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異世界で出会った少女が妹にそっくりなので胸を揉んでみた。

 と、ここまでは異世界に転移されてくるまでの内容だ。前置きに付き合ってくれてありがとう。


僕も正直長いお話というのは苦手なので、君たちがここまで付き合ってくれた事に感服する。


「……さて」


 ここはどこだと観察する事にしよう。


まずは現在いる場所だ。生い茂る林にも似た大自然の真っ只中だが、周りにある草木は見た事も無い植物ばかりで少々驚きを隠せなかった。人食い花とかいない事を祈りながらも、少し意識を集中する。


……酸素濃度が日本よりも十二パーセント程高い。気温も大体四十二度と言った所で大変暑くはあるが、湿気が無いカラッとした暑さだからか、そほど苦に感じることは無かった。


太陽と同じ役割を果たす恒星は目に見える範囲で二つ。暑いのはこれが原因だろうか。


ひとまずここまで分かっている状況を確認すると、まぁまぎれも無く異世界にやってきた、という事だけだろう。


「しかし、なぜ。何の為に」


「くく、落ち着いてるじゃないか」


「落ち着いてはいないけれどな。アンタの仕業か?」


 考え込んでいると、背後から女性の声が聞こえた。振り返りながら確認するも、やはり僕の知っている人物であった。


女性の名前は菊谷ヤエ (B)。茶色の髪の毛を後頭部でひとまとめにし、それを結い上げている。


 スーツを着込んだバリバリのキャリアウーマンみたいな恰好をしているが働いていない。無職。ノンキャリアウーマン。


彼女は元々僕の師匠で、初めて会った時はそこそこに世話をかけさせたものだが、今となっては古い記憶だ。


「私の仕業では無いよ。多分伊吹の仕業だ。私はお前が気になったから、様子を見に来てやっただけだ」


 彼女が言う伊吹とは、僕と彼女が共通認識している成瀬伊吹という男の事だろう。


 飄々としたイケメンで僕の嫌いなタイプである。一緒に麻雀する位の仲だ。最後に会ったの何十年前だったか。


「ここは?」


「私たちの居た世界からすれば、異世界。【ミューセル】という名で、大体四千年近い歴史を持っている」


 彼女から引き出した情報は、以下の通りだ。


「住んでいる種族は?」


「エネミー種と、エネミーのメスにあたるアリメント種が存在する。


 五百年位前にはヴァンパイアなんて種も居たが、エネミーとの生存競争に負けて地球へ逃げたよ」


「文明は」


「無いに等しいな。基本的にエネミーがアリメントを捕まえ、食す。ただそれだけの世界さ」


「怖いな、食肉種か?」


「いや、喰らうのはエネルギーだけさ。人間にもあるが、メスが多く持つ【虚力】……感情を司るエネルギーがあって、エネミーはアリメントからこれを捕食しているに過ぎん。


 一度捕食されれば回復の見込みはほとんど無く、現状多くのエネミーが、アリメントを狩り過ぎてしまった」


「繁殖は」


「術を知らん。アリメントは自己に芽生えた虚力だけで生存が可能となり、エネミーも一度虚力を捕食すれば五十年は生存できる。双方共に平均寿命は五千年あると言われている」


