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第3話 モンスター以外の敵

「もう分かったわよ、あなたとキスをしないと私はこのアロンダイトの本当の力を引き出せない。家で飼っていたブルドッグのゴンとキスしていると考える事にするわ」


ペットの犬レベルまで価値を落とす事で亜理紗は優とキスする事を無理やり自分で納得させていた。会った当初はゴキブリ並みの扱いだったから、それに比べれば遥かにマシなのかもしれない。




「そういえば、さっきのオーガが真名と言っていたがこちらの世界では俺達の名前は特別な意味を持つのか?」


(オーガを倒す為とはいえ俺とキスしろという命令に亜理紗は逆らえなかった、俺以外の命令は受け付けなくなったが俺が出した命令には必ず従う。そう、どんな命令であろうとも・・・)


そんな事を考えていると亜理紗が怯えた表情で優を見ていた、亜理紗の身体を玩具にして遊ぶつもりとでも思われているのだろう。優は頭を掻きながら、亜理紗を自由の身にする言葉を言う。



「椎名 亜理紗、今後は真名を呼ばれても与えられる全ての命令を無視して良い。俺の命令も同様だ」



真名による命令を無視する対象に優を加えた事で亜理紗は正真正銘の自由の身となった、例え真名を知られたとしても命令で身体を操られる事は無い。


「私の身体を自由に出来たのに、本当に良かったの?」


「俺は無理やり女の子を自分の物にする様な趣味は無いよ、でも可愛い女の子が自分から俺にキスしてきたら拒めないかも」


「よく平気でそんな事を言えるわね、この変態」


「それはそうと、さっき俺がやったのと同じ事を今度は君がしてくれないか?そうすれば、俺も自分の名前を知られたとしても身体を操られずに済むから」


「そうね、下衆な連中に身体を乗っ取られてそいつらの命令で私を犯し始めたら困るものね」


「それじゃあ、頼む。俺の名前は武勇 優だ」


結論から言うと自分の名前を簡単に教えたのは失敗だったのかもしれない、優の名前を知った亜理紗はそれから1時間近くその場に土下座させて謝らせる命令を繰り返したのだから・・・。




「ふぅ~!これ位土下座させればもう十分ね、そろそろ解放してあげる」


亜理紗がようやく解放の言葉を口にしてくれたので優はやっと立ち上がる事が出来た、作業着はもちろんだが顔全体もすっかり泥だらけとなっている。


「俺、これだけ土下座させられる程酷い事したのか!?」


「そうよ、私の初めてを奪ったのだから当然よ」


そう言いながら亜理紗は近くを流れる小川に向かいハンカチを取り出して濡らすと泥まみれの優の顔を拭き始めた。


「少し調子に乗りすぎたわ、ごめんなさい」


「いや・・・拭いてくれて有難う」


2人の間に少しだけぎこちない空気が流れた。吊り橋効果なのだろうか?オーガとの命のやり取りをした所為で妙に彼女を意識してしまう。




時間をおいて少しだけ落ち着いた2人は付近を通る道を探し始めた、しかし周囲には獣道くらいしか見当たらない。


「亜理紗がここに来た時には道は在ったのか?」


「ええ、細い道だけど近くの村に繋がっていたわ。だけど、あの時はこんな鬱蒼と茂る森なんて無かったわよ」


そう、2人が出てきたダンジョンの周りは深い森が広がっていた。オーガがこれまでも何度か暴れていたのかダンジョンの入り口周辺は扇状に拓けているがその先は見通しが悪く暗い。


「まだ明るいから良いけど、何とか森を抜けて村を探さないと寝る場所も確保出来ないな」


「それも有るけど、1番肝心なのは食料よ。このままここに居続けたら、私達いずれ飢え死にしちゃうわよ」


それは勘弁して欲しい、給料日前でピンチの時に何度か昼飯を抜いた事が有るがそれでもかなり空腹感に苦しめられた。それ以上の苦しみを感じながら死ぬのは絶対に避けたい!


