表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第5章 2学期中間試験編
80/332

22話 お願い


「うぐー」


 先輩は不満顔で突っ伏していた。試験の平均点は概数にして、僕が96.4、紅林さんが97.1、大白先輩が94.7。客観的に見れば、その出来は悪くないどころか相当いいと言えるだろう。けれど。

 先輩の点数は、平均98.7点。先輩は10科目試験を受けて、その合計失点は13点。

 完敗だった。道徳のミスがどうこうという話でもない。道徳が95点だったとしても負けている。


「確かにー、わたし、今回会心の出来だったけどさー。内心、これは勝っちゃっただろうなーって思ってたけどさー」


 先輩はぐちぐちと不満を口にしたかと思うと、ガバッと起き上がった。


「大くんが古典と日本史が弱いのは知ってるよ。私立理系って決め込んでるんだからって思わなくもないよ。それでも学年で3位なんて取ってるんだから、超勉強したんだろうなって思うよ。でも、次回は超超勉強して、わたしを倒してね。

 紅ちゃんは、悪い科目は1個もないよね。わたしがここまで快調じゃなかったら負けてたかもしれない。次回は、あと1問ってところを正解できるようにして、わたしを倒してね。

 蒼くんは、道徳どうした? 道徳で100点取ってればわたしに勝ってるよね? なに? 80点って。平均点以下って。ふざけてるの?」


 大白先輩と紅林さんに対しては激励とも言える言葉だったが、僕に対してはただの罵倒。先輩はこちらを睨みつけるように見て、ふざけてるのかと詰問する。


「ふざけていたわけでは……。ちょっと、採点基準を読み間違えまして」


「それで80点? どんだけ盛大に読み間違えたんだよ!!」


「まぁ、はい。次はこんなミスはしません」


「うーん。本人が1番落ち込んでるっぽいからこれ以上は言わないけどさ……。あーあ」


 先輩はガッカリだよと言わんばかりの表情だ。期待にそえず、申し訳ない。先輩は何度か「あーあ」とため息をつくと、それからガバッと体を起こした。


「わたしが勝ったからアレだ! 1つ言うことを聞いてもらおう。ふっふっふっ」


 不敵な笑み、実際には演出しているのが丸わかりでまったく不敵でない笑みを浮かべて、先輩は言う。そんな内容の賭けだったわけだが、何を言い出すのだろうか。先輩なら、一緒に世界征服しようよとか冗談抜きで言い出してもおかしくない気がする。いや、先輩でもさすがにそれはおかしいか。


「身構えなくても、大したことじゃないよ。わたしの聞いてもらう1つのお願いは、今から言う3つのお願いを聞くこと」


 一瞬の沈黙。それからすぐに、


「ズルくないっすか、それ!!」


 大白先輩がそう口を開いた。

 1つ願いが叶うなら、3つ願いを叶えてってお願いするんだ。とてもありがちだが、それを本当に言うのは……。


「ズルくない!!

 お願いその1っ!

 少なくとも3年生の文化祭まではこの3人は文芸部を辞めないこと!

 お願いその2っ!

 来年この文芸部に新入部員を入れること!

 お願いその3っ!

 来年、文化祭に文集を出品すること!

 以上!!」


 先輩は早口にお願い3つを言い放った。お願い自体は、かなり簡単なものだった。それに少し安堵する。


「いや、ちょっと待った! やっぱり追加!

 お願いその4っ!

