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道徳の解答の作り方 ー文芸部による攻略ー  作者: 天明透
第5章 2学期中間試験編
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4話 勉強って大事かな?

 第2章6話と同じサブタイトルです。あの時とは、蒼井くんの考え方も変わりましたので、再度ということで。


「兄さん今日休みなんだ。ずっるいなー」


 妹が帰って来るなりそう言われた。振替休日なのだからズルくはない。妹が帰って来たのは、僕が冷蔵庫から飴を取り出している時だった。


「勉強?」


 僕が家で飴を舐めるのは、勉強している時とほぼ決まっている。それ故の質問だった。


「もうすぐ中間試験だから」


「受験生の私より勉強してるんだよなぁ、この高1」


 それは、受験生の方の勉強時間が少ないのだ。


「志望校は一浜で決まりか?」


 なんとなく、妹と会話をする気分になった。


「うん。そうする。あっ、文芸部には入らないよ。兄さんと同じ部活とか絶対嫌だから」


「それは僕だって嫌だよ。あっ、でも、人が足りなくなったら名前だけ借りるかも」


「ふーん。文化祭の時は熱烈に勧誘されたけど?」


 部長か。来年はいないだろうに。もしかしたら、大学に進学した後も部活に顔を出すつもりなのだろうか。


「滑り止めは、受けるの?」


 一浜は公立で、妹ならまず受かるだろうけど、万が一落ちるということもなくはない。対して滑り止めになるのは、絶対に落ちることのない私立だ。私立高校は一部の難関校を除いて、受けられれば受かる。


「受けるよ。怖いもん。啓大付属」


 滑り止めまで僕と同じか。僕の影響というものがないことはないのかもしれない。それでも、その決断をしたのは妹だ。


「そうか。まぁ、ほどほどに勉強頑張れ。受かったら定期試験の過去問あげるよ」


「まぁ、あれば便利かもだけど、まだ先の話だよね。受験、2月だよ」


 まだ先、とは言うものの、2月なんてすぐにやって来る。それを受験生を目の前にして言うことはしないけど。


「部長からアドバイスもらったなら、勉強も捗るんじゃないか?」


 僕は思ったことをただ口にしたのだが、その言葉に妹は不満げな顔をした。


「アドバイスなんてくれなかったよ。あの人、兄さんの話しかしないんだもん」


「え?」


「あの人、兄さんのこと大好きだからね。率直に言って、気持ち悪いくらい。というか、学習相談コーナーなんだから、相談させてよ」


 部長は妹の前でどんなキャラを演じてみせたというのか。妹の不満はもっともだ。部長だって、表向きは真面目に仕事をしているものだと思ったのだが。


「まぁ、勉強でわからないことがあったら訊いてくれれば答える。高校受験程度のことならどの教科でも問題ない」


「そう断言できるのは、普通にすごいと思う」


 問題なく受かって一浜に通っていることが、高校受験には対応できるという証明だろうに。


「さて、じゃあ、兄さんの勉強時間を奪いに奪って、受験勉強しようかな」


「わからないことがわからないとか、そういうのは受け付けないから。これがわからないって問題を持って来いよ」


「私だってそれなりに賢いんだから、自分が何がわかってないかくらいわかる」


「そうだよな」


 僕が危惧したのは、ただ僕の時間を奪うために質問に来るのではないかということだったのだが、その心配はないらしい。


「兄さん、大学はどうするの?」


 唐突な質問に感じた。今は妹の受験の話をしていて、僕の話になるとは思っていなかった。それ故に、僕は即座に返答できなかった。


「えっと」


「国立だよね。母さんが納得するような」


 そう言われれば、そうだと答えるしかない。選択肢として許されるのが、それしかないのだから。


「そうだな。そのつもりではある」


「兄さん落ちてよ。じゃないと、私までそうしないといけなくなる」


 それは、冗談で言っている風ではなかった。


「落ちたら落ちたで、あなたこそはってなるだろ」


「それでも、兄さんが落ちてるなら、私だけが失敗にならなくていい」


 妹は既に大学受験が不安らしい。気の早いことだ。その心配は高校に受かってからにしろというものだ。


「悪いけど、僕は美月のエスケープのために受験に失敗する気はないよ」


 別に、名の知れた大学に進学することが、母親がこだわるほど重要でもないことには気づいている。それで人生が決まるなんて思ってない。でも、特に理由なく母親に反発することもない。


「そっか。そりゃそうだ。当たり前だよね、そんなの」


「まぁ、当たり前だよな、そんなの」


「勉強って大事かな?」


 それはいつかと同じ質問だった。受験ノイローゼか、と内心思った。そんなこと考えずにとりあえず勉強する方が楽だと、そう思わなくもなかった。

 ちゃんと答えようと、その考えが1番頭を占めていた。


「何が大事か、それが僕には最近わからない。結構前だけど、過半数が大事だと思ってるんだから大事だって言ったよな。あの主張は撤回する。その主張を僕自身が信じてないことに気づいた。

 勉強が大事か。少なくとも、僕にとっては大事だ。美月曰く、僕は勉強と読書でできているんだろ? なら、その片翼の勉強が、僕にとって大事じゃないわけがない。それがなくなれば、僕は半身を失うんだから。

 でも、美月にとって勉強が大事かはわからない。美月がそれをどう思っているか僕は知らない。だから、何も断言できない。つまり、わからないが結論で、なんか役に立たない返答をしてすまない」


「予想外に真面目に答えてきて、正直引いた。ただ、大事だから勉強しろでよかったのに」


 どうも返答を間違えたらしい。真面目な話っぽかったから真面目に答えたのに。


「まぁ、ありがと」


 そう言って、妹は部屋へと引っ込んだ。


 その日、僕はそれから3回妹から質問をされた。どの問題も一浜を受けるにはいらないような面倒な問題で、難関校の過去問だった。嫌がらせかと思いつつもなんとか解説すると、「ありがと」と素っ気なく礼を言われるのだった。


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