16話 深く考えるのは後に回した
解散して店を出る際も、2人と3人に分かれていた。
「これ、明日まで貸してよー」
「あかりんだけズルい! 私も欲しい」
「いや、えっと、貸すのはちょっと」
単語カードを持ってそんなやりとりをする3人を、僕と紺野さんの2人はただ後ろから眺めていた。明日が試験なのに、勉強道具を奪われかけている百瀬くんには同情する。
さて、店を出てすぐの道で、僕だけが別れることになる。僕は、「では、僕はここで」と言って一礼をするために向き直った。その時、視界にいて欲しくない人物が映った。
「あ、え?」
相手は、今の僕の状況を見て困惑しているらしい。男女5人のグループでマックから出てくるなんて、僕には似合わないことこの上ない。
とりあえず、その人物のことは無視をして、4人にさっさと別れを告げよう。
「では、僕はここで」
「うん。また明日ー」
「さよならー」
「ありがとうございました」
「じゃ、またな」
4人から挨拶を受け取って、僕は家へと歩き出す。後ろから、微妙に距離を置いて、それを目撃していた人物たる妹がついてくる。
家に着き、僕がドアの鍵をかけるとすぐさま鍵が開いて妹が帰宅した。すぐに妹が帰るとわかっていて鍵をかけるあたり、スキーマというやつか。
「あれ、なに?」
開口一番それだった。とても率直な問いだ。
「勉強会してた。それだけ」
「あのメンバーで? 見た感じ、兄さんと気が合いそうな雰囲気だったの、ショートカットの真面目そうな人だけだったよ?」
ショートカットの真面目そうな人というのは紺野さんだ。長時間見ていたわけでもないのに、そんなことがわかるのか。コミュ力が高いということのすごさを感じさせる。
「あのメンバーになったのは、完全に成り行きだから」
玄関で話を続けるのは嫌なので、無理矢理に切って、僕は自室に向かう。が、当然のように妹は後ろからついてくる。
「兄さん、えっと」
無視して自室に入るのは、禍根を残すかもしれないと思い、妹に向き直る。
「最近、なんか変わった?」
漠然とした質問が飛んできた。文化祭のせいで、人間関係に少しばかりの変化はあった。だが、それを妹に話す必然性はないと思うのだが。
「まぁ、人間関係が少し面倒になった」
その返答に、妹はオーバーなリアクションをとる。
「おぉ! 兄さんがついに社会性を身につけた!」
酷い言い草だ。僕だって、人間が社会的生物であり、集団を形成するのはもはや本能であることは昔から知っている。本能を理性で抑えられるのが人間であることも知っているけど。
「人間関係が面倒になることを社会性と形容するなら、僕はそんなものはいらない」
「兄さん的に、5人でワイワイ勉強会って、楽しくなかった?」
今日は5人でというより、3人と2人でだったのだが。まぁ、どうにしろ。
「楽しくはなかった。一応、勉強にはなった、というか復習にはなったけど、会である必要は感じなかった」
「そっか。まぁ、兄さんの言うこともわかるけどね。私的には、兄さんが社会性を身につけなくてもいいし。兄さんの思うように振る舞えばいいんじゃない。それで、友達が誰もいなくなってもさ」
友達がいなくなってもか。僕はそのスタンスではある。友達ができなくなろうとも、自分を曲げて集団には追従したくない。それに無駄なこだわりがある。
「言われなくても、僕はそうだよ」
「そうだよね。えっと、明日から試験?」
「ああ」
「なんか理由があるらしいし、頑張って。でも、無理しないで」
「お前は僕の親か?」
言って、このツッコミは微妙なことに気づいた。
「お母さんは、頑張れとしか言わないと思う。お父さんなら、頑張れとすら言わない」
こいつは受験生だ。ここずっと、親からはそういう接し方をされているのだろう。去年の僕もそんな感じだったと思う。
「そうだな。じゃ、無理するなと言ってくれる妹の存在に感謝しとくよ。美月も無理するなよ」
「私を1番無理させてるのって、高1のくせに勉強しまくる兄さんなんだけどね」
妹は苦笑を浮かべた。
「そう言われても、僕は変わらないよ。変われない」
「兄さんに勉強しないでなんて言わない。兄さんから半分を奪おうなんて思ってない。でも」
妹は真面目そうに言った。
「兄さんはお母さんの理想に寄りすぎてるとは思う」
そうか。そう思われていたか。そうだろうな。そりゃそうだ。
「別に、それが悪いとは言わないよ」
僕ら兄妹では、親の話は鬼門だな。そう認識するだけで、深く考えるのは後に回した。
「ああ、わかった」
僕たちは会話を終え、それぞれの部屋へと入った。




