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48話 テナシーの森

 攻撃に特化したギルベルト。

 攻守ともに優れたエミリア。

 膨大な魔力と知識で後方支援に適したスイレン。


 この三人さえいれば、旅で魔物の遭遇した時に困ることは無い。フィニだって、三人だけで守れる。



(──なら私は?)



 イーラは薬が作れる。

 けれど、スイレンの魔法で治癒出来る。


 イーラの薬は攻撃も出来る。

 けれど、ギルベルトやエミリアがいれば、その必要も無い。


 イーラは薬の知識がある。

 けれど、フィニのように魔物の知識がなければどう使えるかも分からないし、スイレンの知識量にはかなうはずもない。




 イーラはこの旅に必要なのだろうか。




 そんな疑問がよぎった。

 もちろん、事の始まりを忘れたわけではない。

 フィニの口寄せにマシェリーが現れ、世界樹の聖宮に行けと告げた。

 そして今こんなにも仲間が集まったというのに。

 イーラはずっと、苛立ってばかりだった。


「おい、おい! イーラ!」


 ギルベルトに肩を叩かれて、イーラは我に返る。

 イーラが前を向くと、そこには大きな耳を羽のように動かす生首が飛んでいた。フィニ曰く、あれは『チョンチョン』というらしい。

「でも、あれって夜に出るはずじゃ······」

「テナシーの森は別名『暗闇の森』ですわ。恐らく、ここは昼でも関係無いのでしょうね」


 エミリアはそう言うと、哀れむように杖を抱き、地面に突き立てた。

 呪文を唱える前に、チョンチョンはイーラたちに襲いかかる。


 ギルベルトが片っ端から撃ち落とすも、チョンチョンの鳴き声に共鳴し、仲間が集まってくる。

 遠くから飛んでくる生首の群れにイーラは背筋が冷えた。


 エミリアは地面を叩き、壁を起こすと森を駆け出した。

 夜のような暗さのある森を、よく木や石にぶつからずに走れるものだ。エミリアは杖を振るい、チョンチョンを土の茨で締め付ける。

 道を確保するとまた、早く森を抜けようと駆けていく。


「きゃっ······」


 突然、エミリアの姿が見えなくなった。


「どうしたエミリ──」


 続いてギルベルトもいなくなった。


 イーラは不思議と驚きに包まれながら道を走っていた。

 そして二人が消えた辺りに差し掛かると、突然足元から土の感触が消えた。そして、イーラは地面にぽっかりと空いた穴に落ちた。



「きゃぁぁぁぁ!」



 深い深い穴はまるで滑り台のようで、イーラを奥へ奥へと誘っていく。右に曲がり、左に曲がりと何度かの屈折を繰り返し、イーラはようやく穴の底に着いた。


 穴の底にはエミリアとギルベルトの姿があり、ギルベルトは痛そうに腰をさすっていた。

「ふ、二人とも無事?」

「お前に蹴られて腰が痛てぇ」

「それはゴメン」


 イーラはキョロキョロと辺りを見回した。

 洞窟のような広い空洞があり、あちこちに道が繋がっている。

 道の至る所からは声が聞こえ、何やら騒がしかった。


「うわぁぁぁぁぁぁあ!」

「おぉぉぉおぉぉおお!」


 遅れてフィニとスイレンが穴に落ちてきた。

 スイレンは土を払うと転んだフィニに手を貸した。

「いやぁこんな所があるなんて。あぁ、腰にくるねぇ」

「年だなジジイ」

「お前さんも痛めてるじゃあないか。一緒だよ一緒」

 ここはどこか、どうやって地上に戻ろうかと話し合っていると、遠かったざわめきが近づいてくる。

 ガチャガチャと武器のような音もして、道という道から沢山の男が現れる。──大人の膝ぐらいの大きさの男が。


 短剣やピッケルなどを握り、男たちはイーラたちを威嚇する。

「出ていけ!」

「ここは俺たちのナワバリだ!」

「盗みに来たんだろう!」


 今にも襲い掛かってきそうな剣幕で男たちは叫ぶ。

 イーラは彼らの中に、見知った顔を見つけた。向こうも、イーラの姿を見ると、男たちをかき分けて前に出る。


「リムバ、久しぶりね」

「イーラじゃねぇか! なんでぇ、来たんなら声かけろってんだい!」


 それはかつて魔物から助け、職人の砦で世話になったドワーフ──リムバだった。

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