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ちなみに作者は乗った事はありません。

 エルと別れた僕はミューセルの世界を走り回っていた。


何で? 


KawasakiのNinja400で。




クラッチレバーを握りながらチェンジペダルを押し下げ、ギアを一速に入れる。


 アクセルを捻って回転数を上げると、クラッチレバーを少しずつ離し、Ninja400が緩やかに動き出すので、2m位走ったらクラッチレバーを完全に離し、周りを見渡した。


全体的に生い茂る草々が邪魔ではあるが木々が僅かな事も幸いし、バイクでも走りやすい状況である。


エルの教えてくれた通り、道を真っ直ぐに進んでいくと、明らかにそこだけ文明レベルの違う城が見えたので、クラッチを握りチェンジペダルを上げ、二速へ。


 加速した事を確認し三速、四速へとシフトアップしていき、最終的には時速百二十キロをキープしたまま駆け抜けていく。


いやNinja400って、まず外観がカッコいいんだよ。


 僕が毎回これを作るときは完全に黒にカラーチェンジしちゃうんだけど、基本あの色が良いよね、黒と緑の彩色。


 爽快な加速も良いし、何より音も良い。カワサキ万歳――



何て思っていたら仁王立ちしながら立ってた人を思い切り引いた。



「やっべ」


 思い切り腹部に追突したので、死んでると思う。これでアリメントだったら伊吹に「君は何しに来たんだ」とか言われそうではあったが、不幸中の幸いかエネミーであった。多分。


「ぐ、う……!!」


 おお生きてた。人なら確実に死んでいるのにエネミーって頑丈!


