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30話 打ち上げのシーンはカットされることが多い


 昨日のように暇を持て余すこともなく、文化祭は終了した。形ばかりに閉会式に出て、それが終わればクラスに向かう。片付けには明日1日の時間が設けられているので、今日は小HRをして解散だ。


 小HRは、担任に始まり、佐伯さん、黒崎さんがそれぞれにコメントをしたため、小と言えるような長さではなかった。しかし、大きな学校行事の終わりということから、そのくらいの形式美を不快に感じることもない。テキトーに聞き流して、僕はHRが終わるのをただ待っていた。HRが終われば文芸部で集うことになっている。


「では、最後に全員で写真を撮りましょうか」


 担任のその提案にクラスメイトはすぐに従い、並び始める。僕は、もういいだろうと感じていた。あとは写真を撮るだけだ。写真に写る必要はあるまい。

 僕は荷物を持ち、担任がカメラの設定をしているスキに教室から出た。特に引き止めるものもいなかった。


 そうして僕はパソコン室へと向かった。



「よっし、打ち上げだー……大くんがいない」


 学習相談コーナーに大白先輩は不参加であったこともあり、今日はまだ大白先輩に会っていない。打ち上げについても、LINEしたところの返信は『クラスの方で用があるので行けません』。

 まぁ、用があるのなら仕方ない。


「大くん、もともと打ち上げには来る予定だったのに来れないだなんて、文化祭マジックで彼女でもできたのかなぁ」


 部長が本気で勘ぐっているのか冗談なのかはわからない。僕と紅林さんはテキトーに相槌を打つだけだ。


「校庭に行けば会えるかもしれませんよ」


 現在校庭では後夜祭をやっているはずだ。後夜祭というものの具体的な内容は知らない。しかし、学校側がそんなものを校庭でやらせる目的はなんとなくわかる。生徒が打ち上げという名目で騒ぎ立てるのなら、目の届く場所でやらせたいということだろう。


「あんな人で溢れた場所には行きたくない! 不快な方向性でうるさいし」


「部長は後夜祭に参加したことあるんですか?」


「1年生の時、行って2分で帰った」


 その姿はなんとなく想像できる気もする。


「それで、打ち上げって何をしますか?」


 紅林さんの問いに部長は「うーん」と唸る。


「トランプでワイワイとか思ってたけど、3人だし、なんか打ち上げとは違う気もするし、どうしようか?」


 無計画か。部長がアイディアを持ち得ない以上、僕に案があるわけもない。


「解散しますか?」


「しなーい!」


 まぁ、本気で解散するつもりで訊いたわけではない。


「どこかご飯屋さんに行きますか?」


 紅林さんの提案は、打ち上げというワードから想像しやすいものだ。が、この3人でご飯というのは、僕としてはなんとなく居心地が悪い。


「うーん、なんかパッとしないなぁ。こう、悪くないんだけどさ、もっとなんか面白いことないかなぁ」


 部長はそんなことを言うが、そうそう小説の如き面白いことは起こらない。いや、小説ですら、打ち上げのシーンはカットされることが多い。ただご飯食べながら雑談するだけでは、面白みはないのだ。


「今日は結構楽しかったからなぁ。最後も楽しく終わりたいのだよ。ご飯行くなら、蒼ちゃんも呼ばない?」


「蒼ちゃんって、妹のことですか?」


「うん! 今日1番楽しかったのは、やっぱり蒼ちゃんとの会話だからね」


 この3人でご飯も居心地が悪いが、さらに妹も加わるのはそれ以上に居心地が悪い。絶対に嫌だ。


「打ち上げとか、やらなくてよくないですか? 僕たち文化祭で大したことしてないでしょう?」


 1日目は言わずもがな。2日目だって、ちょっとした暇つぶしに勤しんだだけだ。


「文化祭で大したことをした人なんて、そうそういないもんだよ」


「そうですか? クラスメイトだってまぁ頑張って準備していたみたいですし、漫研なんて、相当時間を割いているんじゃありませんか?」


「いいじゃん! 形だけでもやりたいの! ワイワイ打ち上げ行くみたいなの!」


 理屈じゃないのだと、部長はそう言う。理屈じゃない要望を否定するには、理屈じゃない否定が必要なわけだが、打ち上げ自体は感情的になってまで断固拒否したいものでもない。断固拒否したい点は別だ。


「それでも、妹を呼ぶのは拒否します」


「うん。それについては断られると思ってた」


 部長はさも当たり前のような顔をしてそう言った。なら、そんな提案するなよ。


 そこで一瞬の沈黙。その沈黙の際、廊下の方から、何人かの声が重なった「かんぱーい」という掛け声が聞こえてきた。


「今の声、漫研だよね?」


「たぶんそうかと」

「そうだと思います」


「ねぇ、わたしたちって間違いなく漫研の売り上げに貢献したよね?」


「部長?」


「漫研の打ち上げに乱入しても問題ないんじゃないかな?」


 部長はおそらく本気で言っている。いやいや、待て待て。


「部長、さすがに立場をわきまえましょう。僕たちは漫研にとっては間違いなく部外者です。勝手に宣伝して、それを理由に打ち上げに乱入というのは、招かれざる客もいい所ですよ」


