9話 好きな結末は
「蒼くん、正直、花火の下でわたしに告白されるんじゃないかとか思った? 思ったでしょ?」
「いえ、まったく。先輩ですから」
先輩は開口一番楽しそうにそんなことを言ってきた。ふざけてるのか、この人。
「えぇー!? あんな意味深な呼び出し方したのに? 全然? まったく?」
「いや、僕と先輩の組み合わせでそれはないですよ」
先輩は「面白くなーい」と不満げな顔をしてみせた。
「で、なんで僕だけ?」
「告白すると思ったでしょってネタをするためってのが1番なんだけど」
「はぁ?」
なに面倒なくせに微妙なドッキリ仕掛けて、しかも不発に終わってるんだよ。
「いや、えっと、蒼くんと一緒に花火見たいなぁって……」
こちらが不機嫌そうな顔を見せると、先輩は可愛らしい子どもの表情をしてみせた。まったく、この人は。
「先輩、その容姿で微笑めばなんでも許されると思ってません?」
「ダメ?」
「特に何もないなら帰りますよ」
「待って! 待って!」
踵を返そうとすると、先輩が腕にしがみついてきた。あざとい。追い縋ってくる子どもって感じで、振り払いにくい。
「何なんですか?」
「サラサラがさ」
「サラさんがどうかしましたか?」
「サラサラが、まだいるなら来てくれないかって」
「なんでですか?」
「ちょっとね。ほら」
先輩はスマホの画面をこちらに見せてきた。そこにはLINEが開かれていて、
『サラ: ちょっとね』
と確かにあった。LINEでのやり取りを見ると、先輩はそれに対して理由も尋ねずに快諾していた。
「それで僕も巻き込んだと」
「いやー、謎の呼び出しに1人で行くって怖くない?」
なら、謎の呼び出しに応じるなよ。
「護衛役なら大白先輩の方が適切だと思いますよ」
さすがに先輩より弱いということはないが、僕が1人いたところで危険が減るということはない気がする。
「いやいや、大くんには紅ちゃんを送ってもらわないと」
まだ18時過ぎ。送る必要があるような時間ではないと思うのだが。
「それに、サラサラはわたし個人を呼んだのに、大くんを連れて行ったら、いかにも警戒していますって感じになるし」
大白先輩の強面を思えば、そう思われる可能性もあるか。大白先輩や紅林さんは、サラさんと会話はしていないようだったし。
「なら、サラさんのところに行きましょうか。3号館ですよね?」
「よし行こー」
先輩はそう言って歩き出した。僕もとりあえず付いていく。一体何の要件なんだか。
「お祭りも終わりって感じだねー」
大学へと戻った僕たちは、もうほとんどが店仕舞いをした屋台の前を隣り合って歩く。大学生が笑いながら片付けをする様は、なかなか楽しそうに見えなくもなかった。
「なんか、こう歩いてるとデートみたいじゃない? デート、ランデブー。手、繋ぐ?」
「先輩、そういうネタはいいですから」
「蒼くんって、恋愛小説で無駄に照れ合う2人の描写とか読み飛ばすタイプ?」
そう言われると、確かにそういうシーンをしつこいと思うことはある。
「否定はできないですね」
「それでも恋愛小説は読むんだよね」
「毛嫌いしているわけではないですし、面白い作品は面白いと思いますよ」
「蒼くんの好きな恋愛小説の結末を当てようか」
先輩は少し前に出てから振り返り、悪戯げな瞳をこちらに向けた。
「何ですか?」
「死別。ちゃんと終わる方が好きでしょ? それに蒼くんは、幸せな話より、悲しみとか絶望とか、そんな負の感情がつきまとう話の方が好きそう」
「いやいや……」
言い返そうとした。でも、言葉に詰まった。確かに、ルンルンと楽しげな話よりも、痛みを伴う話の方が好きだ。
「先輩、案外人のことよく見てますね」
「蒼くんのことはよーく見てるよー」
「だから、そういうネタはいいですから」
先輩は僕の声なんて気にせずに、核心をつく言葉を紡ぐ。
「蒼くんはさ、人と深く関わって幸せになるイメージを持ってないんだよ。きっと」
人と深く関わる。
例えば、親友。
例えば、恋人。
……例えば、家族。
結局、僕のパーソナリティは……。
「他人のことをズケズケと言いますね」
「わたしはなんだってズケズケ言うよ。あってるかは知らないけどさ」
「そうですか。そういう先輩はどんな話が好みなんですか?」
先輩は微笑んで言った。
「もちろん、死別だよ。だって、
今のはぜーんぶ、わたしの話だもん」




