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6話 僕のあり方を変えようとは、思えない

 1年2組の教室はいつもと変わりはなかった。当たり前だ。僕にとっては昨日色々あったわけだが、実際に色々あったのは1組だ。


 勉強の質問が来ないなら、依然僕は誰とも会話をすることはない。


 いつものように無言で自席につき、読書を始めた。


 2組に変わりはない。なら、1組はどうなのだろう。内部で傷害事件が発生して、変化は生ずるのだろうか?


 学校では、暴行、窃盗、傷害、器物損壊、その他刑法犯罪なんて日常的に起こっている。しかし、学校は暗黙の了解のうちに治外法権と化しているから、事件にはならない。


 昨日のことだって、起こったこと自体はさほど珍しいことではない。


 1組の教室だって、特に変化はないのかもしれない。大多数の者が気にも留めない中、事態は進行して行くのかもしれない。


 前に、"学校では危ない"というありがたい忠告を受けたことがあったが、その理由の一端には、事実上の治外法権と事件の日常化があるのかもしれない。


 滔々とそんなどうでもいい思考を巡らせながら、HRまでの10分間を過ごすのだった。



 火曜日の5時間目は保健だ。男女別で行われるこの授業は、1組2組合同で、男子は1組の教室、女子は2組の教室に向かうことになる。


 昼休み、予鈴とともに1組の教室に向かうと、まだ大抵の者が移動を開始してなくて居心地の悪い思いをすることになる。

 そのため、僕は廊下で他の生徒が移動を始めるのを待っていた。


 待っている間、1人の女生徒に会釈をされた。紅林さんだ。それに対して僕も会釈を返す。この対応はいつもと同じだ。教室付近で紅林さんに会っても会話をすることはほとんどない。


「君は彼女と知り合いなのかい?」


 その声に振り返ると、声の主は百瀬くんだった。なぜそんなことを訊くのか。


「部活が一緒です」


「なるほど。君と彼女は気が合うかもしれないね。何と言うか、似ているよ」


「紅林さんのことを知っているんですか?」


「なぁ、同級生なんだし敬語はやめないか?」


 質問の答えではなくそう言われた。だが、僕は彼にフランクに話すつもりもない。


「いいえ。敬語の方が話しやすいので」


 現状、僕が敬語を使わない知り合いは家族だけだ。それが僕の距離感なのである。まぁ、来年後輩が入れば、さすがに敬語は使わないだろうけど。


「そうか、わかった。彼女とは中学が同じなんだ。君と同じ本の虫だった」


「そうですか」


 僕はそう返事をし無理矢理会話を切り上げると、僕は教室に入った。僕には、紅林さんはともかくとして、百瀬くんへの興味は薄い。


 もう移動はだいぶ済んでいる。入っても居心地が悪いこともない。


 1組の雰囲気に、これまでと大きな差は感じられなかった。1組の男子たちはいつものように、授業直前とあっても雑談を続けている。


 クラスメイトが1人階段から転落しようがこんなものだ。大した反応は起こらず、別にどうということとも思われない。


 しかし、それではダメだ。


 それが何の問題もない取るに足らないこととなっては、日常化しかねない。


 昨日の出来事は、事実大したことがなかったとしても、紅林さんは大したことにすることにしたのだ。その選択を、僕は肯定する。


 僕たちのあり方が学校において危ないというのであれば、僕たちの取り得る選択は、


 学校のあり方に介入すること。


 僕たちは、いや、少なくとも僕は、僕のあり方を変えようとは、思えない。であれば、危ないと言われた学校という環境を変える必要がある。


 なんとも、僕は自己中心的だ。


 でも、やっぱり、僕はそんな僕のことが気に入っていて、僕を変えようとは思わない。


 そんな思考をしながら、保険の授業を聞く。授業自体は教科書の内容を教師が読み上げているだけで、言ってしまえば聞く必要のないものだった。教科書を読めばそれでこと足りる。


 なんとなく教室を見渡すと(この授業での僕の席は真ん中の列の1番後ろだ)、廊下側前方に座る百瀬くんと目があった気がした。模範的な高校1年生とも言える彼が、授業中に後ろを見ているというのは珍しい。まぁ、珍しいなと思って、それだけ。彼がなぜこちらを見ていたかは考える必要もないだろう。僕は彼に、興味がない。


 僕は一応教師の方を見て、それでいて授業は聞かず、思考を続けた。


 さすがに日常的に誰かが階段から落ちるなんてことはありませんでしたが、悪ふざけの延長で刑法犯罪を犯しているのは、中学・高校ではありふれていたように思います。

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