25話 ドラマティックな1日にしよー!!
2日目は文芸部もちゃんと文化祭します。たぶん。
やはり天気予報はあてにならない。曇りのはずが、晴れている。雲の量は全体の4割ほど、天気としては完全に晴れだ。
文化祭2日目はそれなりには天候に恵まれた。
今日は特に妹と会話をすることもなく、家を出た。暑くも寒くもないいい気温だ。いや、長袖のワイシャツでは少し暑いか。Tシャツなら過ごしやすい1日になりそうだ。
学校付近になると、髪をバッチリとセットした女生徒がちらほら見受けられ、校舎内ともなれば装いも多様だ。
昨日よりも文化祭している感じだ。心なしか活気にあふれている感じがする。この雰囲気は、ちょっと過ごしづらそうだ。
小HRまで、まだ10分近くある。この時間に教室に入れば、居心地の悪い時間を過ごすことになるのは目に見えている。そんなことを考えた僕は、教室ではなく職員棟に向かっていた。
目的地があるわけではない。時間つぶしだ。ここ数日、やたらに時間つぶしをしている気がする。
この過ごしづらさの解消のために、来年は文芸部として文化祭に噛んだ方がいいだろうか? そんなことを真剣に考えてしまう。まぁ、仕事はないに越したことはないだろうけど。……仕事がない方がいいなんて思えるのは高校生までだろうな。
職員棟にて、ぼーっと突っ立ってただ時間が過ぎるのを待つ。職員棟でもいくつかの団体が準備に勤しんでいるが、生徒棟よりは少なく、場所を選べば人とすれ違うこともあまりない。
ただ時計を眺める5分。なんか、今日これからの6時間弱が不安で仕方がない。昨日一通り回っているわけだし、そんなに暇つぶしができる気がしない。
そんな不安を抱えながら、僕は教室へと向かった。
昨日よりも活気があるという点は、1年2組も例外ではなく、誰が持ってきたのか知らないがスピーカーに、誰のかはわからないスマホが繋がれて、それなりな音量で音楽が流れされていた。そんな中で、クラスメイトは昨日のこの時間ほどは忙しそうでなく、談笑を楽しんでいるようだった。
そんなクラスメイトたちとはいつも通り挨拶をすることもなく、僕は教室の隅に陣取った。机がないのは不便だ。
僕が入って間もなくして、担任も入室し、小HRが始まった。今日は開会式がないので、これが終わればすぐに文化祭が始まる。
小HRでの担任の話は、どこかで聞き覚えのあるようなありふれた激励だった。
*
「文化祭といえば、それだけで1冊の小説が描かれるような大イベントだよね?」
昇降口で部長と紅林さんと合流した途端に、部長がそう問いかけてきた。僕たちは部長に追従して歩く。部長には目的地があるらしい。
「まぁ、そうですね」
「なのに、わたしの昨日の日記は6行。おかしいよ!!」
よく6行も書くことがあったなとさえ思う。僕は日記など書いていないが、仮に昨日の日記を書いたとしたら2,3行しか書けなかっただろう。まぁ、現実なんてそんなものだ。小説のようにはいかない。
「だから! 今日は劇的な、ドラマティックな1日にしよー!!」
部長は拳を突き上げた。僕と紅林さんは何も言わずにそんな部長を見るだけ。というより、なんと言えばいいのかがわからない。
「そのためにね、わたしは今日の目標を決めてきたんだよ!」
部長が何を言い出すのか、それに若干期待している僕がいた。
「目標は、漫研の文集の完売!」
それは、文芸部が画策するべきことなのか?
