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10話 もしも明日


「助かった助かった。いやー、呼び出しちゃってごめんね」


 僕は先輩、サラさんの2人とともに大学内のベンチに腰掛けていた。先輩を間に挟んで、僕とサラさんは会話を始めた。


「結局なんだったんですか?」


 サラさんに会ったところ、いきなり、「あっ、ごめん、待たせたよね。もう仕事も終わったから、じゃあ、行こっか」とまくしたてられ、今に至る。


「あたしって、結構美人でしょ?」


「……はい?」


 何の話だ? 確かに外見は整っている。美人な委員長キャラをそのまま20代まで成長させたような容姿。だが、だから何?


「教育系の院生、女って4人しかいなくてね。飲み会に行くと絡みがウザいわけよ」


「えっと、つまり、飲み会に行かない口実が欲しかったってことですか?」


「そ。面倒だから行きたくありませーんだと、ちょっと印象悪いしねぇ。酒が入らなきゃいい人たちだから、仲良くはしておきたいし。だから助かった。お礼に夕飯奢るよ? ただし、1人1166円までで、飲酒は禁止ね」


「1166円? サラサラ細かい」


 1166円。3で割ったんだろうと感じさせる数字だ。3を掛けると、3498円。3人で3500円までなら出すということか。


「あたしが1食に使う最高額が3500円なの。大学院生は貧しいのよ。で、どうする? 食べに行く?」


「蒼くんどうする? 貧しい大学院生にたかる?」


 その質問に対して、「はい、たかります」と答えるほどの図太さは僕にはない。まぁ、僕の心情としては、1食に3500円はとても高い気がするのだけど。


「遠慮しておきましょうか」


「そう。なら、3人で花火でも見て解散かな。あっ、もしかしてあたし邪魔だったりする? 2人きりがいい?」


「いえ、全然」

「はっきり言って邪魔かも」


 僕と先輩は真逆の答えを言っていた。先輩の方を向き、目が合う。やはり僕は目をそらしてしまう。


「蒼井と真っ白は付き合ってるわけじゃない? かなり仲良さげだけど」


「さっき、2人とも恋愛不適合者だって結論に達したからね」


 先輩はサラさんに返答しつつ、「ねー」とこちらの顔を覗き込む。やめてほしい。


「そうでしたか?」


 僕は先輩の顔を手で押し戻す。


「イチャイチャしないでー」


「してません」


「んー、確かに、恋人というよりは、じゃれ合う兄妹って感じかも。どっちにしろ、仲が良さそうで羨ましい。やっぱり、あたし邪魔だよね」


 サラさんはベンチから立ち上がった。


「これといって用がないならもう帰りますよ。僕、別に花火が見たいわけでもありませんし」


 花火大会の花火ならいざ知らず、ショボいと先に言われている花火には興味も薄い。


「花火を見るかは置いといて、真っ白を家まで送るくらいしなよ」


 時間はまだ19時前。陽は落ちたものの、送る必要があるとも思えない。


「必要ですか?」


 僕は先輩へと尋ねる。


「わたしは別に」


「いやいや、実態はどうあれ、真っ白の見た目は小学生なんだから、その辺りは気を遣わないとね」


「わたし、小学生、違う!」


 先輩は噛みつかんとするような勢いでサラさんを睨む。まぁ、いつものことだ。


「あたし、キューピッドのつもりで言ったんだけどな」


「おぉ、そっか、今日は恋愛ネタで蒼くんを揶揄(からか)おうの日だった。蒼くん、送ってくれる?」


 恋愛ネタで揶揄うと宣言している相手に対してはどう対応するのが正しいのだろうか? 照れ笑いのような表情を作っている先輩の頭を(はた)けばそれでいいだろうか?


「扱いづらいので、その揶揄おうの日、やめてもらっていいですか?」


 結局、はっきりそう言うことにした。


「蒼井にとってはこの絡みがウザ絡みそのものって感じみたいね。真っ白もそれくらいにしときなよ」


「サラサラ、優しい」


「ウザ絡みは、本当にウザいだけだから。間違いなく好感度下げるから」


 サラさんは心底飲み会での絡みが嫌いなのだろう。


「そっかぁ。蒼くん本当にもう帰るの? それならわたしも帰るけど」


「帰りましょうか」


 サラさんに呼ばれなければ既に解散していたのだ。用がなくなれば解散するのが道理。


「なら、あたしも帰っちゃおうかな。2人とも路線は?」


 僕たちは花火を見ることなく帰路についた。3人とも別の路線で、僕は1人電車に揺られる。


 少し眠りかけていると、ポケットが震えた。


『真っ白最高: ちょっと思ったんだけどさ』


『蒼井: なんですか?』


『真っ白最高: 明日蒼くんが死んだらさ』


 何を不吉な。


『真っ白最高: わたしは蒼くんに恋をしていたって思うかもしれない』


 ……?


『蒼井: なんて返せばいいんですか? それ』


『真っ白最高: つまり、今日のアプローチは本当に全部ネタですよってこと。わたしが恋心を自覚するには、相手が死ぬくらいしないと無理だよーってこと』


 つまり何が言いたいのか、やっぱりよくわからなかった。返信を打つ手が動かない。


『真っ白最高: 04%6.04%2(0295☆』


『蒼井: 暗号ですか?』


『真っ白最高: なんでもなーい。じゃ、また月曜日ねー』


 そして続けざまに"bye-bye"と書かれたスタンプ。


『蒼井: はい、また月曜日に』


 無難な返事をして、僕はLINEを閉じた。


 もしも明日先輩が死んだなら、僕は先輩に恋をしていたと思うのだろうか。


 オープンキャンパスは一応終了です。

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