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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第5章 2学期中間試験編
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8話 僕たち兄妹は

 本日2話目です。


 飴がなくなった。


 土日、ひたすら試験勉強に勤しんだ結果だ。飴は3袋ほど用意してあったのだが……。


 現在、時間は夕方。買いに行くか。本気で勉強するなら、飴は僕にとって必須のアイテムだ。虫歯になろうが構わない。


 コンビニに行こう。そう思い、テキトーに見繕った服に着替える。


 部屋を出ると、廊下に妹が待ち構えていた。


「どこ行くの?」


「コンビニ」


 妹は数秒無言でこちらを見る。なんだよ。


「なんかあった?」


 口を開いた妹は、そう訊いた。なんかってなんだ。


「なんかって? 飴がなくなったから買いに行くだけ」


「昨日今日の兄さんおかしいよ? 取り憑かれたように勉強して、受験の時だってそこまでじゃなかった。兄さんの場合、勉強がストレス発散なのかもしれないなーって思ったから、何か嫌なことあったのかなって」


 妹は目を伏せてそう言った。心配されていたらしい。僕なんかより自分の受験の心配をしろよと思わなくもないのだが、何の問題もないのに受験生の心配事を増やすのも悪い。


「いや、今回の中間試験は特別頑張る理由ができたってだけ」


「そうなの?」


 妹の表情から心配の色が消えない。事実それだけだし、どう言ったものか。


「そうだよ」


 ただ一言の返事をする。そうだとしか言いようがない。


「理由って?」


 別に説明するほどの理由ではないと感じた。先輩に勝ちたい。ただそれだけの理由だ。それを口にするのは、なんというか、気恥ずかしかった。勝ちにこだわるなんて、なんか子供っぽいと、自分でも内心思っていた。


「まぁ、部活でちょっとね」


「ふーん」


 それからまた、妹は無言でこちらを見る。ただじっと見られる方としては居心地が悪い。


「ほどほどにしてね。お母さんに美月も頑張りなさいって言われるの嫌だから」


 それが妹の本心だったのか、それともなかなかに迂遠な僕への気遣いだったのかはわからなかった。でも、たぶん本心だろう。


「今回に関しては、ほどほどにはできないかな」


 別に「わかった」と嘘を吐けばいいのに、僕は馬鹿正直に答えていた。結果、妹は不満げな顔をした。


「理由って何?」


 僕は自然とため息をついていた。別に大きなため息ではなかったと思う。でも、妹はそれに反応した。


「ごめん。なんでもない」


 妹はそれだけ告げて、部屋へと戻っていった。妹は空気が読めるんだなと、人を慮れるんだなと、そう感心した。僕なんかの妹であることが、少し驚きだ。そんな冗談を心の中で言いながら、僕はコンビニに向かった。



「陸斗、あなた、模試を受けなさい」


 家に帰って飴を冷蔵庫に入れているところに母親が通りがかった。母親は模試の広告を2枚、僕に渡してきた。


「模試?」


「もう1年生も半分終わったのよ。そろそろ本格的に受験の準備を始めないと。学校の成績がいくら優秀でも、入試問題が解けないと意味がないわ」


 言っていることはわからなくもない。確か10月に学校で実力試験を受けることになっていたと思う。しかし、それに加えて外部模試を受けるのも、実力を知る上でいいだろう。そう納得することにした。


「わかった。申し込んでおく」


「お金はお父さんにもらってね。じゃあ、勉強、頑張りなさい」


 母親との会話はそれで終わった。母親に頑張れと言われるとやる気が失せる。霧散していったやる気を復活させるために、自分の頬を両手で叩いた。


 僕たち兄妹は、たぶん母親のことが嫌いだ。いや、嫌いではないか。苦手、それも違う気がする。単に怖いだけなのかもしれない。

 ただ、僕たち兄妹は、学歴というものさしを信仰している母親を、たぶん内心でバカにしている。それなのに、母親に逆らう術を持たない。だから、その関係が時に歪む。仲のいい家族を演じるのに、内心では苦手意識が生じる。


 母親が満足する言動をとる。それがこの家で暮らす第1条件。そんな風に思うと気持ちが悪くなる。でも、気持ちが悪い話でも、僕たち兄妹は今ではそれを自然にするようになっている。


 まぁ、母親との関係なんて、これまでもこれからも変わらない。そんなどうしようもないことを考えるなら、勉強した方がずっと建設的というものだ。


 僕はもう一度、自分の頬を叩いた。


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