13話 ポンコツ
「お前、実はロリコ」
「違います」
ここは速攻で否定しておく。
「お前、菜子先輩と恋仲になったり」
「してませんよ」
僕は否定をするも、大白先輩は、
「でも、さっきのは、菜子先輩、照れてる感じだったぞ」
と言う。勘弁してくれ。
「昨日、解散した後に実は2人だけで合流したなんてことありませんか?」
紅林さんの問いに、僕は「えっと」と言葉を詰まらせる。
「あるんですね? 花火の下で告白みたいな」
「そんなベタな展開は起こってませんよ」
あったことといえば、2人でサラさんの飲み会のノリがウザいという話を聞いただけ。……それを思うと、ラブコメ展開になっている理由が皆無なのだが。
「じゃ、何があったんだよ」
2人して詰問しないでほしい。なんと答えたものか。
「知り合った大学院生に呼び出されて、飲み会のノリがウザいって愚痴を聞いただけです」
この返答に、2人は意味がわからないという顔をする。僕自身も、回想をしてみると意味がわからない。何がどうなってこうなった?
僕は昨日の出来事をかいつまんで説明した。……LINEでのやり取りは伏せて。
「恋愛ネタで揶揄おうキャンペーンねぇ……」
「真白先輩、案外本気で……」
いや、本当に勘弁してくれ。
「先輩ですよ? あるわけないですよ」
「まるで、真白先輩には恋愛感情がないみたいな言い方ですね……」
先輩に恋愛感情……ないんじゃないか? 先輩が誰かに恋をするのは、想像できない。
「なんか、面倒だからお前ら付き合えよ。お前だって菜子先輩のこと嫌いじゃないだろ?」
嫌いじゃないとか、そんな話じゃない。
「そのとりあえず付き合えって発想、僕は嫌いです」
「お前も菜子先輩も、恋愛ごとになるとポンコツっぽいよな……」
「そう言う大白先輩は、恋愛強者だと?」
「あー……、文芸部って集団が、この手の話に弱い感じすんな」
文芸部なんて陰キャラの集まりに恋バナなんて似合わない。
「この話、結論出ませんよ。終わりましょう」
そう宣言して、僕は参考書に手を伸ばす。
「先延ばしか。菜子先輩、5ヶ月後には卒業だぞ」
卒業か。先輩がこの部屋から、この学校から、いなくなる。まぁ、それは当然のことだ。
「いいんですよ、別に」
別に、先輩から告白されたわけではない。それどころか、ネタだったと宣言されている。つまり、僕は何か結論を出すことを求められてはいない。
「真白先輩、卒業してしまうんですよね」
「3年生だからな。3学期はほぼ自主登校のはずだから、2学期が終われば会わなくなるかもな」
「先輩なら、自主登校期間でも、本当に自主的に登校して来そうですけど」
「自主登校期間は授業がないからな。来ても暇だろ。俺たちは授業あんだから、構ってあげられないし」
となると本当に2学期が終われば会わなくなるかもしれない。残りにして、たったの2ヶ月。
「もうあっという間に俺も受験生なんだよな。キツい。俺も指定校にしようかと割と本気で思う」
大白先輩は僕の参考書を見ながらそう呟く。
「志望校どこなんですか?」
「あー、一応、早明大。でも、元治なら安全圏だし、指定校もあるんだよなぁ」
早明大学は私立大学の中でトップレベル。元治大学は有名私立ではあるが、早明大学に比べると一段落ちる。また、早明大学からの指定校は一浜には来ていない。
「大白先輩でも早明大学ともなると難しいんですね」
紅林さんの言葉に、大白先輩は「当たり前だ」と頷く。
「俺は数学とか物理とか得意な方ではあるが、別に全国トップレベルじゃないからな。偏差値は65前後。この高校ならトップレベルでも、全国で見ればそれなりにできるやつってところなんだよ」
僕の中学の頃の偏差値は65から70の間というくらいだった。65という数字は微妙だ。トップレベルに頑張れば手が届きそうで、実際のところは届かない。上の下。
「お前らも実力試験受けただろ? どうだった? 定期試験で点が取れても受験で取れないと意味ないからな」
「結果が返ってくるのはまだまだ先ですから。まぁ、定期試験みたくできたとは言い難いです」
「私も、特に数学は定期試験とは大違いでした」
僕の今の偏差値はいくつくらいだろうか。中学の時よりも学力は上がっているとは思うが、偏差値がどうなっているかはわからない。模試、もっと早く受けるべきだったか。
「お前らは帝東大とか受けんのか? 国立志望だろ?」
帝東大学。日本最高学府と言われる大学。母親が認めるであろう数少ない大学。実力試験では、とりあえず第1志望の欄に書いた。
「さぁ? 僕はまだ、大学で何がしたいとかも決めあぐねていますから」
「私はそんなに頭良くないですから……」
僕たちの回答に、大白先輩は「そうかい」と一言で返した。
「1年生はまだ気楽だよなぁ。受験生かぁ……」
気楽。まぁ、まだ気を楽に構えていることには違いない。もう、あとたったの2年ちょっとで受験だというのに。
……やりたいことくらい見つけないと。
「俺なんて、修学旅行終わってすぐに模試だぜ」
「22日のセンター模試ですか?」
「ああ、それそれ」
「僕もそれ受けます」
大白先輩は単純に驚いた顔をした。先輩のように演出したそれではないだろう。
「流石に蒼井に同じ問題で負けるわけにいかないよな。俺、先輩だし。はぁ。勉強すっかぁ」
なんか、期せずして大白先輩との直接の勝負ができるようだ。ちょっと模試へのモチベーションが上がった。
「つっても、修学旅行中に勉強ってわけにもいかないけどな。あー、結局、土産は何にすればいいんだ?」
「シーサーかイリオモテヤマネコのストラップでも買えばいいんじゃないですか?」
「それで菜子先輩が納得するか?」
そう言われると、どうだろう? 先輩なら「わー、かわいいー。で、本物は?」とか言いそうだ。
「納得をしないような演出はしそうですけど、本当に猫を渡したら、それはそれでどうするんだって話ですよ。先輩だって、その辺りはちゃんとわかっていますよ」
わかっていながら、不満そうに演出するのだが。
「めんどくさいな、あの人」
「それが先輩ですから」
そんな面倒な一面も、たぶんあの人にとっては重要なこだわりなのだろう。
「真白先輩のこと、理解しているんですね」
「その件はもう十分です」
僕がため息混じりに言うも、紅林さんと大白先輩は少しニヤついていた。
別に、なんでもないのに。
このあたり、『運命の緑の糸』と執筆時期が被っているせいか、変に恋愛関係の話に流されています……。