「状況が状況だし止むを得ないか」


亜理紗は1人で何かに納得すると、優に話しかけた。


「ねえ、ちょっと良いかしら?」


何か名案でも浮かんだか?そう思いながら振り返ると亜理紗が優の首に手を回し背伸びしながらキスをしてきた。そして光り出したアロンダイトを抜くと亜理紗は


「サードキスまでしたんだから、上手くいってよね!」


そう言いながら森に向かい走り出すと、横薙ぎに森を切り払い始めた。振る度に何本もの木が倒れかけるが瞬時に消えてなくなる、その代わりに優の脳裏にまたテロップが流れるのだった。



【木材が振り込まれました、木材が振り込まれました・・・・】



光が消えるまで森を切り拓き少しだけ休憩すると、亜理紗は再び優にキスをして森を突き進む。優とのキスを嫌がらなくさせる何かが有るのだろうか?優は不思議に思った。




休憩を挟みながら森を切り拓く事2時間、ようやく2人の前に小さな道が現れた。


「ようやく道に出られたわね、確か日が昇る方向に村が在ったわ」


道の右の方向を見ると太陽が遥か先の山の稜線に沈みかけている、ならば村は反対の左に進めば在るかもしれない。だが少しだけ気がかりな事も有る。


「なあ、亜理紗。君があのダンジョンに向かった時にはあの森は無かったし細いが道も存在していた。もしかしたら、かなり長い時間が過ぎているんじゃないのか?それこそ何十年という時間が」


「でも、それだと私があなたと出会うのはもっと早くなければおかしくない?」


森を切り拓いている時に、亜理紗が気を紛らわせる為の話をしている中で俺達2人はお互いの事を教え合った。彼女は現在18歳で召喚されたのが俺がこの世界に呼ばれる2年前だそうだから石にされていなければ20歳となり成人していた事になる。けれどもたった2年で道が無くなるほどの深い森が生まれるのは考えにくい、考えられるとすれば・・・。


「俺達が居た元の世界とこちらの世界では時間の進み方が違うのかもしれない、最悪は逆浦島太郎になるぞ」


「逆浦島太郎?」


「ああ、浦島太郎は竜宮城に居る間に故郷の時間が早く過ぎ去っていたが俺達の場合は反対に元気な両親に年老いた俺達を介護して貰わないといけなくなるかもしれないな」


「それは大変だわ、急いでこの世界を平和にしないと!」


亜理紗が慌てて走り出す、オーガの時もそうだったが案外そそっかしい所が有るみたいだ。呆れながら眺めていると茂みの中から亜理紗の前に赤いバンダナを巻いた男達が現れ道を塞いだ。




「そんなに急いでどこに行こうってんだ?」


「急がなくても俺達が親切に宿まで案内してやるよ」


「宿代は死ぬまで俺達の玩具になるだけで済むからよ」


どうやら俺達は野盗に目を付けられたらしい。


「悪いけど今は忙しいの、そこを退いて貰える?」


「どうしても通りたいなら、有り金全部とその着ている物も全て脱いでいくんだな!」


「その後はじっくりと俺達が可愛がってやるからよ、後ろの彼氏は先にあの世に行ってもらうが仕方ないよな?」


見た限りではダンジョンに居たコボルトほど強くは感じない、痛い目に遭うのはそちらだから早く逃げて欲しい。


「この間も偶然通りがかった領主の娘を掻っ攫って思う存分楽しませてもらったぜ!俺達の仲間も領主が捕縛に来た所為で大勢捕まり絞首台に送られたからな、意趣返しが出来たってもんよ」


「おい、その領主の娘は今も無事なんだろうな!?」


「残念だが、もうこの世に居ねえよ。輪姦している途中で舌を噛んで死にやがった、佳い身体をしていたのに勿体無い事をしたぜ」


下種な笑い声を上げる野盗達、亜理紗は静かに下がると優とキスをした。


「おいおい、見せ付けてくれるじゃねえか!最後の別れの口付けか!?」


「別れも済んだみたいだし、今度は俺達の相手をしてくれよ!」


襲い掛かる野盗達の横を亜理紗が静かに通り過ぎて剣を鞘に収めた。


「あなた達は地獄で仲間と好きなだけ戯れると良いわ・・・永遠に」


振り返ろうとした野盗の上半身が斜めにずれていく、居合いの要領で斬られていた事に気付く暇さえ与えなかった。野盗達の死体が消えると、優の脳裏にテロップが流れた。



【100Gが振り込まれました、赤巾賊のバンダナが8個振り込まれました、領主の娘の遺品が振り込まれました】



優がアイテムボックスから遺品を取り出すと、それは年代物を思わせる懐中時計だった。


「優、領主に会って事情を説明してこの遺品を返してあげましょう」


「ああ、そうだな」


この世界にはモンスター以下の価値しかない人間も存在する。それを理解した2人は村が在った場所を目指し歩き始めた・・・。

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