 加えて、漫研が用意したものを飲み食いしては、あのセールスマンにどう言われるかわからない。


「そうかなぁ……」


「真白先輩はどんな打ち上げがしたいんですか?」


「うーん。なんだろう。何かいつもと違うことがしたい!」


 漠然としている。トランプやご飯はいつもとさして変わらないということはわかるけど。


「3人ってのもあれですし、後日にしませんか? 大白先輩も来れる日に」


 とりあえずそう提案する。文芸部としての文化祭において、大白先輩はほぼ何もしていないが、それでも僕的にはいる方がいい。


「確かに、大くんが来れる日にした方がいいかなぁ。だと、今日は解散? それはちょっとなぁ」


 そんな風に結論の出ないやり取りは数分にわたって続いた。僕たちの会話が解散に傾きかけたところで、パソコン室のドアがノックされた。ノックの回数は2回。


「いますよー」


 部長はそう返事をした。相手側はノックの回数なんて意識してないと思う。


「文芸部さん、今、お忙しいですか?」


 ドアを開け顔を覗かせたのは、漫研部長のセールスマンだった。この人の名前、なんだっけ?


「ううん。打ち上げどうしよーって話してただけ。あっ、感想か! うん。今でも大丈夫だよ」


 部長の返答にセールスマンの表情が明るくなる。


「なら、うちの打ち上げに参加しませんか? お菓子とジュースくらいしかありませんけど、おもてなししますよ。うちの文集を宣伝していただいたお礼も兼ねて」


 その言葉に、部長は僕の方を見て、これ見よがしに、声に出さずに口を「ほらぁ」と動かした。


「いいんですか?」


 一応確認を取る。


「と言うより、来てくれないかな。男が僕1人で、正直居心地が悪くてね。君も、わかるだろう?」


 セールスマンは部長と紅林さんを見た後、僕にそう返した。

 漫研って残りの6人が女子なわけで、居心地が悪いのはわかる。しかし、この人にとってはそれが日常では?


「そういうことなら、お言葉に甘えましょうか」


 僕たち3人は荷物を撤収して、向かいの書道室へと場所を移した。返しに行くのが面倒だったので、パソコン室の鍵は持ったままだ。


「文芸部さん、どうぞどうぞ」

「文芸部さん、文化祭お疲れ様です」

「どうぞ、こっちに。コップはこれを使ってください」


 漫研部員たちは僕たちを歓迎してくれた。なんか、来賓のような扱いだ。僕としては、こう丁寧に扱われるのは、テキトーにあしらわれるよりも苦手だ。

 僕は無意味に頭を何度か下げて、紙コップなんかを受け取りながら勧められるがままに椅子に座った。紅林さんもだいたい僕と同様の反応をしていたが、部長だけは堂々と泰然自若とでも言えそうな態度で席に着いた。なぜ、この人はこの状況をさも当然のように受け入れられるのだろう。


「文芸部さんも来たことですし、改めて乾杯しましょうか!」


 漫研部員たちが紙コップを掲げたので、僕たちも紙コップにジュースを注ぎ、乾杯をした。紙コップなので特に音もならないが、こういうのはなんというか、打ち上げっぽい。


「文芸部さんのお陰で、文集40部完売できました。1日目が終わった時点では、実は絶望してました。ありがとうございました!」


「「「「「「ありがとうございました! 」」」」」」


 そんな謝辞を受けてしまうと、それがただの暇つぶしやお遊びだったとは言いづらい。


「いやー、わたしたちの宣伝のお陰かどうかはわかんないけどね」


 部長にしては謙虚な一言だった。僕と紅林さんも「そうですよ」と部長に同調した。


「いえいえ、中学生ならともかく、その親があんなに来たのは、絶対に文芸部さんの影響ですよ」


「私たち、作品づくりに必死で、宣伝はかなりおざなりだったもんね。宣伝も大事だなって実感。来年はもっと頑張る」


「文化祭直前に焦らないように、来年は春から準備を始めた方がいいかもしれませんね」


「それだと、新入生は辛くない?」


「確かに。なら、私たちは早めに作っておいて、新入生が入って来た後はその指導に時間を使えるようにするとか」


「今年、1年生は大変だった?」


「大変じゃなかったわけないじゃないですか……」


 漫研部員たちが来年のプランなんかを話し出すと、僕たち文芸部は完全に蚊帳の外だ。やはり、他の部の打ち上げに乱入するのは無理があったのではなかろうか。

 漫研のイメージ、これまでは3人と3人と1人の部活という感じだったが、今の様子を見ると、6人と1人の部活という感じだ。


「来年の話はまた今度にして、今は純粋に打ち上げを楽しまないかい? 文芸部さんもいることだしね」


 セールスマンの一言で、漫研部員たちは僕たちの存在を思い出したようで、お菓子なんかを勧めてきて、それからは談笑しながらお菓子を食べる会となった。

 女子の割合が高いこともあってか、やはりなんとなく居心地は悪かった。


 文化祭終了。4章はもう少し続きます。

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