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29話 ひたすらに面倒くさい


 書道室を出れば、すぐに目的地たるパソコン室に到着。パソコン室の前に1人の中学生が立っている。開くのを待っているのだろう。普通なら少しばかり申し訳なく思うのだが、それが見知った顔であるとそうはならない。僕は書道室に戻りたい衝動に駆られた。


「あ」


 こちらを見やった中学生は、そう一言呟いた。こちらは言葉をこらえたというのに。


「待たせちゃった? ごめんごめん、今開けるから」


「えっと、いえ、私は、やっぱりいいです」


 その場を去ろうとする中学生。撤退の意思は悪くないが、その行動は奇行だ。


「待ってたのに? 遠慮なく入ってよ」


 部長はパソコン室のドアを開け放った。まだただの人見知りと思われているようだ。うまくいなくなってくれよ。


「えっと……」


 目線をこちらに向ける中学生。その行動はダメだろう。


「ん? 蒼くんの知り合、妹ちゃん!?」


「えっ、と」


 急激にテンションの上がる部長と困惑する妹。こうなっては、妹をこの場から消すのは難しい。あー、面倒くさい。


「いやー、会いたかったんだよ。ほら、入って、入って」


 妹は部長に手を引かれ、パソコン室へと連行されていった。僕も廊下に突っ立っているわけにもいかず、それに続く。


「さぁさぁ、なんでも相談して。お兄ちゃんへの愚痴とかお兄ちゃんへの愚痴とか」


 愚痴は相談ではない。そんな部長に対して、妹は「えっと」と繰り返すばかりだ。たぶん頭の中では思考が回っていることだろう。


「部長、ここは学習相談コーナーですよ。その持ち前の聡明さで、その中学生を一浜に受からせてあげてください」


「えー、だって、勉強の相談なんて蒼くんにすればいいじゃん。1年生の中で学年トップの蒼くんに」


 妹の前でわざとらしく成績の話をするなよ。


「あっ、自己紹介しないと。蒼くんの憧れの先輩の、真白 菜子ですっ」


 あー、ひたすらに面倒くさい。


「あ、えっと、同学年の紅林です」


 部長はキメ顔でニッと笑い、紅林さんは丁寧に頭を下げた。対して妹は「えっと」を連発するのはやめ、はぁと息を吐くとしっかりした口調で、


「そこの妹の、蒼井 美月です」


 と僕の方に手を向けて言い、頭を下げた。これは、現状を受け入れたか。開き直って僕の妹をやるのだろう。


「お二人とも、兄と同じ文芸部の方ですか?」


「そうだよ。アットホームで和気藹々としたブラックな部活だよ」


 その形容、気に入ったんですね。当然に漫研でのやり取りを知らない妹はその言葉の意味を計りかねる。しかし、コミュニケーションに関する基礎スペックの高い妹は、そこで沈黙したりはしない。


「なるほど。兄は学校の話をあまりしないので、お二人のことも私はあんまり知らないんですよ」


「蒼くん、家の話は結構するけどね。わたしは妹ちゃんのこと知ってるよ。コミュ力が高くて、教師受けもよくて、ついでに顔もいいんだよね。確かに可愛いなぁ」


 部長の言葉に反応して、妹がこちらを睨んだ気がするが、まぁ、気のせいということにしよう。


 そこで別の相談者がやってきたので、僕は会話から外れて、その相談者を受け持った。部長と妹との会話を監視できないのは(いささ)か不安だが、それ以上にその会話を聞いているのは精神的に疲れる。


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