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33話 真白 菜子である

 4章最終話です。まぁ、4章と5章の境界も曖昧なのですが。長いですが、内容はほぼありません。

 活動報告にもあります通り、5章からは投稿を週2投稿といたします。投稿は月曜日と水曜日になるかと思います。申し訳ありません。


 だいぶ遅れて部活に向かった。と言っても、今日は放課になった時間が早いので、そこまで遅いという感じもしない。


「今日は来ないのかと思ったよー」


 パソコン室に入れば、そう部長が言ってきた。いつもならおそーいと憤ってみせる部長だが、今日はただ手を振るにとどまった。


「なんか、クラスメイトがほとんど来てなくて、片付けに手間取りました」


「蒼井がクラスの片付けを手伝ってたのか?」


 大白先輩の言い方はいかにも失礼だった。


「僕が手伝う必然性があれば手伝いますよ」


「俺にはお前たちが何にこだわるのかよくわからんよ」


「それは僕にもよくわかりません。自分のことなんてわからないものですよ」


「盲点領域ってやつだね!」


 部長はジョハリの窓から引用したが、違くないだろうか?


「周りから見てもわからないんですから、未知領域ではありませんか」


「いやいや、実はわたしはなんとなくわかるから、盲点領域だよ」


 ジョハリの窓ってどんな意味を持つんだったか。全然覚えていない。何の本で読んだんだっけ。


「ところで、紅林さんはどちらへ?」


 パソコン室を見渡しても、紅林さんの姿はない。ここ数日、大白先輩がいないのはさほど珍しいことでもなかったが、紅林さんがいないのは珍しい。


「わたしが大くんを尋問してたらどっか行っちゃった。荷物は置いてあるから、戻っては来るんじゃないかな」


 言われてみれば、紅林さんのバックは確かに置いてある。どこに行ったのだろう。この部屋以外にどこにいられるのだろうか、というのは言い過ぎにしても。


「それより聞いてよ! わたしは大くんを問い詰めて問い詰めてとっちめたわけだよ」


 なんとなくその絵は頭に浮かぶ。頭に浮かんだ、部長がペシペシと大白先輩を叩く絵は、傍から見ると微笑ましく映るだろう。だが、大白先輩から見れば、鬱陶しいの一言に尽きるんだろうな。


「それなのに、昨日打ち上げに来なかった理由が、友達グループで後夜祭に行く流れになって断りづらかったからって、ぜんぜーん面白くないっ!! まだ、お婆さんが大荷物で大変そうだったからって理由の方がマシだよ!!」


 部長はご立腹なのだが、何にご立腹なのだろうか、この人は。プンプンとわかりやすく怒ってみせる部長に対して、大白先輩はただ面倒くさそうだ。


「なあ、これで怒られるのって、理不尽だと思うよな?」


 大白先輩の問いにはいかにも同意したくはあるが、一言言っておくとすれば、


「部長は理不尽な人です。知りませんでしたか?」


 ということ。部長は自覚的に理不尽なのだから、そのことは仕方ないと割り切るか、関わるのをやめるしかない。


「……知ってる」


 大白先輩は諦めたようにそう返した。


「蒼くん、昨日の打ち上げ、楽しかったよねー?」


「まぁ、面白くはありましたよ。それ以上に疲れましたけど。大白先輩がいてくれれば、もう少し疲れも少なかったのですが」


「それについては謝っとく。大変だったな」


 大白先輩にとって、部長に振り回される僕は想像に(かた)くないのだろう。おそらく本心で謝られた。しかし、別に本気で大白先輩の不在を怒ったりはしていない。


「なんか、漫研と合同だったんだろ? 部長が失礼なことを言いやしないかってハラハラしなかったか?」


「大くんのその言葉が失礼そのものだよ!!」


「漫研の人たちもたいぶフランクに接してくれましたから」


 それもうフランクだったから疲れたのだが。なぜ、打ち上げの場でストーリーの組み立て方法を議論しなくてはならなかったのか。


「面白かったよー。なんか小説を書いてみたくなって、書いて、なんだよこれーってなって消した」


「そうなんすか」


「もう、わたしって才能ないなーって思うばかりだよ」


「部長がそう言うと、どうなんだって思うっすよ。部長は俺が思うに凡人じゃないっすから」


 僕の心情としても、部長は凡人とは言い難い。この人には、才能がある。その才能は、行動力とか、発想力とか、柔軟性とか、単に学力とか、色々言い方はあるだろう。まぁ、とにかく、この人には才能がある。僕にはそう思える。


