無人町のおはなし④
○×県△△町某所。
夕日の光に照らされている住宅街の中、陰を揺らしながら歩いていた"少女"が、何かに気が付き後ろを振り向く。
「……………来た」
"少女"がそう呟くと、突然木の葉を纏った突風が吹いた。
風が通り過ぎていった頃には、すでに"少女"はいなかった。
------------------------------------
自分がした事に呆然としていた真李の意識が戻って、最初に目に入ったのは、泣きすぎて目元が赤くなりしゃくり泣いている妹と、そんな妹を慰めている母親の姿だった。
真李の手の中には、先程まで妹に盗られていた懐中時計が有った。
幸い妹には怪我はなかったが、尻もちをついた衝撃と、いつも優しい姉の真李に突き飛ばされた驚きで、泣いてしまったらしい。
「ぅぐっ…ひっく……っっ…」
「…ぇ、あ……ごっ、…ごめっ」
「よしよし、こんなに散らかして、一体何があったの?」
真李は妹に何度も謝ろうとするが、言葉が突っ掛かり上手く声が出ないでいる。
母親は妹を慰めることに集中しているので、真李の様子に気が付いていないようだ。
真李は顔を青褪めて、口を開いたり閉じたりを繰り返す。
「…ぅう……ね、っ姉ちゃ……ひっく、にぃぃ……ちょぉだい、…って……ぅく…駄目っってぇぇ………」
「うんうん、そうか…お姉ちゃんに駄目って言われちゃったのね。まったく、部屋もこんなに散らかして、何やってるの?」
「…っえ、……ぁ、でも…」
「でもじゃないでしょ?はぁ、真李はお姉ちゃんなんだから我慢しなさい」
「………ぇ、…?」
真李は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
懐中時計は、両親が真李の為にプレゼントした物だ。それを母親は、"お姉ちゃんだから"我慢して妹に渡せと言った。
妹が何を欲しいと言って駄目だと言われたのかまでは、母親は分かっていないことは頭では分かっていた。しかし、心がそれに追い付かない。
真李は俯き、手の中にある懐中時計を強く握りしめる。
「………か…んて…」
「え?」
「お母さんなんて、大っっ嫌い!!!!」
─────バキンッッツ