無人町のおはなし⑤
○×県△△町某所。
「…ひっく、ぅ……ぐしゅ………ぅぅぅ、」
"静かな住宅街"に真李のすすり泣きが響く。
手に持っていた懐中時計を床に投げつけた真李は、後ろで何かを言っている母親を無視し、家を飛び出した。
夕日に照らされている住宅街の中、一人トボトボと俯きながら歩き、時折流れる涙を手で拭う。
今までも何度も"お姉ちゃんだから"と言われ、妹が優先になっていた。真李はたまに不満になる時はあったが、納得はしていたのだ。
しかし、懐中時計は真李の一番大切な物だったので、どうしても譲りたくなかった。それを妹は真李から奪い盗り、勝手に自分の物にすると言った事で、今まで溜まっていた小さな不満が爆発してしまった。そして、母親から言われた言葉もそうだが、一番真李が堪えたのは、自身の手で妹を無意識に突き飛ばした事だった。
「ぅ、ぐぅぅ……ごめぇ…ごめ、なさ……ひっく……ぅぅ」
真李は歩みを止め、その場でしゃがんでしまう。
陽が徐々に沈んでいき、陰が濃く伸びていく。
その時、真李の脳裏にまた"あの声"が過る……──────
『黄昏時に気を付けてね ────────』
はっ、と顔を上げた瞬間、真李に吹き飛ばされそうな程の突風が襲って来た。
後ろに転びそうになり咄嗟に方膝を付き、腕を顔を守る様に交差させ、眼を強く瞑る。
暫くして風が落着き、真李はそぅっと眼を開き前を見ると ───────────
そこには、先程までなかったはずの"真っ赤な鳥居"があった。