「ごめん、喋れる?」


「な、にを……!」


「お前エネミーだよね? アリメントじゃないよね?」


「ほ、誇り、高き、エネミーだ! アリメントなんぞと、一緒に、するな……!」


「よかった。じゃあ死んで」


「えぇ!?」


 頭部に火縄銃の銃口を押し付け、引き金を引いて銃弾を撃ち込む。それで死んだ事を確認して冷や汗を拭う。


「気を付けよう、安全運転」


 僕は自分自身を戒めながら、再びNinja400に跨り、加速と共にその場から離れていった……。


**


と、ここまではおふざけモードではあったものの、真面目にエネミー退治に従事していた事も記さねばなるまい。


城へと続く道を一直線で駆け抜けながら、襲い掛かって来るエネミーの軍勢は千以上あっただろう。


しかし、僕はそれで止まる事は無い。奴らを殺す事も止めやしない。


Ninja400で駆け抜けながら一瞬アクセルを離し、指を鳴らしてバチリと音を鳴らすと、僕に追従しつつも空中で作られる火縄銃群。


 それらを一斉に放出しながらアクセルを捻り、加速を増す。


崖から跳ぶ。しかしそれは身投げでは無い。


 空中の酸素を固める事で、空気の道を作り出し、崖の下まで駆け抜けると、そこにはエネミーの団体が。


 身体を捻りながらブレーキをかけ、タイヤでエネミーの数体を弾き飛ばすと、僕は両手に火縄銃を構え、引き金を引く。


放たれる鉛玉、着弾し死していくエネミー達。僕は周りに点在しているエネミーの殲滅を確認すると、再び城へと駆け抜ける。


既に二十キロくらいは走っただろう。ようやくたどり着いた僕はNinja400に触れて消した後、木で出来ていた門に触れて瓦解させ、中へ突入する。



城は中世ヨーロッパの城にも似ている。


 ここだけまるで人の意思が感じられるようで、僕は少々疑問を感じたものの、しかし歩き出す。


襲い掛かるエネミーには鉛玉をプレゼントし、逃げるエネミーにはコンバットナイフを頭部へ投げる。


見つけたエネミーを片っ端から殺していく僕の姿を、彼らはどう思っているのだろうか。


「あ……あく、ま……」


 悪魔と言う概念はあるらしい。だが僕は悪魔では無く救世主らしいから、返事をする事無く鉛玉で答える。


 僕が進んだ道は、レッドカーペットの敷かれた道である。RPGならば玉座がありそうな道だったし、エネミーの王でもいるかもな。



「と、止まれッ!!」


 そんな僕の前に、一人のエネミーが姿を現した。ホントにRPGのエンカウントってこんな感じかもな。


手に持つ火縄銃を構えようとすると、そのエネミーは「待て!」と声を張り上げた。


「交渉をしよう」


「交渉?」


「そうだ」


 少し興味を持って、僕は火縄銃を一度下し、エネミーを観察する事とする。


先ほどまでダイジェストで殺してきたエネミーだったが、彼らにはいくつか特徴がある。


多く存在したのは、蛇の様な鱗と狼の様な牙と爪を持つタイプだった。


 群れで行動するタイプなのか、基本数体で僕へ襲い掛かってきた事を覚えている。


続いて完全に人の形をしたタイプだ。これは少々手強かった。動きの速い者、堅牢な体で鉛玉が貫通しなかった者もいた。


眼の前にいるのも、完全に人の形をしたタイプだ。


 肌は少々黒かったが、しかし東南アジア系の人種です、って自己紹介されれば見逃してしまいそうな感じである。



「これを見ろ」



 彼が左腕を壁に向けて突き出すと、何か黒い門のような物を生み出した。師匠の様な技術を持ってんな、コイツ。


おそらくアレは、空間を操作するタイプの能力だ。次元を捻じ曲げて別空間へと繋ぐ門を形成する事が可能なのだろう。



――その彼が、空間から取り出した人物がいた。



「きゃ、っ!」

 

一人の少女だ。肌は健康的に焼け、身長はボクより少し小さく、その華奢な腕を、エネミーに掴まれていた。


「エル」


「きゅ、救世主、様……!?」


「お前がさっきまで、このアリメントと一緒にいた事は、知ってる。どうなっても、いいのか」


 エルの胸をがしりと掴んだエネミー。


それは性的な意味を持たない。持つ筈が無い。


 繁殖を知らぬエネミーが、食糧である筈のアリメントに、欲情などする筈がないのだから。


故にその胸に手を当てた行為は、エルを殺すと言う意思表示だ。胸をもぎ、心臓を潰し、蹂躙するぞ、と。



「わ、分かったか……? もし、この場から立ち去れば、このアリメントは無事に返してやるッ! だからこの先には」


「おい」


「……何だ、地球人」


「エルに手を出したな。



 お前は――念入りに殺してやる」


 

パチンと指を鳴らした瞬間、巨大な大鎌が、エルを抱く身体の後ろから投擲され、引き裂いた。


突然の事で何が起こっているか分かっていないエルへと近付いて「目を閉じていろ」と耳打ち、真っ二つに裂かれた身体へ、両手に握った日本刀を何度も何度も振り込んで、身体を細切れにしてやった。



肉片が周り一面に広がっているので、僕は律儀に目をつむっていたエルの手を取り、僅かに距離を取ってから、彼女へ「もう大丈夫だ」と声をかけ、廊下に腰を下ろさせ、隣に座る。


「あ、と……その」


 エルは、何が起こったのか理解していないと言う様子で、しかし僕の邪魔をしてしまったと言わんばかりに、申し訳なさそうなの表情を浮かべていた。


「バカだな。エルが気にする事じゃない」


「た、助けて頂いて……あ、ありがとう、ございます」


「救世主様だからな」


 彼女の頭を撫でる。笑みがこぼれる。


「あの、救世主様」


「何だ、エル」


「どうして……私を助けて下さったんですか?」


「さっきも言ったし、お前が言った通りだ。救世主様だからな」


「嘘です」


 彼女はそう言い切った。


「何故、嘘と?」


「貴方は、非常に冷徹な人だと思います」


「そうだな。そうであった方が好ましい生き方をしてきた。これからもそうする」


「ならば、ただ使命を果たすだけならば、私の事など気にせずに、ただあのエネミーを殺せばよかっただけの事。


 私を守り、惨たらしい光景を見せぬ様に、気を使って頂く必要も無いはずなのです」


「ああ、その方が効率はいいだろう。あんな輩を念入りに殺した所で、一銭の価値も無い」


「だからこそ伺いたいのです。貴方はなぜ、私の事を助けて下さったのです?」


「お前たちアリメントには、家族という概念はあるか?」


「カ、ゾク……?」


 ない、か。そりゃそうだ。


命は神が作り出すもので、喰われる為だけに生まれ、逃げ存える事に対して必死にならなければ、ただ生きる屍となる彼女達アリメントにとって、同胞と言う価値観はあっても、家族などと言う価値観はあるまい。


 ――ならば話すとしよう。


 ――普遍的な高校生となった僕に、何があったかを語る過去編を。

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