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28話 アットホームで和気藹々としたブラックな部活


 それから何人かの相談を受け、なかなかに賑わった学習相談コーナーだったが、昼時になると相談者はめっきり減り、一時的に暇な時間が訪れた。


「いやー、思った以上に盛況だったね」


「需要があるんですね、学習相談コーナー。正直に言って、びっくりしました」


 僕も紅林さんと同じ感想を抱いていた。ここまで賑わうとは思わなかった。


「漫研、どうなったかな? ちょっと行ってみない?」


「全員でですか? ここを開けるわけには」


「お昼休憩ってことでいいでしょ。行こ行こ」


 部長はいつのまにか作っていたらしい『お昼休憩中 13時には再開します』という紙をドアに貼って、僕たちを引き連れて向かいの書道室に侵入した。


「いらっしゃいませ。申し訳ありません。文集はもう売り切れで。……文芸部さん?」


 書道室に入ると昨日はいなかった漫研部員にそう対応された。なんと、目標はすでに達成されていたらしい。


「1人?」


 部長の言うように、現在書道室にはこの部員が1人しかいない。


「はい。もう商品がないので。えっと、聞いてます。文芸部さんから感想をもらうといいって、和泉先輩から。えっと、今、みんなお昼食べに行っちゃってて。えっと、それと、あ、ありがとうございます」


 漫研部員は勢いよく頭を下げた。


「文集が飛ぶように売れたの、文芸部さんのお陰ですよね。向かいで、宣伝してくださったみたいで」


 まぁ、当事者にはそりゃバレる。あからさまに宣伝したし。


「お礼なんていいよ。わたしたちが楽しむためにやったことだし。いやー、もう完売かぁ。びっくりするほどうまくいったね。何部用意してあったの?」


「40部です。売れ残り覚悟で、足りなくなるとは思いませんでした」


 40部というのが多いのか少ないのかはよくわからない。完売ということは、売り上げにして8000円か。これも十分な額なのかはわからない。完売しても自費負担があるとかはないだろうけど。


「ごめんね、なんかわたしたちの暗躍に巻き込んじゃって」


「いえ、感謝で一杯です。これなら、部長に色々言われなくて済みます」


 あのセールスマンは、やはり金にうるさいのか……。


「あと、感想なんだけど、今日はわたしたちも仕事があるからね。後日でもいいかな?」


「あ、はい、もちろん大丈夫です」


「あと、お昼食べてもいい?」


 例によってパソコン室は飲食禁止で、今日は食べ歩く気もなく、僕たちはいつも通り漫研に間借りしてパンを食べることになる。


「はい、大丈夫です」


 そんなわけで、漫研の部屋なのに文芸部の方が人数の多い食事となった。なぜか漫研部員も弁当を片手に僕たちの輪に加わってきた。


「文芸部の皆さんは、あれ、具体的に何やっているんですか?」


 会話にも普通に参加してくる漫研部員。それはいいのだが、名前が思い出せない……。


「うーん、漫研の宣伝?」


 部長の答えでは意味がわからないので補足する。


「中学生とその親からの相談に乗っています。受験対策についてが主ですけど、中には一浜の雰囲気なんかを訊いてくる人もいました」


「へぇ。なんで文芸部さんが?」


「暇だったから!」


「まぁ、そうですね。主な理由は暇だったからです」


 漫研部員は「なるほど」と言いつつ納得はしていないようだった。暇だから学習相談コーナーをやっているというのは、まぁ、意味不明だ。


「そういえば、午後からは大白先輩も参加するんですか?」


 そう部長に訊くと、部長は「うーん、どうだろう?」と煮え切らない答えを返した。


「どうだろう、とは?」


「LINEはしてるんだけど、既読つかないんだよね。どうなるかわかんない」


 内心で、大白先輩はいてもいなくてもいいかと思い、それはどうなんだと思い直す。大白先輩はいてもいなくてもいい存在ではない。


「相談自体は、大白先輩がいらっしゃらなくても私たちで3人で対応できるでしょう。午前中と同じように」


「そうだね。大くんの顔だと、接客は難しいしなぁ」


 酷い言い草だ。少しばかり強面なだけではないか。


「人当たりなら、大白先輩が1番いいとは思いますよ」


「蒼くん。いい人でも、顔は大事だよ」


 そして微笑する部長。なるほど、部長の場合はその容姿に助けられていることが多いのだろう。残念ながら、確かに顔は大事だ。


「部長が言うと説得力がありますね」


「それはどういう意味? わたしって、人はいいけど顔怖い?」


「蒼井くんは、真白先輩は可愛いって言っているんですよ」


 そう注釈する紅林さん。しかし、その理屈だと、顔はいいけど人が悪いと言っていることにならないだろうか。


「なるほど。わたしの美しさは性格の悪さを補って余りあると、蒼くんはそう言いたいんだね?」


 自分で言うか、それ。


「別にそんなことは言ってませんよ。その幼気(いたいけ)な容姿はさぞ便利だろうと、そう言ったんですよ」


「幼気って、痛々しいって意味かな? わたしって、痛々しいほどいじらしい?」


 この人は、見た目が幼いという意味で使っていることをわかっていてこういうことを言う。


「文芸部さん、仲良いですね。漫研は、悪くないですけどみんなライバルって感じなので、ちょっと羨ましいです」


 僕たち3人の内輪ノリに、内輪ではない漫研部員はそう言った。


「うん! アットホームで和気藹々とした部活だよ」


「その言い方、普通なら間違いなくブラックですよ」


「なら、アットホームで和気藹々としたブラックな部活だね」


 文芸部にブラックな要素などないだろうに。そもそもが好き勝手やっているだけの部活だし。


「ブラックなんですか?」


 漫研部員の問いに部長は、


「今日になって相談コーナーやれとか言うくらいにはブラックだよ」


 と答えた。まぁ、その通りではあるか。暇つぶしにやたらと全力なのは、確かに見方によればブラックか。


「それは、ブラックですね」


 漫研部員は哀れむように言った。僕たち自身にとっては別にブラックではない。ただの暇つぶし、と言うより、お遊びなのだから。


「割と楽しいよ。幼気な中学生を相手にするの」


 部長はそう言った。部長が中学生を幼気と表現するのは、なんか違和感があった。


「そろそろ戻りますか?」


 紅林さんの言葉に時計を見ると、そろそろ13時にならんとしている。向かいなのだから移動時間はないに等しいが、戻るべき頃合いだろう。


「そうですね」


 僕たち文芸部は席を立つ。


「お仕事、頑張ってください」


 漫研部員からの激励に一応会釈で答えつつ、僕たちは書道室を出た。


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