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16話 ひーまー

 今度は長くなったので無理矢理切りました。


 昼食を終え、書道教室から退散した僕たちは図書室に戻ったのだが、


「閉まってるね」


「閉まってますね」


 鍵が閉まっていた。まぁ、閉まっているものは仕方ない。


「どうする?」


 どうすると言われても困る。僕たちの居場所など、結局はパソコン室しかないのだ。


「パソコン室って今日は使えますか?」


「ダメだったー。タナ先から鍵借りようとしたら、副校長に怒られたー」


 部長は不満顔で言う。副校長は文芸部が特に出し物をしないことを知っているのだろう。仕方ない。


「もう帰っちゃう?」


 時刻は13時前。今日は一応14時半にHRがあるはずだ。それまでは学校にいる必要がある。


「さすがに帰るわけにはいかないと思います」


 紅林さんの言う通りである。


「なら、鍵を盗もうか。タナ先ってかなり管理が甘いから」


 机の上に無造作に置いていたりするし、取れないこともないだろうが、それをやれば後で必ずバレる。


「副校長先生がいない時に、鍵を借りるのはどうでしょう?」


「タナ先は今度はダメって言うよー。権力に弱いんだよあの人」


 さて、どうしたものか。


「小説の中だと、屋上とか行くところかなぁ」


「それこそ鍵がありませんよ。屋上に続く階段とかも定番な気がしますが、たぶん吹奏楽部がいます」


 あの階段の下は視聴覚室だ。音楽室を軽音に取られた吹奏楽部は視聴覚室近辺で練習している。

 屋上という案を否定したところ、「そだよね」と部長は俯いてしまった。


「校庭とか人いないんじゃない? 文化祭、校庭なんて後夜祭でしか使わないし」


 すぐに復活し別の案を出す部長。ポンポンと新しいアイディアが出るのは素晴らしい。だが。


「まぁ、暑いのを我慢すれば、人はいないでしょうね」


 もう9月とはいえ、13時14時となれば最も暑い時間だ。今日は天気も悪くないし、校庭で過ごすのは苦痛だろう。


「蒼くんの家に行って、頃合いになったら戻ってくるとか」


「外出届がないと学校外には出られませんよ。それに、うちにあげる気はありません」


「蒼くん否定ばっかり。何か案出してよ」


 無理なものを無理だと言っているだけだ。腹案があるわけではもちろんない。


「ありませんよ。ここでひたすら時間を待てばいいんじゃないですか」


 図書室前の廊下。図書室は生徒棟から職員棟に渡ってすぐのところにあるため、ここの人通りは今も少なくない。だが、図書室に用がある生徒はいないので、立ち止まるのものはいない。


「司書ちゃん探しに行く?」


 どこを探すというのか? 僕には居場所の見当は全くつかないのだが。


「居場所に見当がついているんですか?」


 紅林さんも僕と同種のことを思ったようだ。紅林さんの問いに、部長は「校内にいるよ」と当たり前のことを自信ありげに宣言した。

 学校の事務職員がこの時間に帰ったということはないだろう。研修とか何かしらの理由がなければ。司書職の研修って何やるのかわからないけど。


「校内を探し回っていれば、時間は潰れるでしょうね」


「いやー、授業ないのに学校来ないといけないとか、おかしいよ。ひーまー」


 大抵の生徒は授業がある日よりも忙しく働いているわけだが、大抵の生徒の枠に入らない僕たちは暇である。


「暇ならクラスの方に行ったらどうですか?」


 そう声がした。僕にとって聞き慣れた声だ。声の主の方を見れば、いつも通りの無表情で担任が生徒棟からこちらに向かってくるのだった。


「教室にいないと思ったら、こんなところで何をしているんですか?」


 問われているのは僕だろうが、僕に先んじて部長が、


「暇してる!」


 と答えた。その返答はどうかと思う。


「蒼井くん、クラスの方は?」


「黒崎さんに部活に行けと言われたので、こうなりました」


「なるほど。で、蒼井くんはクラスでは何もしないつもりですか?」


 何もしないのはなしにしろと前に言われた気がする。しかし、何もしていないわけではない。


「振られた仕事は終わらせましたよ。あの、よくわからないマスコット作り」


 担任と話す後ろで、「蒼くん、クラスで仕事してたの!?」と部長が驚愕してみせたが、無視だ。


「あれ、ですか。あれは正直、気味が悪いです」


 おー、ひどい言われようだポップくん。誰が描いたか知らない設計図通りに作ったはずなのだが。と、思考の中で責任を知りもしない設計図製作者へと転化した。


「作ってて、なんだこいつとは思いました」


「脚が長過ぎます。脚は完全に紙コップなのに、胴体だけデコレーションされていて、脚の取ってつけた感じが」


「そんなに具体的に言わなくていいですよ」


「あれを君が」


「デザインしたのは僕ではないですよ。僕は図面通りに作っただけです」


 気味の悪いとまで言われてしまったあれを僕の発案だと思われるのは遺憾だ。デコレーションしたのは僕ではないし。僕はことさら気味の悪さを演出しているであろう脚を作っただけだ。