「わたしはその他大勢にならないようにしてるから、平凡でも凡庸でもないけど、天才でも鬼才でもないよ」


 部長は平然とそう言ってのけた。至極当然なことを、なんでこんなことがわからないのーと言うかのごとく。


「なら、何者なんすか?」


「わたしを表す言葉はまさに、真白 菜子であるの一言だよ」


「そうっすか。なんか、カッコつけた言い方でごましているだけで、なんも言ってないっすよね、それ」


「さぁね。それより大くん、あと蒼くんも、そろそろ部長って呼び方はダメだよ」


 部長は自分語りを続ける気はないようで、話を変えた。


「もう引退っすか?」


「文化祭終わったら大体みんな引退だからね。部長は引退。これからは菜子先輩と呼ぶといいよ」


 部長とここで過ごすこともなくなるのかと思ったのだが、今の言い方、部長はやめるけど部活はやめないって言い方ではないか?


「部長はって、部活自体はやめないんですか?」


「やめないよ。わたしは受験はほぼ終わってるからね。やめる理由なんてなーい」


 この人ならきっとそう言うのではないかと思ってはいた。


「ということで、部長職は大くんに引き継いで、わたしは相談役になるよ」


「それは、以後は相談役と呼べという意味ですか?」


 部長の呼称は完全に部長で定着している。真白先輩にしろ、菜子先輩にしろ、相談役にしろ、しっくりこない。


「その呼び方で反応できる自信はない」


 まぁ、相談役という呼称は、高校生に対してはどうかと思う。


「部長職って何するんすか?」


「鍵の管理。あとは、時々ある代表者会議の出席。あと、タナ先に怒られる」


「最後の必要っすか?」


「なんか理不尽に怒られるのは部長の仕事だよ。うん。部長だから仕方ない。わたしはそう思って我慢してきた。タナ先、時々すごく不安定になるから、その時は気遣ってあげるんだよ。あの人、あれでいて結構弱い人だからさ」


 部長は暖かな目でそう言った。どういう立場のつもりで田中先生を評価しているのだろうか。大白先輩はあまりピンとこなかったようで、「そうっすか」と空返事だ。


「わたしももう高校を卒業するんだねー。感慨深いなー」


 棒読みだった。この人は卒業式で泣いたりはしないんだろうな。僕も卒業式で泣いた経験はないが。


「あと半年。あっという間っすよね、半年なんて」


「もう9月だもんね。残ってるイベントなんて、2学期中間テスト、2学期期末テスト、学年末テストくらいなもんだよ」


「いや、それテストしかないじゃないっすか。って言っても、学校行事も合唱祭しかないっすね」


「3年生のわたしには合唱祭は関係ないしね」


 一浜の合唱祭は3月、卒業式よりも後に行われ、3年生は参加しないのだ。合唱祭か、これはあまり好きではない。まぁ、クラス単位が大前提となる合唱を僕が好きなわけもない。歌うこと自体は嫌いではないが。


「あっ、来月にあれがあるよ、生徒会選挙。小説だと定番ネタなのに、現実だと全くもって盛り上がらない生徒会選挙」


「ほぼ信任投票で選挙なんてしなくてもいい感じっすから、盛り上がるわけないっすね。今年も、書記をやってる2年が順当に会長になるんじゃないっすか」


 まぁ、現実で生徒会選挙が大盛り上がりするなんてのはまず聞かない。内申書くらいしかメリットがないのだ。やりたいものがいない時点で、盛り上がるわけもない。


「生徒会って何やってるの?」


「俺が知るわけないじゃないっすか」


「何もやってないの?」


「いや、なんかやってるんじゃないっすか? 行事の時なんかに」


「だって、体育祭を仕切るのは体育祭実行委員だし、文化祭を仕切るのは文化祭実行委員、合唱祭を仕切るのは合唱祭実行委員でしょ。なんか、開会式と閉会式で会長が挨拶はするけど、他に何してるの?」


「知らないっす」


 そんな話をしているとパソコン室のドアが開き、退室していた紅林さんが戻ってきた。


「紅ちゃん、生徒会って何してるの?」


 話の流れも何もわからない紅林さんは、唐突な質問に面を食らったが、数秒で立て直し、なぜかスラスラと答えだした。


「生徒会役員のことですよね。生徒会と言うと、一応生徒全員が生徒会の一員ではあるんです。その中で、役員会に参加する権限を持っている人たちが、生徒会役員ということになります。よって、生徒会役員の最も本質的な仕事は役員会に参加することだと思います」


