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それは四百年前まで遡る。

「僕は遠い昔、刀鍛冶の家に生まれた」


「カタナカジ……?」


「これを作る仕事って事」


 手に一つの日本刀を生み出してエルへ見せた後、向かい側の壁へ投げ、突き刺す。


「それが大体、四百年前。僕には一つ、特技があった。



 神さまを視ることが出来たんだ」



「神を、視る?」


「うん。地球にはどうやら大量の神様がいるみたいでな。それを視る能力があったんだ。


 僕が視た神さまは【ベルフェゴール】って言う【怠惰を司る神】だった。


 神さまと話し、神さまと遊び、神さまから色んな事を教わった。


 楽しかったよ。人間の友達も居たけど、キリスト教徒だったから殺されたからなぁ。



とある日に、僕の家へ賊が入り込んだ。家にいた親父とおっかあは殺されて、僕も殺される寸前だった。



けれどそんな僕の身体にベルフェゴールが入って、僕に力を与える事により、僕を神さまにしてくれた。


僕は賊を全員殺し、生き長らえる事が出来た」


神――神霊は概念である。


概念は本来目に視えるモノでは無い。


 それが人に視える筈もない。


しかし僕の目には、視る為の力があった。


なぜ僕にあったのかは分からない。けれどそうしてベルフェゴールを目にしていて、分かった事がある。



彼は、概念であるものの、生きている、と。


初めて僕と出会った日、彼は涙を流した。



『ああ、嬉しい。僕を見つけてくれたんだね、君は』



 人の形をして、人を慈しむ神さまは、人に存在を知られる事は無い。


それがどれだけ酷い事なんだろう。


誰かの幸せを想う分だけ、その者は報われるべきなんだ。


でも、彼は人間を愛するけれど、人間に認識して貰えない。


「好きだよ」と言っても、人間は彼の言葉に気付く事は無い。


「嫌いだ」とうそぶいても、人間は彼の想いに気付く事は無い。



それが僕には、悲しい事に思えたから。


彼と友達になって、彼の愛情に報いる為に、努力した。


……けれど、そんな彼が、僕を守る為に、僕の魂と同化して、僕に力だけを残し、消えていった。


僕は家族と、友達を、同時に失ったんだ。



 **



「神さまになると、死ねなくなるんだ」


「死ねない……ずっと生き続けるって事ですか?」


「うーん、そうだな。一応死ぬ方法もあるけど難しい。同じ神さまに殺されるか、司ってる概念が無くなるか。


 でもベルフェゴールが司るのは【怠惰】だから、この概念が人間から失われる事は、決してない。賭けてもいい」



 僕は、死ぬ事が出来なくなった。


キリスト教信仰の取り締まりを行う幕府の犬にキリスト教徒と嘘を付き、刀で叩き切られてみた。


――けれど、痛くも無ければ痒くもなかった。


叩き切られて、首も刎ねられた。けれど僕は喋り出し、首を持って、繋げて、尚も「殺してくれ」と懇願する。



けれどそうすると、周りの人々は恐れ慄き、僕から離れていった。


僕は周りから拒絶され、誰も住んでいない山奥へ閉じこもった。


そんな時、僕の事を見つけて声をかけてくれたのが、あの菊谷ヤエ (B)だった。


『神霊と同化し、死ぬ事の出来なくなったクソガキか』


『何だ、アンタ。僕を殺してくれるのか? お願いだ、殺してくれ。


 家族を亡くし、友が消えて、誰もが僕を恐れている。もう、生きている価値なんかない』


『お前の様な力の使い方も分かっていないクソガキを殺した所で、私にも一銭の価値がない。それより暇なら、私の仕事を手伝わないか?』


『怖くないのか、アンタ。僕は、死ぬ事の出来ない化物だぞ?』


『違うね。お前は【パラケルスス】――神霊の力をその身に宿した、錬金術師のいただきさ』



 菊谷ヤエ (B)は、秩序を司る神霊【コスモス】と同化した、パラケルススと呼ばれる錬金術師の頂に立つ女だった。


パラケルススは、錬金術師が皆目指す、至るべき場所。


研究の為に死ぬ事の無い肉体を有し、神様としての能力を加味して、【リジェネレイト】を使役する上で絶対である、物質保存の法則と等価交換の法則を無視する事の出来る、何でもありの存在だ。



僕は、彼女の弟子となり、彼女の仕事を手伝った。


錬金術はその時代から五十年くらい前にロンドンの学者が発見し、人知れず発展していった超技術で、体内に回路を有している必要があったが、僕は都合の良い事にその回路を有していた。


僕は師匠から錬金術を学び、様々な仕事をこなしていくと、彼女から生きる上で必要な知識も学んでいった。



『大和、五十年位の周期で顔を作り変え、苗字を変えろ』


『ああ。老けないって思われると面倒だしな』


『そう。あと死なないって事を周りに言うな。戦争に巻き込まれれば兵器として扱われるぞ。私も経験がある』


『あるのか』


『使おうとしてきた奴らを皆殺しにしてやったよ』


『因果応報って奴だな』



 こんな風に彼女と共に過ごす事で、僕はパラケルススとして生きる事に慣れて、彼女の元を離れた。


今でも時々交流し、その都度別のパラケルススも紹介された。



 混沌を司る神霊【カオス】と同化を果たした錬金術師、菊谷ヤエ (A)。


知識を司る神霊【メーティス】と同化を果たした錬金術師、ドルイド・カルロス。


全を司る神霊【八百万】と同化を果たした錬金術師、夜空乱逆。



そして――罪を司る神霊【シン】と同化を果たした錬金術師、成瀬伊吹。


 彼とは色んな事を話した。


高度経済成長期の日本で喫茶店に入り、師匠と伊吹と僕の三人で薄いアメリカンコーヒーを『まずい』と言いながら笑った事もある。



 そんな彼が、僕へこう問うた事もある。


『君は死ねなくなって、どう思った?』


 僕、伊吹、師匠、ドルイドの四人で麻雀を打っている時に伊吹が聞いてきたので、僕は吸っていたタバコの灰を灰皿に落しながら答える。


『こんなに辛い事かって思ったよ。死にたかった』


『死ぬ事は罪だよ。ポン』


『生き続ける事も罪だと思う』


『そもそも、人が生まれる事も罪だ。


 ――破壊は罪である。万物全ては本来あるべき形を保つべきであるから。


――しかし再生も罪である。万物全ての形は朽ちるべくして生まれ出るものであるから』


『よく、分からないな』


『伊吹。それロン』


『むう、Bには麻雀で勝てんか。Aにしてくれないか?』


『Aが麻雀理解していると思うのか?』


『思わない。


 ――大和、簡単な事なんだだよ。


万物は生まれを祝福されるべきだ。だが、その生まれ出る者が生きるためには、何かを壊さなければならない。


 例えば木々を伐採し、山の形を変え、都市を作るように、人や生物の営みは、こうして破壊と再生に満ちている。


万物全ては、罪によって成り立っているんだよ』


『じゃあお前は、人が滅ぶべきだと思うのか?』



『言っただろう、死ぬ事も罪だ。無駄に命を枯らす必要も無い。


 しかし、絶滅する時が来るのならば、俺はその姿も、最後まで見届けよう。


 俺は、そんな罪深い世界を愛そう。どんな罪も、俺が受け止める』



『……伊吹』


『何だい?』


『それ、ロン』


『むう』

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