12話 ネコ推しとけば売れる
「あの、正規の図書委員は?」
図書室に着くと「おぉ! 蒼くんだ!」という聞き慣れた声に迎えられたのだが、その場にいるのが紅林さんと部長と司書さんの3人だけだった。
「なんか、みんな来てくれないのよね。文芸部さんが来てくれて助かっちゃった」
司書さんは力なく笑った。なんか、苦労人感が滲む笑みだ。
「これ、何をやっているんですか?」
「本の紹介文を書いてもらってるの。図書委員会は文化祭で展示や販売をするわけじゃないんだけど、ご自由にお取りくださいプリントだけ作るの。図書委員会の選んだお勧めの本を載せて」
思い返すと、そんなのを去年も配っていた気がする。いや、配っていた。確かにもらった。
「それを今書いているんですか?」
「もともと委員会で募集して、今日までには集まっているはずだったんだけど、集まってなくて。どうしようかと思ってたのよ」
そう言いながら、司書さんはプリントをこちらに渡して来た。そこには、本の紹介文募集と書いてある。委員会で配ったプリントなのだろう。
そのプリントを読むと、"可能な者は紹介文を書いて"とあった。まぁ、強制でないなら集まらないだろうな。
「去年も半分くらいわたしと赤根先輩が書いてた気がするなー。すっかり忘れてたけど」
「真白ちゃんには色々してあげてるし、これくらいしてもらってもいいんじゃないかしら」
「楽しいからいいよー」
部長の手元にはすでに書き終わったらしい紹介文が3枚あった。
「これ、いくついるんですか?」
「8冊分ね。蒼井くんもお願いできる?」
「紹介する本はなんでもいいんですか?」
「図書室にある本がいいわね」
図書室にある本もかなり読んでいるし、中にはお気に入りのものもある。
「わかりました」
そう言って僕も紹介文を書くための紙を受け取った。
「蒼くん何について書くのー?」
「小説なら『名前のない犯罪』、論説なら『神に愛された数式』でしょうか」
「なんか硬いね。高校生っぽくない」
「そういう部長は何で?」
「『うちの子猫は不幸を招く』と『耳、ヒゲ、肉球』」
どちらも猫に関する本だ。部長ってそんなに猫が好きだったのか。
「それと、『シュレディンガーのライオン』」
そんな小説もあったな。作者誰だっけ。しかし、あれは猫の本ではない。猫、出てはくるが大して重要じゃないし。
「猫特集でもするんですか?」
「人気が出そうでしょ? ネコ推しとけば売れる。これ、間違いないよっ」
部長は可愛い生き物を商売の道具としてみるタイプの人らしい。この感想文は売り物ではないのだが。
「『シュレディンガーのライオン』は猫はあんまり関係ありませんよね?」
「日本人はシュレディンガーって言っとけばちょっと気になっちゃうから、大丈夫!」
何が大丈夫なのだろうか? 量子力学には疎いので、シュレディンガーの名前を聞いても、いわゆるシュレディンガーの猫と、シュレディンガー方程式しか頭に浮かんでこない。
「そうですか」
まぁ、部長の考えなんてわかるはずのないもののことを考えても仕方がない。
僕も紹介文を書くとしよう。
例によって、本文中に登場する作品は全て自分の創作です。あと、自分、猫好きです。




