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12話 なんかちょっと変


 実際、何も変わらなかった。放課後のパソコン室にあったのは、いつもと何も変わらない文芸部だった。


「大くん、お土産の定番はやっぱり食べ物だと思うんだよ」


「そうっすね」


 先輩は大白先輩にお土産をねだっている。大白先輩は明後日から修学旅行だ。


「でも、わたしはその他大勢とは違う感性を持っているわけだよ」


「そうっすね」


「だから、ここで定番の紅芋タルトとかちんすこうとか買って来られても、うーんって感じなわけだよ」


「そうっすか」


 大白先輩、結構面倒そうに対応している。そんな2人の様子を横目に、僕は参考書を斜め読みする。もうすぐ、母親に言われて申し込んだ模試がある。紅林さんも2人を見つつ読書をしているようだ。なんとも文芸部っぽい時間。


「そこで、わたしはイリオモテヤマネコが欲しいな」


「無理っす」


「だめ……?」


 無理難題をあざとさ全開でねだる先輩。そんなに欲しいのか、イリオモテヤマネコ。


「そもそも西表島に行く予定がないっす」


「じゃあ、ツシマヤマネコでもいいよ」


「対馬に行く予定もないっすよ」


「じゃあ、もうただのネコでいいや」


「もう沖縄関係ないっすよね!?」


 ツシマヤマネコの時点で沖縄関係ないよなーなんて他人事ながら思いつつ、ただ2人の会話を聞く。


「さて、大くんのお土産、楽しみにしてるね」


 先輩はにぱッと笑顔を作って、そう大白先輩に言い放った。


「いや、猫は無理っすからね。もっと無難な定番にしますから」


「……シーサーとか?」


「シーサーを買えと!? あれ、いくらするもんなんすか?」


 そんなやりとりが繰り広げられる中、パソコン室のドアが開き、顧問が姿を現した。


「大白、修学旅行ではしゃぐのはいいが、シーサーを買おうってのは、やめといた方がいいんじゃないか?」


「いや、買わないっすよ。で、何の用っすか、先生」


 顧問は用がないと部には来ない。それは僕らもわかっている。僕たち4人は顧問の言葉に意識を向けた。


「いや、部活の話じゃないんだ。蒼井、お前、生徒会に入る気はあるか?」


「ないです」


 脊髄反射かというほどのスピードで返答していた。ない。完全にない。


「そうだ、それでいい。他の先生に訊かれてもはっきりそう答えてくれ」


「まぁ、こう答えると思いますよ。実際、生徒会に入るつもりなんて全くありませんから」


「そうだよな。お前ならそう言ってくれると思っていた」


 顧問は安心したような満足したような、そんな表情をしている。僕が生徒会に入らないなんて当たり前のことがそんなに嬉しいのか?


「お前を生徒会に推そうとする先生が何人かいる。誰に訊かれても、はっきり断ってくれ。うん」


「先生は、僕が生徒会に入るのがそんなに嫌なんですか? いや、入る気はありませんけど」


 訊くと、顧問は「ああ」と頷いた。


「次期生徒会の担当、私なんだ。私は、真白の息のかかった生徒会役員なんて相手にしたくない」


 他の委員会と同様に、生徒会にも担当の教師がつく。それに顧問がなると。そりゃ、僕が入るのは嫌だろう。


「あぁ、それで大白、お前にも役員への推薦の話がある。お前なら、真白の傀儡にならないという条件付きで、ぜひやってもらいたい。たぶん役職は会計だ」


「俺っすか? いや、俺はあんまりそういうのは。会長は誰が立候補してるんでしたっけ?」


「会長候補はD組の紺野の1人だ。問題なく信任されるだろう」


「紺野……知らない人っすね」


 なんか聞き覚えのある苗字だが、2年の話だから関係ないか。


「今回の試験でお前に総合学年トップを奪取された優等生だ。お前達と違って品行方正で、会長にもってこいの人材だよ。というより、今の書記だ。名前くらい聞いたことあるはずだが」


