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第1話 伝説の剣との出会い

17時の終業時間のベルが小さな工場内に鳴り響く。片付けや明日の段取り等を周りの人間がしている中、いち早く終えて着替えに向かう1人の男が居た。


男の名は武勇ぶゆう すぐる、名前で判断すると武勇に優れていると思われがちだが実際はガチのアニメオタクである。


「ようやく終わった、道が混み始める前に急いで店に行かないと!」


そう、今日は優がずっと楽しみに待っていた人気アニメ【異世界召喚ハーレムナイツ】のDVDーBOXの発売日なのだ。本当は仕事を休みたかったが納期に遅れそうな製品が有ったり自分の工程を代わりに出来る者が体調を崩して休んでいたりと不運が重なり、こうして出勤するしかなかった。


「店の帰りにコンビニで弁当と飲み物を買って、今晩は大上映会だ」


一緒に見る仲間や彼女が居る筈も無いのに優はかなり上機嫌だった・・・・そう、この時までは。




「フン、フフン、フーン♪」


アニメのオープニング曲を鼻歌で歌いながら優はロッカーを開けた、すると目の前に何も無い空間が広がっていた。


(えっ何これ!?)


驚く間も無く、優はその空間に吸い込まれ始めた。


「誰か、誰か助けてくれ!!」


「どうした、武勇?って何が起きているんだ!?」


優の叫び声を聞いた同僚数人が慌てて優の手を掴む、しかし吸い込む力は徐々に増していきやがて同僚の必死の救助も虚しく優の手は離れてしまった。


「うわあああああああ!!」


バタン!! 優のロッカーが勝手に閉じる、優の手が離れた勢いで反対側にぶつかっていた同僚達が慌てて開けると中は普通のロッカーに戻っており優の私物と着替えだけが残されていた・・・。




『・・・・・起きてください、起きてください』


どこからか女性の声が聞こえる、どうやら何時の間にか寝ていたみたいだ。優がゆっくりと目を開けると、そこは工場の更衣室では無く今まで見た事の無い場所だった。


『どうやら無事に召喚出来たみたいですね、お身体の具合は大丈夫ですか?』


倒れていた優は身体に異常が無い事を確かめながら起き上がると、声を掛けてきた女性が静かに微笑んだ。白いローブに身を包み、長い水色の髪と青い眼を持つこの女性が優にはどこか人間離れして見えた。


『私は女神サティス、この世界を暗黒神の手から救って頂きたくて召喚致しました。勇者【武勇 優】』


「勇者って俺の事?」


『はい、その通りです。今、私たちの世界は突如現れた暗黒神の手によって闇に覆い尽くされようとしております。しかし、この世界の住人の力は暗黒神の前では無力でした・・・。そこで異世界より武勇に優れた者を召喚して、この世界に再び光を取り戻そうとこうして呼んだ次第です』


「もしかして、俺って名前だけで選ばれた?」


『その名を持つ者はあらゆる武器を使いこなす達人で英傑と呼ばれるに相応しい人物だと星詠みの神の予言に出ましたので』


その予言をした星詠みの神の頭を叩いてやりたくなった、喧嘩すらした事無いアニオタ野郎にどうやって戦えと言うのだ?




「済まないが予言をもう1度やり直してもらってくれ、生憎と俺は喧嘩すらした事無い小心者でな。剣道や弓道などの武道にも縁が無いんだ」


『ご安心ください、あなたが武器を持って戦う訳ではありません』


「何じゃそりゃ、詳しく話を聞かせてくれ」


女神サティスの説明によると、これまでにも俺の世界から神話や伝説の武器の力を身に宿した者を何度も召喚していたらしい。けれども力及ばず各地に封印されて眠りについているそうだ。


『星詠みの神の予言では、あなたには封印された者達を解放する力が秘められているそうです。そして、その力が過去に召喚された者達の真の力を引き出すだろうと』


「俺に秘められた力が有る?」


『原理は不明ですが確かに有るそうです。ですがあなた1人ではすぐに死んでしまいますので、ここから1番近い場所に封印されている者を解放しに向かいましょう。それとこれは今後の旅をしていく上で役に立つと思いますのでお使い下さい』


