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17話 価値観の近い先生がいい先生


 暇を持て余して、ただなんとなく廊下を眺めていると、見覚えのある初老の男性が歩いてきた。これは部長がうるさくなるかもしれない。


「おぉ! まっつーだ!」


 思った時にはうるさくなりだしていた。部長はバッと立ち上がり、ビシッと松田先生を指差した。失礼である。


「おっ、真白。図書室から追い出されちゃったのか」


 松田先生は僕たちを順に見た後、部長に視線を合わせた。


「そうなんだよ。司書ちゃんがいないの!」


「加藤さんもいつも図書室にいられるわけじゃないからなぁ。真白、スカートに埃ついてる」


「え、本当だ、この廊下汚いね、もっと掃除しろー」


 スカートについた埃をバシバシと払いつつ、部長は恨み言を言う。まぁ、掃除をするのは生徒なので、徹底されていないのは仕方がない。


「文化祭前だし、掃除は必要だね。やってくれる?」


「嫌でーす」


 右手を挙げて、元気よく拒絶する部長であった。


「あっ、化学室の鍵を貸してくれるならやる!」


「ああ、居場所がないのか。うーん、化学室は難しいかな。そうだなぁ。生徒指導室ならなんとかなるかも」


 松田先生は何の気なしにそう言った。生徒指導室、その部屋を生徒が占有していいものだろうか。いや、それが特に設備もなくて、現状空いている部屋なんだろうけど。


「本当に!?」


 部長の目はキラッキラッと輝くのだった。今にも松田先生に抱きつきそうですらある。


「いや、かもって言った。確認しないとわからない。じゃあ、確認してくるから、その間に掃除しといてくれる? 道具はそこね」


 その指差す先には、廊下の隅にぽつんと置かれた掃除用具入れがあった。これ、やっぱりダメだったよとなれば、結局なんの見返りもなく掃除をすることになるのでは。


「ダメだったら、明日何か奢ってねー。3人分だよ。3食分だよ」


 部長にもその点は抜かりないようで、3本指をひらひらとさせて、別の見返りを要求する。


「3食分じゃなくて3品分ならいいかな、うん。ああ、3人分を3品分じゃなくて、3人分で3品分ね」


 その返答に、部長は「ちぇー」と口を尖らせる。この人、3人の3食分を要求するつもりだったのか。ちゃっかりしている。


「じゃあ確認してくるよ」


 松田先生はそう言うと階段を上っていった。

 僕たちは50円か100円かの見返りのために掃除をするわけであるが、まぁ、ちょっと掃除をして100円になるなら儲けものだろう。

 掃除用具入れから箒を引っ張り出し、掃除を開始する。


「これって水拭きとかもした方がいいんでしょうか?」


「拭き掃除は面倒ですね」


「まっつーが戻ってきて、ちゃんと部屋をくれるようだったら考えよう」


 という話し合いの結果、僕たちは掃き掃除だけを行なった。掃き掃除だけでもなかなかに埃が集まり、元々がかなり汚かったことが目に見えてわかる。ここの掃除担当クラスどこだよ。


 とりあえず集めた埃なりゴミなりをちりとりに入れていると、松田先生が階段を下ってきた。


「まっつー、どうだった?」


 部長の問いかけに、松田先生は肩をすくめた。


「生徒指導室はそんなことに使う部屋じゃないってさ。先生、怒られちゃったよ。何もない部屋だし、別にいいと思うんだけどなぁ」


 ダメだったらしい。まぁ、ダメだろうとは思っていた。普通に考えて、掃除をする見返りに生徒指導室を占有するなんておかしい。


「じゃあ、まっつー明日奢ってね」


「うちのホットケーキでいいかな?」


「ダメー。うどんとかお好み焼きとか、特別教室で売るやつ」


 一浜の文化祭では、調理室設備を使う必要のある団体の中で、特に生徒棟まで運ぶのが困難なものを売る団体は職員棟1階の特別教室で販売をする。

 そして、特別教室販売の共通点として、1品あたりの値段が高いらしい。


「あれ、150円とかだったっけ。3人分で450円。わかった。ワンコイン、500円までなら出そうじゃないか。先生に感謝するんだよ」


 松田先生は気前よく承諾してくれた。まぁ、小学生じゃあるまいし、500円でテンションが上がるものでもないが、単純に食費が浮くのはありがたい。


「まっつー、どっか空いてる部屋ないの?」


「うーん。図書室が開いてないとなると、他には。パソコン室は? 田中先生に鍵借りたら?」


 顧問が松田先生だったなら、副校長から注意された後でも鍵を貸してくれただろうか。さすがに難しいか。でも、この人なら貸してくれそうな気もする。僕もこの先生のことが結構好きになってきた。いい先生というか、便利に使える気がする。


「タナ先、きっと貸してくれないよ。副校長の圧力に屈してるんだよ」


「あー、そうなの。そうなら、他は思いつかないね。ここで加藤さんを待つしかないかな。さて、僕は面倒だけどクラスの方を見て来ないと。今年は担任しないで済むはずだったんだけどねぇ」


「まっつー、担任やるの嫌いなの?」


「単純に仕事が増えるからね。僕、授業するのは好きだけど、学校行事とかクラス運営とかはあんまり。まぁ、去年は真白のお陰で楽しかったけどね」


 仕事が嫌だと生徒に言ってしまうのか。松田先生は面倒くささを隠すこともなく、生徒棟へと向かっていった。その態度は、僕としては共感を覚えるが、他の人から見るとどうなのだろう。それとも、あんな態度を見せるのは僕たちのような生徒にだけなのだろうか。


「まっつー、行っちゃったねー」


 部長は唇を尖らせて不機嫌さを演出する。松田先生ともっと駄弁っていたかったということだろう。


「個性的な先生ですね」


 ある意味であんまりな松田先生の態度に呆気にとられた様子の紅林さんに、部長は、


「うん! いい先生!」


 と即答した。

 紅林さんは個性的と言ったのであって、いい先生とは言ってないのだが……。


「はい、私はいい先生だと思います」


 まぁ、いい先生というのも色々あるだろうが、客観性を無視するなら、僕も松田先生はいい先生だと思う。結局、価値観の近い先生がいい先生というわけだ。


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