14話 生徒会に入りませんか?
2年生が修学旅行へと旅立って、学校の人口がほぼ2/3になったところで、1年生にほとんど変化はない。
いつも通りに授業が終わり、HRの後、僕は部活に向かおうとバッグを背負った。
「あの、蒼井くん、少しお話、いいですか?」
そこで紺野さんに声をかけられた。中間試験以来ちょくちょく喋る。まぁ、勉強関連の話題に限りだが。
「はい、なんですか?」
僕はバッグを机に置き直して、紺野さんの方を向いた。
「蒼井くん、生徒会に入りませんか?」
「入りません」
顧問との約束を意識したわけではないが、即座に否定した。入るつもりはないのだから、これでいい。
「……即答、なんですね」
紺野さんは苦笑を浮かべる。ここは少し言い訳をしておこう。
「すみません。最近、生徒会には入るなと釘を刺されたばかりでして」
「え? それは、誰から?」
紺野さんの困惑もわかる。わざわざ生徒会に入るなと釘を刺されるとか、普通ではない。
「田中先生です。次期生徒会の担当らしいです」
「なぜ、入らないようにと……?」
「僕が面倒な生徒だからでしょうね」
顧問の口ぶり的には、生徒会と先輩の間にルートを作りたくないって感じだったけれど。
「面倒な生徒、ですか?」
「例えば、僕なら、体育祭なんて不要なので撤廃しましょうとか言いかねないでしょう?」
「あぁ、なるほど。あっ、いえ、すみません」
「謝ることなんてないですよ。まぁ、そんなわけで、生徒会には入らないように言われているんです」
まぁ、言われてなかったとしても入る気はないのだが。
「そうですか。すみません。伝えておきます」
紺野さんはそう言って頭を下げた。別に紺野さんが謝ることは何もない。僕が一方的に断っているのだから、むしろ謝るべきは僕……いや、僕だって謝る必要はあるまい。この話は、どちらも謝罪の必要なんてない。そう思いつつも。
「いえ、お役に立てずにすみません」
僕は謝った。頭は下げなかったが。
「あの、伝えるというのは誰にですか?」
また、気になったことを尋ねてみる。
「あ、えっと、兄、です。生徒会長に立候補している紺野 嶺は私の兄なんです……」
「あー、なるほど」
なるほどと言いつつ、立候補者が誰で、どういう公約を掲げているのかは知りもしない。配布プリントに書かれていたと思うが、読んでない。
「でも、なぜ僕に?」
「兄が、いえ、まだ兄が当選するかもわかりませんけど」
「信任投票ですし、するでしょう」
「あっ、はい。兄も当選すると思っているようでして、それで、役員の候補をもう探していて、蒼井くんを名指ししまして」
「僕ですか? えっと、なぜ?」
生徒会役員に求められる素養はイマイチはっきりとはしないが、それを僕は持ってはいないだろう。
「……兄の考えることは、私にはわからないです。すみません」
「いえ、紺野さんが謝る必要なんて何もないですよ」
そう言いつつも、気になりはする。僕が名指しされる理由は、皆目見当もつかない。
「すみません。とにかく、蒼井くんは生徒会に入ることはないと伝えておきます」
釈然としないが、この話はこれで終わりか。
「あと、1組の紅林さんという方を知っていますか?」
よく知った名が突如出てきて面を食らう。なぜ紅林さん?
「知っています。部活が一緒ですから」
「兄が、その人にも声をかけろと言っていたので」
文芸部を狙い撃っているのか? 顧問への嫌がらせ? しかし、会長候補者は品行方正だと顧問は言っていたが。
「選出の理由が見えないですね……」
いや、単に成績だと言われてしまえば、まぁ、それで納得できるのだが。
「とにかく、すみませんでした。放課後に呼び止めて、時間を使わせてしまって」
「いえ、別に部室で読書するか駄弁るかだけですから」
本当はそれに加えて勉強もするけど。
「文芸部でしたよね。部活、頑張ってください」
「頑張るような部活ではありませんけど。では、さよなら」
「さようなら」
紺野さんが丁寧に頭を下げたので、こちらも同じように頭を下げる。同級生同士の挨拶ではないな。そんな風に思いつつ、僕はパソコン室へと足を動かした。