「君の仕事はそれでおしまいですか?」


 担任はそれだけでは不満らしい。表情はいつも通りの無表情なので読めないが、声色からわかる。


「そうですね。あぁ、当日うちのクラスの看板を部長の首から下げましょうか?」


「それは真白さんではなく、君が首から下げるべきでは?」


「部長の方が宣伝効果があります」


 僕と担任の会話を後ろで見ている部長と紅林さんが、何かコソコソと話していて、それがとても気になる。


「それはそうかもしれませんけど。蒼井くん、君は文化祭中、始終真白さんと一緒にいるんですか?」


 その訊き方には悪意を感じる。いや、担任は単に、部長の首からうちのクラスの看板を下げたとして、その部長を監視しているのかを訊いているだけか。


「文芸部で一緒にいる予定です」


「大白くんもですか?」


 大白先輩がクラスそっちのけで文芸部と一緒にいるのは、まぁ、おかしい。


「大白先輩は両日午前中は忙しいようなので、午後だけですね」


「なら、午前中、蒼井くんは両手に花ですね」


 部長と同じことを言うなよ。そのネタはもう十分だ。必要ない。


「で、部長と一緒にいるかどうかが何か?」


「真白さんの横にくっついているなら、君が首から下げても変わらないでしょう。当日はその仕事をしてもらいましょうか」


 薮蛇だったとは思わない。それくらいやっておいた方が、後々の担任との会話が楽になるだろう。


「別にいいですよ。まぁ、文芸部は宣伝看板を3つ持った謎の集団になりますけど」


「それはそれで目立つのでいいでしょう。それで、君たちは今からどうするんですか?」


 その問いには答えを持ち合わせていない。僕は後ろで仲よさように話している女子2人の方を見るのだった。


「明日の作戦会議をするので、パソコン室の鍵を貸してください」


 部長は真面目な顔でそう言った。作戦会議って、何を食べるかの話し合いだろうか。


「貸せません。クラスに行かないなら、実行委員の雑用を手伝ってくれませんか?」


 なんか、便利に使われそうだ。これは断る一択。


「嫌です」


「内容も聞かずに断らないでください。ただスリッパを昇降口に運ぶだけです。簡単な仕事ですよ」


 そもそも仕事を押し付けられる理由がない。図書委員の方の仕事は嬉々としてやっていたわけだが、ただスリッパを運ぶ仕事が楽しいわけがない。


「それやったらパソコン室の鍵!」


 部長は対価を要求した。まぁ、対価があるならやらないことはない。


「私はパソコン室の管理責任を持ってませんから、その約束はできません」


「じゃあ、生物室の鍵!」


 一浜に生物部はない。生物室を使用している部活はたぶんない。


「貸せません。貸す理由がありません。見返りがないと、やってくれませんか?」


 無表情で毅然と断る担任に対して、部長はことさら不機嫌そうな顔を作って、


「働く理由がありません!」


 と、頬を膨らませ、担任から顔を背けて見せた。やはり、この人に子役をやらせたら一級品だと思わせる。


「そうですか。残念です」


 担任はそう残して去っていった。残念と言いつつそれを表情には出さない。部長とは対極だ。


「ねぇ、蒼くん。蒼くん、一体何を作ったの?」


 それが部長は気になるらしい。あの忌むべき存在、ポップくんもとい気味の悪いゴミ箱の話をしなくてはならないようだ。


「紙コップ製の気味の悪いゴミ箱ですね」


 実際は可愛いマスコットになる予定だったらしい。紙コップの集合体が可愛いくなるはずもない。


「なんでそんなの作ったの? 文化祭の準備の中でそんなの作ってるって、蒼くん、変だよ?」


 部長に変だと言われるなんてなんたる屈辱だろうか。しかしまぁ、自発的にあれを作りだしたのなら、間違いなく変人だ。


「作れと言われて、設計図通りに作ったらそんな奇っ怪なものになったんですよ」


「蒼くんには美術の才能はなかった」


「いや、図面通りに作ったはずです」


「図面通りに作るならロボットでもできるよ」


 そう言われると、なるほど、僕に美術の才能はないらしい。もとより才能があるなどとは思っていないが。


「そうですね」


 僕はただ素っ気なくそう返した。

 会話が途切れれば、また行き場のない状態が再来する。僕たちは壁に寄りかかり、ただ時間が過ぎるのを待つばかりだ。


「司書ちゃん、戻ってこないかなぁ」


「パソコン室が使えないだけで、完全に居場所がなくなりましたね」


 そう言葉にして、改めてクラスという集団の影響力を感じる。クラスが居場所に足るか否かが、学校が居場所に足るか否かに直結する。


「あー、もう足が疲れたー」


 廊下に座り込む部長。こことか、掃除が行き届いてないだろうし、たぶん床は汚いと思うのだが。


「どこかいい場所ないでしょうか?」


 そう発した紅林さんも、そんな場所はないことはわかっているだろう。パソコン室と図書室以外に、どこがあるというのか。


「食堂とかあればいいのにー」


 残念ながら、ただの公立高校たる一浜高校には食堂などなく、昼時にパン販売が来るのが関の山だ。食事なんか出なくていいから、ラウンジとか談話室とか、もう自習室でもいいからそんな部屋が欲しい。

 まぁ、ラウンジなり談話室なりがあったとしたら、どこかしらの団体が文化祭で使うのだろうけど。


「無い物ねだりをしてもどうしようもありませんよ。このままここで司書さんを待つか、司書さんを探しに行くかでしょう」


 そう言いつつ時計を確認するも、時刻はまだ13時半にもなっていない。最悪、このままここで後1時間。前をせわしなく通り過ぎて行く活気ある生徒の目には、僕たちはどう映っているのだろう。


「ここも人が通ってダメだよねー。どーしよー、もう帰りたい」


 ここで帰りたいですねと同調したら、じゃあ蒼くんの家に行こうとか言いかねないので、無言でスルーする。


「そうですね」


 紅林さんは同調したが、僕は無言で渡り廊下を眺める。職員棟にしかない設備(調理室なり被服室なり)があるせいか、生徒棟と職員棟を行き来する生徒も多い。そういう生徒はみな一様に楽しそうで忙しそうだ。


 まぁ、やりたくないことで忙しいのはごめんなので、自分の今の状況もそう悪くはないはずだが。

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