「D組ってことは文系っすよね? 俺と比較することないじゃないっすか」


「そうだな。文系トップの紺野と、理系トップの大白で生徒会やるつもりはないか?」


「だからないっす。生徒会とか、柄じゃないんで」


「そうか。残念だが、別に無理に頼むことでもない。蒼井が、というより真白が生徒会に噛んで来ないなら、私はそれで満足だ」


 僕が生徒会に入ると先輩の傀儡になることが自明なのだろうか? いや、仮定が偽なのだから、どうでもいいことではあるけど。


「タナせーん、わたしのことなんだと思ってるのー?」


「デマゴーゴスだ。違うか?」


 不満そうに声を上げた先輩に、顧問は即答した。先輩は詭弁家か。まぁ、確かに、口は回る方かもしれない。


「称号:デマゴーゴス。うん、ありかも。交渉系のスキルに補正かかりそう」


 なぜかご満悦な先輩に、顧問は処置無しとでも言うようにため息をついた。


「お前の相手をするのは疲れる。そんなの部活だけで十分に過ぎる。というか、お前、いいかげん引退しないのか?」


「タナ先がわたしを文芸部から追い出そうとするー! わたしの居場所はここしかないのにー! うわーん!!」


 先輩は僕たち3人に目を向け少し考え、それから紅林さんの方にテクテクと歩き、おもむろに抱きついて嘘泣きを始めた。紅林さんは「えっと……」と戸惑い、手を先輩の頭に持っていくか、背中に持っていくかと彷徨わせる。


「そんなこれ見よがしの嘘泣きをするなよ……。居場所がここしかないってのは本当っぽくて、どう対応したらいいかわからないだろ」


 顧問は大きく「はぁ」とため息をつく。顧問にとって、先輩は間違いなく悩みの種だろう。


「部員は嫌がってないようだし、お前は受験も終わっているし、無理に引退しろとは言わない。だが……いや、もういい。要件は済んだ。私は戻る。じゃあな」


 あー、もう面倒くさい、そんな態度で顧問はパソコン室を出ていった。


「あの、真白先輩?」


 顧問が出ていっても、先輩は紅林さんに抱きついたまま離れない。紅林さんは困ったように微笑む。


「そろそろ離れ」


「紅ちゃん!」


「えっ、はいっ」


「大好きー」


 脈絡もなく告白をした先輩は紅林さんから離れようとしない。


「えっ、あの、えっと」


 紅林さん、テンパっている。どうしよう、助けた方がいいのはわかるが、どうやって助ければいいのかわからない。


「へぇ、菜子先輩って……」


 大白先輩がそう呟くだけで、先輩は紅林さんからさっと離れた。


「大くん、それは違う」


 解放された紅林さんはゆっくりと先輩から距離をとった。


「菜子先輩、今日、異常に人懐っこくないっすか? なんか、ちょっと変っすよ」


 先輩が変なのはいつものことだと思わなくもない。しかし、今日はいつも以上に変、か。


「んー? 大くんもわたしにぎゅっとして欲しかった?」


「そういうこと言うのはやめた方がいいと思うっす。俺はロリコンじゃないんで結構っす」


「大くんがわたしに毒を吐いたー! うわーん!! 紅ちゃーん!」


 先輩は再度紅林さんに抱きつこうと近づくも、今度は紅林さんが逃げる。


「紅ちゃんがわたしを避けるー! うわーん!!」


 先輩の目がこちらを向く。いや、勘弁してくれよ。


「蒼くーん!」


「先輩、ウザ絡みは好感度を下げるそうですよ」


 こちらに向かって来ようとする先輩に、とっさに昨日のサキさんの言葉を放った。


「わたしがウザいって言うのかー!!」


 すると、先輩は抱きつくのではなく、拳をぐるぐると振り回してこちらに向かってきた。僕は向かってくる2つの小さな拳を、それぞれ片手で簡単に受け止める。なんか、両手を繋いでいるみたいになってしまった。


「……離して」


 言われてすぐに手を離した。


「わたし、今日調子悪いみたいだから帰る!」


 そう宣言して先輩は早足で帰っていった。


 大白先輩と紅林さん、2人の視線が僕を刺していた。いや、これ、僕なんか悪いことしましたか?


 なんか、何を書いているのかよくわからなくなってきました……。

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