無人町のおはなし③
「黄昏時に気を付けて、ね」
真李はボソリと呟いた。
あの後、無事幼稚園に着いた真李は妹を連れ真っ直ぐ家に帰った。
当初は気のせいなのだろうと頭の隅に追いやったが、家に着いてすぐ何となく気になり頭から離れない。
「ただいまぁ~」
「ママだ!」
玄関から母親の声が聞こえた妹は、駆け足で向かう。真李が着くころには、妹が母親に抱っこされている所だった。
「おかえり」
「ただいま、今日は何もなかった?」
「うん、電話もお客さんもなかったよ」
妹を抱っこした母親とリビングまで歩きながら、今日あったことを一生懸命話す真李。
母親は妹をソファの上に下ろしながら、真李に晩ご飯を作るから面倒を見て欲しい、と言いキッチンの方へ行く。
真李はまた、一瞬俯き暗い顔をした。
近くでお人形遊びをしている妹を横目で見つつ、真李はポケットから懐中時計を取り出す。
これは、真李が小学校入学祝いで両親から貰った物だ。
この懐中時計は二重構造になっていて、時計の部分を開くとロケットペンダントになる。中には両親と赤ん坊の真李の写真が入っている。
両親が真李の為にオーダーした特注品で、世界で一つしかない、真李の一番の宝物だ。
暫くの間、ぼぉっと懐中時計を見ていた真李の元に妹が近づき、真李が自分の知らない物を持っていることに気が付く。
「何これすごーい!」
「あ、ちょっと…!!」
ぱっっと懐中時計を盗った妹は、チョロチョロと真李から逃げながらマジマジと見る。
真李は、落として壊れたら大変だと慌てて追いかけるが、なかなか捕まらない。それは駄目だ、返して、と言っても聞いてもらえず、いつの間にか周りは散らかっていく。
「返して!!」
「やだ!りっちゃんこれ気に入ったの!だから……──────」
これ、今日からりっちゃんのね ───────
ドンッ!!!
瞬間、頭の中が真っ白になった真李は、無意識に体が動いた。