜空乱逆も、今は増えた別のパラケルススも。


 事リジェネレイトにおいては僕と同じく、自分の知り得ている知識内でしか、物を生み出す事は出来ない筈だ。



けれど――僕達パラケルススは、リジェネレイトとは別の、自らが司っている【神の力】を行使出来る。



 彼、成瀬伊吹の司る【シン】が持つ神の力は――【破壊と再生】。


どんな物でも、どんな事でも、思い描くだけで、実現する能力だ。



「このミューセルは、何の為に作った?」


「観察かな。オスとメスで交わる事無く、ただ喰い喰われと言う生態を持つ者達がどの様に生き、どの様に絶滅するのかが気になってね。


 しかし、俺の想定を超える事態が発生した」


「エネミーとアリメントが繁殖し出した事」


「その通り。これは俺が想定した事態を超えている」


「僕をこの世界に呼び寄せたのは、何の為だ」


「二つ理由がある。一つは増え過ぎたエネミーをある一定数程までに殺して欲しいという事だが、ここに至るまでの間で成し遂げてくれた。



 そして二つ目が――そのアリメントを殺して欲しい」



 未だにエルの事を抱き締め、頭を撫で、我が子の成長を喜ぶアリメントを指して、伊吹は言った。



「自分でやれ」


「俺は自分の創作物に自分で手を付ける事は好きじゃない」


「僕や師匠を呼んで手を加えてるじゃないか」


「突如として現れる超常な存在に慌てふためく、それも生態だ。まるで怪獣映画みたいにね。


 ――ああ、そう言う意味では、二百年前は失敗だった。


 あの時は次元を移動できるBに、増えたエネミーとアリメントの双方を殺すよう頼んだのだが、彼女は増えたアリメントを殺す事無く、エネミーだけを殺して回った。


 やり直しを要求したら喧嘩になったが、まぁそれはそれで楽しかったよ。


 今年に入ってからはエネミーが自ら地球へと向かうゲートを作り、秋音市に侵略を企てた事もあった。


 あれは楽しかった。君も知っているだろう? 防衛省が人知れず動いていた事を」


「僕に――エルの母親を殺せって言うのか?」


「君はここまで、多くのエネミーを殺してきた。それらは良くて、彼女は駄目だと?」


「無理だ」


「君とも、喧嘩をしなければならない――そう言う事か?」



 罪と罰を閉じ、ベッドへと置いて、伊吹は立ち上がる。


僕もエルと彼女の母を庇うように立つと、エルは僕へ「救世主様!」と声をかけた。



「エル、僕は救世主様って名前じゃなくて……龍大大和って名前なんだ」



 指を鳴らし、僕の周りに大量の火縄銃をリジェネレイトする。


銃口を伊吹へと向けて、放つ。


しかし鉛玉は伊吹へと着弾することは無い。着弾点が伊吹の眼前で逸れ、地面や壁を抉るだけの事。


ただ彼はゆっくりと歩き出した。


その間も、絶え間なく放たれる弾は、それでも彼へ一度も着弾する事は無い。

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