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11話 全部ただの思い込み


 1日、恋愛小説を読んで過ごした。


 お気に入りの本の中から恋愛小説だけを取り、それらを1日かけて読み直した。


 結末が死別である話は、確かに多かった。約半分がそうだった。僕が死別を好むという主張は、否定しようのない事実のようだ。


 加えて、僕の好む作品は、病気、家庭環境、人間関係、何かしらの理由で主要キャラクターが不幸だった。


 手に取った本を見る。『学校で鍋を食べるために』。これが恋愛小説と呼べるかは微妙。だが、少年と少女の物語であることは間違いなく、そしてその2人ともが、幸福とは言い難い。


 ページをめくる。『鍋をともに食べる。それは親しさの証明だ』、その言葉から始まる物語を読み直す。


 間違いなく明るい話ではない。主人公の傷付く描写が何度も何度も現れる。主人公の希望は、願望は、何一つ叶わない。


 厳しくて、つらくて、苦くて、痛い話。


 それでも僕はこの話が好きだ。この厳しさが、つらさが、苦さが、痛さが好きだ。


 それは僕が、この悲しい傑作に共感するからなのだろうか。僕が主人公に自己投影できるから、そんな理由で、僕はこの作品が好きなのだろうか。


 あまり考えたくなくなって、僕は本を閉じた。やめよう。僕は『学校で鍋を食べるために』を本棚へとしまった。


 今度はバッグの中を漁った。中からは『If……then……』が出てくる。もしもの話。


 もしも僕が死んだなら、先輩は僕に恋に落ちるかもしれない。


 しかしそれは起こらない仮定の話。仮定が偽なら、その命題はいつだって真だ。そんなことは、考えたって仕方がない。いや、いつか僕は死ぬのだから、起こらないわけではないけれど。


 なんとなく、スマホのメモ帳を開いて、文章を作る気になった。



「何かを失うと、それが大切なものだったんだって思う時あるだろ?」


「失って初めて大切だったと気づくってやつな」


 Bは頷くけど、そうじゃない。


「違う。失ったものは、大切だったと思い込むって話さ」


「思い込む?」


「昨日、うちで飼っていた猫が死んだんだ」


 Bは僕の話の意図が見えない様子で、とりあえずといった感じに「ご愁傷様」と言った。


「僕は基本的にその猫に不干渉だった。世話は母さんと妹がしてたし、たまに家の中で顔を合わせる程度の存在だった」


「つまり?」


「つまり、間違いなく僕にとって、その猫は大切なものなんかじゃなかったはずなんだ。でも」


 僕はその感情を思い出しながら語る。


「あいつが死んでさ、なぜか悲しいんだよ。もっと可愛がってやればよかったって思うんだ。あいつが死んだから、失ったから、大切だったんだなって思うようになった」


「本当は大切に思っていたってことに気づいたってことだろ?」


「違う。失ったから大切なものになったんだ。失ったことによって、僕の中のあいつの価値が上がったんだよ。大切なんかじゃなかったのに、大切だったと思い込んでいるんだ」


「そうか?」


 Bは納得がいっていないようだ。それでも僕は持論の展開を続ける。


「死とか別れってのは、価値を高めるんだよ。自分の元からなくなると、途端に欲しくなる。だから、失う前も大切だったはずだというのは、思い込みだ」


「あー、お前の言いたいことはわかる。で、そうだとして、それがどうした?」



 たった数センテンスの駄文を書いて、僕の手は止まった。


 それがどうした?


 本当にそれがどうしたって話だ。この話に向かう先はない。


 こんな駄文を書き連ねて、僕は何をしたかったのか。それは、たぶん。


 僕はLINEを見直していた。


『真っ白最高: ちょっと思ったんだけどさ』


『蒼井: なんですか?』


『真っ白最高: 明日蒼くんが死んだらさ』


『真っ白最高: わたしは蒼くんに恋をしていたって思うかもしれない』


『蒼井: なんて返せばいいんですか? それ』


『真っ白最高: つまり、今日のアプローチは本当に全部ネタですよってこと。わたしが恋心を自覚するには、相手が死ぬくらいしないと無理だよーってこと』


 ……はぁ。


 いいんだ、別に。特に何もない。何もなかった。


 僕はLINEを閉じて、スマホをベッドに投げた。


 全部ただの思い込み。それでいい。それがいい。


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