そう言うとサティスは優の右手の甲にキスをした、ビックリして手を引くと右手の甲に何か紋章の様な物が浮かび上がる。


「何だこれ?」


『それはアイテムボックスと言いまして、意識しながら右手で触れることで物を自由に収納出来ます。食料も腐る事が無いので保存に最適かと』


「良く分からないけど、有り難く使わせてもらうよ。それで1番近い封印されている者はどこに居るんだ?」


『こちらになります』


サティスが右手を掲げると、優の目の前に透明な波紋が広がった。


『その中にお入りください、私も最初の者が解放されるまでお供させて頂きます』


「どうせなら、最後までお供してもらえないか?」


『色々と私達にも制限が有りますので・・・・それに直接手を下せるのでしたら最初から召喚などせずに済みました』


「そりゃそうだ」


波紋の中に入るとそこは薄暗い洞窟の中だった。


「さっき居た場所と大分違うな」


『当然です、先程まで居た場所は神界と呼ばれる所です。いきなりこちらの世界に降ろして混乱させない様にあのような形を取りました』


まだ完全に状況を理解出来ていないが、ひとまずここが違う世界だという事は分かった。なので、とりあえずサティスの言う武器の力を身に宿した者を探し始めた。この世界の洞窟、所謂ダンジョンと呼ばれる中は光が全く届かない筈なのに薄暗いが全く見えないほどでは無かった。


『こちらの世界に漂っている魔力と洞窟に生えている苔が反応して弱い光を発しているのです、この苔は洞窟の外でも自生していますので暗闇の中を歩く心配はございません』


「灯りの心配はしないで済むって事だな。それはそうと俺はこちらの世界じゃ無一文だが、どうやってお金を稼げば良いんだ?」


『これからあなたが解放する者達と協力して暗黒神が召喚したモンスターを倒してください、そうすればその場で回収し倒したモンスターで使えそうな部位と報酬をアイテムボックスの中に転送しておきます』


つまり倒したモンスターを解体したりしなくても済む訳だな、動物や魚を捌くのは苦手だったから非常に助かる。




ダンジョンの中を進む優だが、モンスターと遭遇する事は一切無かった。


「このダンジョンはモンスターは居ないのか?」


『居りますよ、ただ私の気配を感じ取ってダンジョンの外へ一時的に逃げているだけかと』


「素手じゃどうにもならないからな、戦わずに済むのは有り難い」


『ですが封印から解放したら私は神界に戻りますので、その後は2人で力を合わせて脱出してください』


「おいおい、2人だけで脱出出来るのかよ!?」


『あなたが知る神話や伝説に登場する武器は貧弱な物ばかりでしたか?』


(西洋の神話や伝説に登場する武器はどれもとんでもない性能を持っているけど、日本の場合は剣で草を薙いだり立てていた槍に飛んできた蜻蛉が当たり真っ二つになったりと武器に関する逸話のスケールが小さいんだよな)


そんな事を考えながら尚も進むと、ダンジョンの最奥が広い空間となっていた。そして中央に何か等身大の石像らしき物も見える。


『あれが封印された過去に召喚された者です』


更に近づいてみると、その石像は両手で守る様に石の剣を抱きしめており娘の姿をしていた。


「おい、もしかしてお前らは女の子を召喚して戦わせていたのか!?」


『ええ、異世界の伝説の武器の力を偶然宿していましたので。ちなみにこの娘が力を宿している武器の名はアロンダイト。ご存知ですか?』


アロンダイトといえば、円卓の騎士ランスロットの剣とされエクスカリバーに匹敵するかもしれないと言われる武器だ。


「1人で戦わされて、こんな場所で長い間封印されて可哀相に・・・。どうやればこの子を解放出来る?」


優が真顔で問い質すと、サティスは微笑みながらふざけた事を言い出した。



『古今東西、眠りについた姫を助け出すのは王子様のキスですよ』



どうやらこの女神は俺に石像とキスをしろと言いたいらしい・・・。

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