とりあえず……異世界に連れていかれます。
その前にまず説明してもらいたいんだが、さっき飛んできた弓矢はなんなんだよ」
呼吸を整えながら立ち上がる。
敬語で話すことさえ忘れ弓矢が刺さった木を指さしながらたずねた。
「悪かった、ただ試しただけだ悪気はない、本当は当たっても面白いかもとか思ったが……」
俺に聞かれたくない部分だけは頭を後ろに向け小声で呟く。
「おっさん、最後の方聞こえなかったが」
「ん?小僧、今おっさん……と俺を呼んだか?」
蓮十郎は眉間にシワをよせこちらを睨むと今にも殴りかかってきそうな位に拳を握りしめていた。
(そんな梅干し見たいな顔してこっちみんなよ。)と思うが口には勿論ださない。
「いやだって名前知らないし、それと敬語じゃないのは何もいわないのな」
「敬語じゃないのは別に構わん慣れてるしなでもな、おっさんと呼ぶ事だけは許さんぞ小僧」
少し拳と表情は緩んだが、やはりまだ少し頭にきているのだろう口調に怒気がまじっていた。
「すいませんでしたぁ、名前をお教えください」
もう一度怒らせてまた梅干し見たいな顔されたら笑いそうなので、名前を聞いた。
「良く覚えとけよ小僧、おれっちは剛郷蓮十郎だごごうれんじゅうろう」
俺の聞いたことの無い一人称だったが、指摘するのすら面倒だったので聞き逃した。
そして、この時確信したやはりおかしい人だと。
「で、蓮十郎さん面接は……?」
本題に移る、おっさんと呼んでしまった時点でやる前から不採用かと思いながら一応たずねてみた。
なにより一刻も早く結果を知ってこの人から離れたかったからだ。
「あぁ……おっさんと呼んだ事は根に持つが面接するまでもなく採用だ」
(根に持つのかますます好きになれない人だな)と俺は思った。
蓮十郎は葉巻を吹かし、表情と拳は緩め手をポケットにいれながらベンチに座り言った。
「じゃ早速バイト先に行ってもらうぞ、準備はいいか?」
蓮十郎は返事を聞かずに何故か指を鳴らした。
「いやいや待とうよ、手ぶらだし採用理由と仕事内容もわからないんだけど?」
「あぁ、採用理由だけは教えてやる。さっき飛んできた弓矢を避けたからだ、仕事内容はすぐわかる、少し待ってろ」
それを聞いた俺は空を見上げた。
(それって……もう働くか死ぬかの2択だったのね、やっぱり電話しなきゃ良かった)
「はぁ……やっぱりちゃんと仕事内容の書いてあるものにすれば良かった、自業自得だけどさ」
ため息をつき独り言を呟いて途方に暮れている時だった。
突然轟音と共に地面が揺れ始めた。
「来たか割と速かったな」
葉巻を捨て蓮十郎が立ち上がる。
俺は蓮十郎の方を見るがあまりの揺れに立っていられず片膝をついた。
「蓮十郎さん?何が来たって?」
「お前のパートナーだ」
そんな事を言っているとしだいに揺れは収まった。
が、代わりに目を疑う光景を見た。
謎の刃が目の前の空間をゆっくり斬っていく。
「パートナー?それより……あれ、世界って紙か何かで出来てたっけ? 」
幻覚でも見ているのかと目を擦りながら眺める。
蓮十郎が歩み寄ってきて隣で片膝をつき俺の肩に手を置いた。
「幻覚じゃないぞ?現実だ」
どんどん斬り口が大きくなる。
やがて刃が止まると女性が出てきた。
蓮十郎が立ち上がり話し始めた。
「よう、ルナしばらくだな。手間掛けて悪かったな」
蒼い瞳に黒と金に別れた腰程まで伸びた髪。
そして、彼女の身長程ある鎌。
「お久しぶりです。いえ、お気になさらず」
1礼しながら言った後に鎌の柄撫でる。
すると、鎌は紅い光の粒子となって消えた。
「よぉし小僧行ってこーい」
未だ立てずにいる俺を立たせて蓮十郎が言った。
当然そんな簡単に出発出来るはずない。
「あの、うん。どうゆうこと?」
「これからお前には、そこのルナと一緒に異世界に行ってもらう。詳しい話はついたら聞いてみろ」
異世界と聞いてまた唖然とした。
(いや無理説明適当すぎるもん、俺……あんたの事嫌い)と思いつつ少し涙目になりながらルナの方を向いた。
「あの大丈夫ですか?涙目になっていますが……」
彼女は心配そうに首を傾げる。
俺は首を振りかけたのだが。
「こいつなら大丈夫だ。ルナ準備を頼む」
「あの……蓮十郎さん?俺大丈夫そうに見えました?」
ルナが鎌を取り出して空間をゆっくり斬り始める。
先程と同じく轟音と共に地面が揺れ始めると、俺はまた片膝をついた。
「いいか?良く聞け世の中案外上手くいくもんなんだよ、わかったか?」
「あんた……何言ってんだ、本当に」
やがて揺れがおさまり、ルナが空間を斬り終える。
蓮十郎が俺を立ち上がらせ、ルナの方へ連れていく。
「じゃあ後は頼んだ。」
葉巻に火をつけながら蓮十郎がベンチに向かって行く。
「はい、承りました。では行きましょうか」
ルナは微笑みながら俺の手をとり空間の斬り口へと入っていく。
「おっさん!後で絶対ぶん殴るかんな!」
俺はそう叫びながら現実世界を後にした……。