 わたしが卒業した後もわたしと仲良くすること!」


「菜子先輩は、文芸部が潰れたり、俺たちと疎遠になったりするのが嫌だってことでOKっすか?」


 大白先輩は呆れたように言う。


「今の、1と4は言われるまでもないっすよ。2は、俺に断言できることじゃないっすけど……」


 新入部員。一応心当たりがあるので、口を出す。


「1人は入るって言ってる人を知ってます」


「妹ちゃん!?」


 先輩の即時レスポンスに、僕も「違います」と即座に返す。


「文化祭の時に相談コーナーに来た人です。青田買い、案外成功したみたいですよ」


「おぉ! なら、お願いはちゃんと1個になるね。文集、作って」


「必要ですか? 正直、面倒です」


「だって、そういうのがないと、文芸部いずれ潰れちゃいそうじゃない? わたしの青春の場は末永く残っていてほしい!」


 先輩は卒業を前にして、この部活に感傷的な何かを感じているのだろうか。別に自分がいなくなった後に部活が残っていようが潰れようが、そんなことはどうでもいい気がするのだが。


「まぁ、負けたわけですから、先輩のお願いを1つ聞くってことでいいですよ、僕は」


「文集っすか。1人1作品として、部員が候補も入れて4人で4作品。なんとか見てくれを整えるくらいはできる量ではあるっすかね」


「あっ、わたしの作品を載せてもいいよ。いくつか書いたよね?」


 先輩の書いた話は僕のアカウントのデスクトップに確かに保存されているが、その全部がふざけて書いたようなものだったはず。あれらを文芸部の文集として売るのは大丈夫なのか?


「あんなのでいいんですか?」


「いいんじゃない? 言い方悪いけど、たかが高校の文化祭で出すものだよ?」


 良作を作れと言われるより、テキトーでいいと言われる方が楽でいい。最悪、1日あれば何かしらは書ける。


「あの、文集を作るのはいくらくらいかかるものなのですか?」


 紅林さんの問いに、先輩は自信を持って答えた。


「知らない!」


 まぁ、そうだよな。この人はなんでも知っているわけではない。


「漫研に訊けばわかると思う。来年度の予算申請は、11月くらいだったかな? 部長会でなんか言われるはずだから、大くんがなんとかする」


「予算申請って、去年はいくら申請したんすか?」


「1000円。筆記用具代を1000円申請して、まだ使ってない。なんか買っていいよ。文芸部用のボールペンとか?」


 部活用のペンが欲しいとか、思ったことない。何か書くにしたって、パソコン室にいるんだから、パソコンを使って書く。原稿用紙に手書きなんて時代はとうに終わっている。


「そうっすか。文集作るのは、文芸部って感じがしていいんすけど、俺、文才ないっすよ?」


「いやいや、そんなこと言ったらわたしだって文才ないよ。もう1回言うけど、たかが高校の部活動だよ? 気楽にやればいいんだって。なんでもいいから、なんか作ることが大切。うんうん」


 自分で言ったことに自分で頷く先輩。漫研の文集を見ているから、ハードルが高い気がしているが、あのレベルの品を作る必要なんてないのだろう。なんでもいいからなんか作れ。そんなレベル。


「全然売れなくて赤字になりそうだったら、菜子先輩が全部買ってくれますか?」


「大くん、作る前から売れ残りのことなんて考えないの! ……その時は部員でカンパになるけど、わたしをその中に2人分として含めるくらいならいいよ」


 そもそも作るのにいくらかかるかがわからない以上、赤字になったとしてどのくらいの額になるのかがわからない。しかし、作るとして20〜30部といったところだろうし、大きな赤字にはならないか、たぶん。


「そうっすか。じゃ、来年は文集作るってことで、紅林もいいか?」


「はい。気楽に書いたものでいいのなら、はい、大丈夫です」


 試験で敗北した結果、来年の仕事が増えた。しかしまぁ、今年の文化祭を思い出すに、何か仕事があった方が少なくとも当日は楽か。


「楽しみだなぁ。3人の作品読むのー。ふふふ」


 先輩のお願いがこの程度のものでよかった。先輩なら意味不明なお願いをしてくる可能性もあったし。正直、文芸部でハムスター飼いたいとか言い出すんじゃないかと割と本気で思っていた。


「あっ、お願いその5っ! 今週末ちょっと付き合って」


 先輩がさらっと言ったその言葉で、僕たちの土曜日の予定は埋められた。


 これで5章終了です。活動報告にもあります通り、今週の水曜日は投稿をお休みして、6章開始は8月6日の月曜日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