「それで、その役員会って何してるの?」


「生徒総会で取り上げる議題提出や、委員会の招集、あとは予算関係でしょうか。組織上は、生徒会役員会は各種委員会の上位に立つことになります。ただ、実際には委員会を統括してはいないと思います。また、生徒自治に関する権限の中に予算に関するものも名目上は入ると思いますが、これも現実としては任されていないでしょうね。題目の上では生徒会役員の仕事になっているので、形式的に目を通すくらいのことはしていると思います」


 なんとも、切って捨てたような言い方だ。まぁ、一生徒集団に委員会の統括だの予算の管理だの、そんな強力な権限が与えられるべくもない。


「生徒総会って年に2回あるやつだよね。賛成の方は拍手してくださいって言って、とりあえず賛成多数とみなしますってなる、意味不明な採択方法をとってるあれ。でも、あれで何か特別なことが話し合われた記憶なんてないなぁ。委員会の予算とか、活動予定とか、いちいち生徒総会なんてやらずに勝手にすればいいのに」


 形式上そういうわけにもいかないんだろう。生徒会は生徒会役員によって独裁されることはなく、全生徒による直接民主制を取るということが要求される以上は、生徒総会という機会も必要なわけだ。大抵の生徒は議題たる予算やらなにやらには関心もなく聞き流しているのだが。なんか、政治に関心の薄い国民性が育っていく過程が垣間見れる。


「生徒自治というお題目大事に、生徒の必要ないという声を無視して開かれる生徒総会って、もうなんのためにやってるんだよー」


「形式美のためとしか言えません。それで、なんで生徒会のお話を?」


「もうすぐ選挙だからね」


「もうすぐなんですか?」


「1ヶ月とちょとかな。2年生が修学旅行から帰ってきてすぐ。いやー、盛り上がらないよー」


 2年生は修学旅行があるのか。すると、10月は2年生は割りかしに忙しそうだ。修学旅行というのもあまり好きではない。……好きな学校行事なんてないか。()いて挙げるなら試験。


「紅ちゃんとか蒼くんとか、もしかしたら役員に誘われるかもよ?」


「誘われるというのは、立候補の打診をされるということでしょうか? 私に30人も推薦人が集まるとは思えません」


「いや、違う違う。一浜は、会長と副会長は選挙で決めるけど、残りの書記と会計はそうじゃないんだよ。会長、副会長と先生が話し合って決めるんだよね。組閣みたいな感じ? で、その時に、先生はとりあえず成績上位者を推薦するらしいよ。まさかのわたしにも話が来そうになったらしい。タナ先が事前に止めたらしいけど」


 顧問にとっては、部長を生徒会になんて(もっ)ての(ほか)だったんだろうな。なにをしでかすかわからないし。


「私にそういうお話は来ないと思います」


「そう?」


「文化祭前に色々ありましたから」


 そういえば、僕にとってはもうかなり印象が薄いのだが、紅林さんは間接的に教師を1人辞めせているのか。そりゃ、生徒会役員になんて話は来なさそうだ。


「蒼くんは?」


「来ないとは思いますが、来たとしても断りますね」


 僕の人間性もかなり教師の知るところではあるだろうし、打診したとして断ることも目に見えているだろうから、話が来ることもないだろう。


「そっかぁ。蒼くんか紅ちゃんが生徒会になったら、その権力をかさにきて暗躍してやろうかと思ったのに」


 部長は割と本気っぽくそう言った。本気っぽい演出をしているので、これは冗談だ。この半年で、部長が自然にこなす演出にも慣れた。


「選挙の時ってさ、一応演説ってあるんだよ。その公約が大体似てて、行事を活性化しますとか、一浜らしい学校運営をとか言うんだよね。そこで、全く逆の公約、行事を沈静化して伝統を破壊しますみたいなの、それで出馬したら当選しないかな?」


 部長はそんなことを言い出した。そんな候補者がいたら、僕なら票を入れる。だが、多数派には受けないだろう。


「支持者は出てくるとは思います。そんな候補者がいれば、僕も支持します。でも、30人の推薦人を集める時点で難しいと思いますよ」


「大くん、試しにそんな感じの公約で立候補してよ」


「嫌っすよ」


 大白先輩はあっさりと断った。当然だ。


「そっかぁ。だと、選挙が面白くなることもないだろうなぁ」


 それは仕方がないだろう。生徒会選挙なんて、面白いものではない。


 こんなどうでもいい雑談の果てに、今日の部活は終了した。


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