「それはどういった方法で?」
ひたすら宣伝して歩くとかだと、劇的とは言えないだろう。地味な努力が実を結ぶというのは、なんとも面白みに欠ける。
「ふっふっふ。ちょっと色々考えてきたんだよ、わたしは。そのせいでちょっと寝不足なんだよ、わたしは」
「なるほど、それで」
テキトーに相槌を打つ。テキトーであっても、反応があった方が部長は喜ぶから。
「まず、仮定として、漫研の文集は面白い。すなわち、読んだら買う。したがって、漫研に人を集めれば目標は達成される」
「仮定は、まぁ、そういうことにしましょう。それで?」
「ここで、問題を明確にしよう。たぶんこの文化祭で1番の良品を売っているのに、なぜ漫研は賑わっていないのか」
部外者たる僕たちが、賑わっていないと断ずるのはどうなのだろうか。しかし、まぁ、昨日の様子を見る限りでは大盛況ではない。それはなぜか。
「需要がないからではありませんか?」
これまで黙っていた紅林さんは現実的な指摘をした。文化祭で文集を買う必要に迫られることはまずない。食販と比べて文集は需要が低いのは間違いないだろう。その分、供給も少ないが。文集を出している団体は漫研だけだろう。
「わたしもそれが第1要因だと思った。需要が低いから売れない以前に人が来ない。
そして、わたしの思う第2要因、知名度が低い。漫研は去年出品してないし、大きな部でもないから文化祭で何をしているのかがあんまり知られていない」
「パンフレットにはちゃんと文集を売っているって書いてありますよ」
文化祭のパンフレットの出店団体一覧を見ながらそう言った。
「そのパンフレット、外から来た人は見るけどさ、在校生ってあんまり見てないよね。一浜の文化祭自体がそんなに賑わってないから、客の半分は在校生なんだよ」
しかし、その賑わっていない一浜の文化祭では、知名度が高い団体なんて片手で数えるほどしかないわけなのだが。
「第3要因、立地が悪い。職員棟の3階だからね。家庭科室に被服室は生徒が準備に使う部屋だし、パソコン室、物理室、数学科準備室に英語科準備室は締め切られてる。出店してるのは書道室の漫研と、視聴覚室の吹奏楽部だけ。しかも、吹奏楽部は1日に3回演奏会をするだけで、継続的に開いてるのは漫研だけ、……立地悪過ぎない?」
そういう言われ方をすると確かに酷い。しかも、職員棟2階は大部分を職員室が占めている関係で、出店団体は音楽室の軽音のみだったと思う。職員室近辺は関係者以外立ち入り禁止だし。1階は特別教室のお陰で賑わっているが、3階まで上がろうとは、目的がなければ思わないだろう。
「でも、今から出店場所は変えられません」
紅林さんのいうことはもっともだ。
こんなやり取りを文化祭物の小説で読んだことがある気がする。部長は小説のトレースがしたいのか。
「うん。第3要因は潰すのが難しい。だから、わたしは昨日眠れなかったんだよ。寝不足なんだよ」
「それで、寝ないで考えた結果、アイデアが浮かんだんですか?」
「この文化祭の客の、1番大きなグループは在校生。なら、2番目に大きなグループってなんだと思う?」
それについては見当がつく。
「中学3年生、もしくは去年の卒業生でしょうか。外からくる人のほとんどはこのどちらか。あとは別の高校の生徒が少数という感じだと思います。近所に住んでいる実感として、近隣住民が一浜の文化祭に行ったりはしません」
「そう。わたしのこれまでの実感として、卒業生よりも中学生の方が多いよ。中学生なら親がくることもあるしね。漫研だって100部とか200部とか作ってるわけじゃないだろうし、中学生を取り込めば完売いけると思うのだよ」
「なるほど。それで、中学生を取り込む方法は?」
「職員棟3階はさっき言った通りスカスカだからね、たぶん結構好き勝手できる。だからそこで、学習相談コーナーを設けてやろうと思うのだ!」
僕たちは部長に付き従って歩いていた。そして今、パソコン室の前に到着したのだった。そのドアには、いかにも取ってつけたように紙が1枚貼ってあった。『学習相談コーナー 現役の生徒が生の声を伝えます』と。