「生殖を行う理由がなかったわけだ、なんて歪な生態だ。所でアンタはどうしてこの世界の生態をそこまで熟知してるんだ?」


「私は【秩序を司る女】だからな。二百年位前、お前と同じくここに呼ばれ、この歪な生態をどうにかしてやった」


「その時は何したんだよ」


「エネミーの数が増加傾向にあったのでな。全体の八十パーセント位エネミーを抹殺してバランスを取った」


「おい秩序はどうした」


「しかし今回、伊吹はどうして私では無くお前を選んだんだろうか。まぁ私は楽出来るし一向に構わんが」


「伊吹が何を企んでいるかなんて、僕には関係のない事だ。理沙のカレーを一口食わせてやるから、元の世界に戻してくれ」


「別に戻してやってもいいが、すぐに呼び戻されるだけだぞ。伊吹がこう言う時に執念深いのはお前も良く知っているだろう」


「チッ」


 ひとまず、情報はある程度集められたので、まとめる事にしよう。


この世界にはエネミーとアリメントという種族がいて、喰い喰われの関係で成り立っている。


 二百年前にはエネミーの数がヤバい事になっていたので、師匠が八十パーセント程ぶっ殺してバランスを保つ恐怖政策に乗り出した、と。


で、二百年の歳月を経て、僕はここに呼ばれた。理由は未だ不明、と。こんな所かな。


「伊吹はどこで何しているんだ」


「さてね。私はもう行くぞ。こんな中途半端な温度のサウナなんぞに長らくいる理由も無い」


「力貸してくれないのかよ」


「お前ひとりでどうにかできるだろう。それとも早く帰りたい理由でもあるのか」


「あるさ。今日は理沙がカレーを作ってくれるんだ。怪我しないように見ていなければ」


「……お前は変わったな。そこまで人を愛する奴では無かったはずだが」


「人は変われるさ。アンタも」


「お前は生きてきた人生が短い。私は長く生き過ぎた。変わる事なぞ無理だな」


 師匠はポケットの中に入れていたタバコの箱を取り出し、一本口に咥えた上で、指を鳴らす。


火花が小さく舞い、タバコに火を灯す。煙を肺まで吸い込んだ後に吐き出した彼女は、手に持ったタバコの先で円を描く様にして、そこに【門】を形成した。


「では、後は任せる」


「任されたくない」


「伊吹に言ってやれ。――あと、龍大って苗字あんまりカッコ良くないから、次は田中とか解り易い苗字にしろよ」


「……いや、この苗字、実は気に入ってるんだ。後百年はこのままでいるよ。師匠はいい加減苗字変えた方が良い」


「そうか。達者でな」


 門をくぐるようにした彼女の姿は、もう見えない。


フッと息を吐いて、まずは情報を集めるべきとした僕は、そこで一つの視線に気が付いた。


それは木々の影に隠れて俺を見ている。人の形をした者という事は分かるが、今の所ソイツがエネミーなのかアリメントなのかは分からない。


 だが感じた所、交戦意思のような物はない。ただこちらの正体が分からずに怯えていると言った所か。


丁度良い、コイツから情報を聞き出すとする。


僕は強く地面を蹴り、視線を送っていた人物の所まで、跳ぶ。


背後に着地し、何が起こったか分かっていない人物の口を塞ぎ、地面へ伏せさせた。


「ミュエルッ」


「流石に言語は違うか。ちょいと失礼」


 頭を触り、無理矢理仰向けにさせて、それの顔をしっかりと捉えた。



――理沙にそっくりの少女だった。



勿論、理沙本人では無い。


体格は小学三年生である理沙とは違い、僕と同じ位の年に見える。身長もボクより少し小さい位だ。


照らされる二つの太陽を受けた肌は健康的に焼けていて茶色いし、胸も大きい。 (もみもみ)「ミシャッ! ドシュエッニャ!?」


 それにまだ言葉は分からないが、理沙が僕に対してこんなにおびえる筈もない。


 ……ちなみに胸を揉んでみたのは、観察の為であって理沙の成長後を鑑みて興奮したわけじゃないよ? ホントだよ?


「ごめんな、理沙に似た子。もうちょっとで――と、ハイ言語解析完了」


 身体を解放すると、彼女はそそくさと僕から距離を取り、再び木々の後ろに隠れてしまった。


涙ながらに怯えている彼女へ、僕は後ろめたさもあって声をかけた。


「リュナミニェ」


「シェ……っ!?」


「リュナミニェ、ソミャルチャ、ルチャ【コウコウセイ】」


「【コウコウセイ】ミェナリ……リ、リチャルチャ、ルシュォ!? ミャルニャエネミー!」


 あ、ごめん。何言っているか分かんないと思うし、少し前から完全日本語吹替版で行くぞ。CVは皆の大好きな声優さんか俳優さんで構わない。僕の声は玄○哲章さんがいいな。


「ほ……本当に、敵意は、無い、と?」


「その通り、敵意は無い。僕は何の変哲もない高校生だ。敵意などある筈が無いんだ」


「コウコウセイ……という言葉は分かりませんが、で、でも貴方がエネミーではないという保証はないでしょう!?」


「保証は確かに無い。だが信じて欲しいんだ。僕は地球という世界から、このミューセルに飛ばされてきた。何か使命があるようなのでさっさとそれを解決し」


 言葉の途中で。


彼女は目を見開き、先ほどまでの怯えた表情を一変させ、俺の元へ駆けよってきた。


「チキュウ!?」


「あ、ああ」


「では貴方は――救世主様なのですね!?」


「……は?」


 言語解析は終わって彼女の放つ言葉は分かる筈なのに、言葉の意味が理解できなかった。

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