55話 聞き込み
とりあえず戻ってきましたが、リアル多忙により2週間1話ペースで書ければいい方だと思います。
(8/30追記) 仕事は一段落しましたが、しばらく書いていなかったせいで全然ペンが進みません。更新にはまた暫くかかりそうです。
パソコン室に残って七篠姉弟(仮)を待つ間、この部屋には誰も来なかった。何もないことを平和と形容すれば、平和そのもの。その平和は16時ちょうど、七篠姉弟(仮)の再来で終わりを告げた。
「先輩の名前の候補が集まりました!」
開口一番がそれだった。本当に聞き込みでもしたのだろう。
「わざわざ訊いて回ったの? 文芸部のメガネをかけた男子生徒を知っているかって」
「わざわざ訊いて周りました! でも、文芸部ってそんなに知名度ないみたいですね」
文芸部について知る生徒というと、漫研の人か生徒会ぐらいなものだろうか。他と組織としての関わりはないし、個人としての関わりもほとんどないと思う。
「逆に僕がサッカー部の部長の名前を知ってるかって言われても知らないし、そんなもんでしょ」
「はい。昨日までに連絡先を交換した部長さんたちに訊いて見たんですが、学年が違うからわからない的な回答ばっかりでした。先輩、縦の繋がりもっと大事にしましょう?」
「縦の繋がりは主に部活で作るから、他の部活の人なんて知らないよ」
「聞き込み作戦は難しいなって思いまして、まず、誰が先輩のことを知っているかって考えたんですよ」
「その思考は論理的だと思う」
「で、先生なら絶対に知ってるって思ったんです」
「なるほどね」
教師に訊いて回ったのか。中々の行動力だ。
「3人くらいに訊くと、文芸部は『真白』が有名って返ってきましたが、その『真白』って人は女性らしいのでたぶん違います」
「その真白さんが元部長の変わり者。色々あっての有名人」
「その後、文芸部について詳しそうな先生を捕まえました。表情筋が死んでる人です」
担任か。いや、もう元担任になるのか。
「でも、その人、個人情報の感覚がしっかりしてるみたいで、名前を教えてほしいって言うと、本人に直接訊きなさいの一点張りなんです。でも、ぽろっと『蒼井くん』って言ってたので、先輩の名前の第一候補は『蒼井』です」
「なるほど」
元担任、しっかりしているかと思えば、微妙に抜けているところがある。
「で、その後まだ校舎を彷徨ってると、漫研と文芸部のコラボ企画のポスターを見つけました」
「あぁ。よかったら何か書いて出してみて」
「はい、ぜひ参加します。で、じゃあ漫研の人は知ってるはずと思って漫研に行きました」
ぜひ参加してくれるらしい。それとも社交辞令だろうか。
「その後が大変でした。勧誘に次ぐ勧誘。あんなに必死な部活は初めてです」
「漫研は、今 新入生1人だけだっけ。あと何人か欲しいと思ってるだろうし、必死かもね」
「文芸部は全然必死じゃないですけど、何人入部したんですか?」
「まだ春休み中で、したじゃなくてしそうの段階だけど、文芸部も1人かな。でも、うちは何人も欲しいって思ってないから」
「漫研さん必死すぎて入る気削がれるんですよね。すごく勧誘されると逆に入る気なくなりません? 受験の時の塾選びの時もそうだったんですけど」
「どう思うかは人によりけりかな」
七篠さん(仮)は天邪鬼気質らしい。こちらが名前を教えないから無理矢理暴こうとしてくるのもその気質からか。
「漫研で勧誘を受け流しながら入手した情報によると、文芸部は『蒼井』、『紅林』、『大白』と1年生のメンバーらしくて、で、『蒼井』が部長らしいんですよ」
なぜ漫研は部長を誤って認識している? 確かに企画関係の話し合いは僕と紅林さん主体で進めたが、部長は大白先輩と話したと思うのだが。
「先輩は部長ではないそうなので、『蒼井』の可能性は下がります。で、『紅林』は女性らしいので、候補は『大白』になります。
つまり、先輩が実は部長なのに部長じゃないと嘘をついていたら『蒼井』、そうでなければ『大白』となります。さぁ、どっちですか!?」
聞き込みをすれば名前くらいはバレるものらしい。
「で、君の名前は?」
「あたしの名前、気になります?」
「自分の名前だけ知られてるってのは気持ち悪い」
「じゃあ、あたしも2択にしましょうか。『七篠』と『赤松』の2択で」
「これで答えが『七篠』の方だったらびっくりだけど」
「あり得ますよ。七篠奈々、いい名前だと思います。赤松奈々より」
「そう」
「あたしもそういう特徴的な苗字がよかったんですよ。キラキラネームは死んでも嫌ですけど、キラキラ苗字はカッコよくないですか?」
「七篠は別にキラキラってことないと思うけど」
「俺の本名が土御門っていうんですけど、こいつ、それを昔からずっと羨ましがってて」
ここまで沈黙を貫いていた七篠くん改め土御門くんが少し苦々しげな顔で言った。
「だって、土に帝でしょ、めっちゃ強そうじゃん! あたしも土御門になりたい!」
「俺は赤松みたいな簡単な苗字の方が羨ましい」
土御門もキラキラ苗字ってわけではないと思うが、印象に残りやすい苗字であることは確かだ。
「で、先輩は『蒼井』ですか、『大白』ですか?」
「部長ではないけど、蒼井の方」
「ちなみに、あたしが本名を名乗ったの先輩が初ですよ。他の部では一浜高子で通ってます。文芸部は特別なのでLINE教えて下さい」
「いや、実際のところ別にいいんだけど、連絡先集めて一浜で1番顔の広い人になるって本気? 本名名乗らずに?」
「まさかー。先輩のLINEをもらうための口実ですよ」
器用にウインクをしてみせる赤松さん。やはり菜子さんと同じ系譜な気がする。
「どうです、魔性の小悪魔、いけると思います? 今のドキってなりました?」
こういうところも菜子さんの系譜を感じなくもない。
「赤松さんの目指すところがよくわからないけど、僕はそろそろ帰るよ」
「え、あ、先輩、LINEは!」
「関わりのない人が僕の連絡先を知ってるのはやっぱり気持ち悪い」
「えぇー!?」
この1年生はやはり面白い。そう思うばかりだった。




