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5話 神だから仕方ないよ


「例えば、かぐや姫は空想生物であるところの『神』の擬人化の走りだと言えるでしょうか?」


『現代文学に見る空想生物のあり方』と聞いて、僕はモンスターとかそっち方面の話だと思っていた。しかし、実際のテーマは鬼と神。今はその後半の神の話だ。講演者の専門は平安文学のようで、現代文学に見ると言いつつ、古文の話が多い。


「かぐや姫を例に見ると、神聖不可侵という扱いもしっくりきますね。平安時代における神は、人間の手の届かない存在であったわけです。一方で現代文学を見ると」


 講演者はそこで1冊のラノベを取り出した。それは僕も読んだことがある。神がかなり残念なキャラとして出てくるコメディだ。


「この本、ベストセラーなので、読んだことのある人も多いかもしれませんが、この本の中では、神はとてもコミカルに描かれています。神聖不可侵とは程遠い。とても身近に、まるで人間と同じように神が描かれています」


 先程先輩とした話と、少し被る部分がある。


「つまり、この1000年のうちに、神は私たちにとって、身近な存在になったわけです。では、それは何時なのか。どの時代の何がファクターとなって、神は私たち人間のレベルまで堕ちたのか」


 日本において神の権威が弱まった出来事と言われれば、比叡山延暦寺焼き討ちなり、バテレン追放なり、安土桃山時代あたりが頭に浮かぶ。


「神という存在と宗教は切っても切れません。日本で宗教というと、仏教と神道が主です。特に平安時代には神仏習合で、仏教と神道は近しかったと考えられます。さて、白河三不如意というものを、皆さんは知っていますか?」


 その時、講演者と目が合った。


「君、知っていますか?」


 白河三不如意。平安後期、絶大なる権力を持っていた白河上皇でも従えることができなかったもの。


「鴨川の水、双六の賽、山法師の3つだったと思います」


「そうですね。山法師、簡単に言ってしまえば、山寺の坊主たちですが、彼らは川の氾濫やサイコロの目と並べられるほどに、当時は制御することができなかった。これは、平安時代に神の権威は大きかったということの傍証足り得るでしょう」


 まぁ、現代では山寺の坊さんの権威が総理大臣並になるわけもない。


「平安時代には、坊主たちを無理矢理従えることは、神の怒りに触れるからしてはならないという理屈が本気で通ったわけです。では、少し時代を飛ばして江戸時代を考えましょう。諸宗寺院法度や諸社禰宜神主法度は知っていますね」


 それから、この講義は歴史の話をすることに終始した。現代文学からの視点はどうしたんだ、というのが正直な感想だ。ここまでは神の権威は強かった。この時代には神の権威は弱まっている。この2つを繰り返して、神の権威が低下した原因を探る講義。しかし、結局結論は曖昧なままに講義は終わってしまった。今回の講義では質問の時間も設けられず、なんとなくモニョモニョとした気分だ。


「時の権力者が神を否定すれば神は死ぬの? だと、ヨーロッパではネロ帝が大虐殺をした時点で神は死んでた?」


 再度バスの移動の中。また僕は先輩と神に関して話すことになった。


「信じるものが再び現れた時点で神は復活するものですよ」


「神は幾度となく死んで、幾度となく蘇るわけだ。おぉ、それは神っぽい」


「今日の講義を聴いて、大学で神がどうのって学ぶのは嫌に思いました。神学とか中世ヨーロッパ史とかを学ぶ学部学科はやめておこうと思います」


 神について真面目に考えるのを、僕としてはバカらしく感じてしまう。これは明らかに向いてない。


「なら哲学もやめた方がいいね。哲学の歴史も宗教と切っても切れないから」


 やっぱり僕は理系の方が向いているのか。まぁ、そうだろうとは思っていたけど。


「世界の歴史は宗教と戦争でできてるからねー。あんまり楽しく学べそうにないなーってわたしも思った。こんなジョークは知ってるかな? 神様に1つお願いができて、それを叶えてもらえるなら、あなたはなんと言いますかって質問」


「先輩はお願いを個数の制限なく叶えてくれって言うやつですね」


「いや、その話はもういいんだけどさ」


 話の腰を折ってやると、先輩は少し不機嫌そうなそぶりを見せた。あくまで見せただけで、本気で不機嫌になったわけではないだろう。


「で、その質問に、『神様、お願いですから世界からいなくなってください』って答えるっていうジョーク」


「ジョークっていうか、それ、人間相手に言ったらいじめですよね。何か1つ言うこと聞いてあげるって相手に、なら世界から消えてって、普通に酷いですよ。神様、可哀相です」


「神だから仕方ないよ。って、これも人間相手だと酷いね。まっ、でも神は神だからね。さて、次はなんだっけ? もう14時過ぎたし、お昼食べたい」


 スケジュールの都合上、まだ昼食を食べられていないのだ。


「15時から『論理について』って講義なのであまり時間はありませんが、何かしら口に入れるべきではありますね」


「せっかく学祭に来てるのに授業ばっかり受けててもね、30分でお店回ろ?」


「この時間でもまだ売ってますか?」


 高校の文化祭のイメージだと、既に食販は売り切れている時間だ。


「最悪コンビニで」


「まぁ、そうなりますよね」


 大白先輩と紅林さんとも昼食の話をしつつ、バスが第2キャンパスに着くのを待つのだった。


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