23話 雑談の果てに、チャイムが鳴った
文化祭初日終了です。
部長は読み終わると、「うん。買うよ」と200円を差し出した。
確かに、文化祭で200円なら安いと感じさせるクオリティではある。
「じゃっ、感想なんだけど、言いたいこと言うからね」
大抵、部長は言いたいことを言っていると思うが、こう断るのは初めて聞いた。
その言葉に、漫研の部員は1人を除いて真剣に頷いた。残りの1人は200円を売り上げボックスに入れる方が大事らしい。
「まず、最初の『文化祭へようこそ』。普通。何かもが普通で無難。文化祭で出す作品ならこれでいいだろって感じで描いたのが透けて見える作品でした。絵は上手いと思う。最初に置く作品としては、高校の文化祭らしさを演出してて、それは悪くないのかもしれないかな」
部長もこういう場でふざけることはないようで、ちゃんとコメントをするらしい。
「次の4コマ漫画、『まんけんニッキ!』は——」
部長の講評はかなり的を射ていたと感じる内容だった。部長がコメントを終えると、「ありがとうございました!」と漫研部員は揃って頭を下げた。
「結構きっついことも言ったけど、少なくとも文化祭クオリティではなかったよ。200円なら惜しみなく出せるものだった。なんか、何様ーって感じだよね。わたし、漫画のことなんてわからないのにねぇ。でも、すごいって思った。この文化祭で買ったものの中では1番のあたりかな。89点くらいはあげちゃう」
「「「「ありがとうございます!」」」」
再び、漫研全員が頭を下げた。1人だけ、お買い上げありがとうございますという意味合いだったりする気がする。
僕たちは全員漫研の文集を買った。僕としても、この文化祭で唯一買って後悔しないものだと感じている。
「あの! できれば明日も来てくれませんか?」
そう告げてきた漫研部員は、商魂たくましいセールスマンではない。いや、セールスマンだったとして、さすがに同じものを2冊は買わない。
「ん? なんで?」
「今日はあたしたち3人が店番担当なんですが、明日は他の3人が店番なんです。皆さんの言葉を、直接あの3人にも伝えたくて」
漫研、3人と3人と1人の部活。だが、3人と3人は別に険悪ではないらしい。前に、切磋琢磨し合うライバル的なことを言っていた気がするが、それは事実なのだろう。残りの1人の扱いは結構雑だけど。
「それは別にいいよ。うん。でも、明日は買わないからね。冷やかしとか言わないでね」
「文芸部さん、今まではお互いあんまりお話しもしなかったですけど、これからは意見交換とかぜひしたいです!」
なんかテンションの上がった漫研部員がそんなことを言い出した。意見交換と言われても、こちらには意見を言われる対象がない。文芸部は創作活動はしていないのだから。
「うーん、意見するのはいいけど、わたしは誰かから意見されるのは嫌いかな。基本無視しちゃうし」
部長の返答はなんとも正直だ。部長は他人がどう言おうが自分の意見を変えることはないだろう。この人は、自分一人で完結している。
「そうですか。文芸部さんは、文化祭に文集を出したりはしないんですか?」
「今年はしてないねー。来年はどうする?」
部長は大白先輩に問いかけた。文化祭が終われば3年生は基本的に引退だから、もう少しすれば大白先輩が部長になる。来年のことを具体的に考えるのは、今の部長の仕事ではないのだ。
「俺に訊きますか。蒼井、紅林、どうする?」
「文集ですか。どうやって作るのかもよくわかりませんから、なんとも言えません」
「印刷所なんかの紹介ならあたしたちがしますよ。漫研にはそのあたりのノウハウがありますから、文芸部さんは作品作りさえすれば、それを形にする方法はあたしたちが教えます」
漫研はどうも乗り気らしい。そんな前のめりに「だから、一緒にやりましょう」とか言われると、僕は逆にやる気がなくなってしまう。
「文集はやめておきませんか。漫研みたいに部員が7人もいれば格好が付きますが、文芸部は新入部員が入らないと3人ですから」
僕は消極的な意見を述べた。義務はできるだけ少ない方がいい。必要のない責任は負いたくない。
「そっか。なら、来年も特にやらないって感じっすね」
「そうですか。文芸部さんの作品に興味があったので、残念です。なら、意見交換はなしでも、こちらが意見をもらうのはいいですか? 時々、作品を持ってパソコン室にお邪魔しても」
「それはいいよ! わたしとしては大歓迎! 大くんもいいよね?」
「俺はいい意見なんて言えないっすけど、読んで感想言うくらいいいっすよ。蒼井と紅林もいいよな?」
「ええ、もちろん」
「はい、もちろん」
そんなわけで、漫研の人たちとこれまでよりも少し仲良くなった。
このやり取りの間、他の客は誰も来なかった。これだけいい品を出しているのに、客は来ないのか。
「こういうの読むと、自分でも何か書きたくなるよねー、漫画は無理だけど」
「真白先輩は小説とか書いたりするんですか?」
「したことはあるよ。でも、わたしが納得するものにならなかったから、それ以来してない。紅ちゃんは?」
「私も書いたことはあります。でも、人に読んでもらったことはありません」
創作をしたとして、それを他者に見せるのに抵抗があるのはわかる。かくいう僕も小説らしきものを書いたことはあるのだ。まぁ、読み直すと自己満足であることがありありとわかって、すぐに消したが。
「描いたものは公開した方がいいですよ! 間違いないです」
さっきから積極的に話してくる漫研部員はそう主張した。上履きを見ると、この人は2年生らしい。残り漫研部員は、セールスマンが3年生で、他2人は2年生と1年生のようだ。
「公開するレベルにないってわたし自身が思うものは、公開できないなぁ」
「いえいえ、それだとキリがありませんよ。公開して、厳しい意見をもらいながら成長するものなんですよ!」
「いずみん、ちょっと落ち着いて」
エキサイトした部員を他の部員が宥める。いつもの光景みたいな雰囲気があるあたり、この人は興奮しやすいのだろう。
そんなやりとりをしていると、やっと他の客が部屋に入ってきた。
「「「「いらっしゃいませ!」」」」
漫研部員がその客の対応に移ったところで、僕たち文芸部は部屋を後にした。
「いやー、なかなか楽しかったね。去年は漫研も出品してなかったんだよ。1年でこれができると思うと、びっくりだよ」
部長は手に持った文集を振りながら言う。確かにびっくりではある。
「みんな、漫画って読む? わたしは小説ほどじゃないけど読むよ」
話しながらテキトーに歩く。目的地なんてない。外を見ると、いつの間にか雨は止んでいた。天気予報もあてにならない。
「俺は漫画の方が多いっす。って言っても、週刊誌を読むくらいっす」
「僕も読まないことはないですけど、買うことはありませんね。立ち読みとかウェブ版を見るだけです。小説の方が好きなので」
「私は読みません。漫画が嫌いってことはありませんが、小説の方が好きなので、ノベライズの方に手が行きます」
そんな雑談をしながらの時間潰し。漫研にいた時間がそれなりにあったからか、あと30分足らずで文化祭初日は終了だ。
手に持った文集を見れば、完全に無駄であった1日だとは思わないが、まぁ、有意義とは程遠い1日だった。文化祭なんてイベントも結局はこんなものだ。
いつもと変わらない雑談の果てに、文化祭初日の終わりを告げるチャイムが鳴った。




