23話 手芸部はなぜ潰れないのか?
「どーもー」
春休みに入って1週間ほどが過ぎたが、未だこの部を訪れた新入生は山城くんただ1人。そのただ1人はかなりフランクに入ってきた。
「こんにちは」
「こんにちは。軽いね」
紅林さんと共に挨拶をし、一応を苦言を呈す。別に軽くてもいいけど。
「俺、割と早く打ち解けられるタイプなんで」
それは自称することだろうか?
「あ、書いてきましたよ、文集って規模に載せる短編」
「え、本当に?」
SNSの方に夢中になっているのかと思いきや、そちらの活動もしているとは。山城くん、この春休み暇なのだろうか? 妹は友達から引っ張りだこみたいだが、山城くんは……。
「読んで下さい。題して『手芸部はなぜ潰れないのか?』」
なんか聞いたようなタイトルである。
「『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の本歌取りでしょうか?」
それだ。中学の頃に読んだ覚えがある。
「俺、それ読んだことないんで、タイトルだけ貰いました」
タイトルだけ知ってるけど読んだことない本ってのは割とある。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』とか『たったひとつの冴えたやり方』みたいなタイトルが秀逸な海外SFなんてその筆頭だと思う。タイトルが秀逸なので、タイトルを真似る作品も多いし。
*
二木高校には七不思議がある。七不思議といっても、トイレの花子さんとかそういう怪談じゃない。
1. 英語の伊藤先生はなぜ異動しないのか?
2. 地学の授業がないのに、なぜ地学室はあるのか?
3. 体育祭の色組はなぜ赤、青、黄と紫なのか?
4. 漫画の持ち込みは禁止なのに、なぜ図書室に『ブラックジャック』が置いてあるのか?
5. なぜ駅に近く普段使われる門が裏門で、普段誰も使わない門が正門なのか?
6. 水泳の授業も水泳部もないのになぜプールはあるのか?
7. 手芸部はなぜ潰れないのか?
すべてこの高校で生活していれば、実際に「なんで?」と思うものばかりだ。現実的に不思議な七不思議。
この中で6つは教師である俺にもよくわからない。だが、1つはその理由がわかる。
手芸部はなぜ潰れないのか? それは偏に顧問である俺の努力の賜物だ。
教師に割り当てられる部活動の主顧問は1つ。少なくとも二木高校にはそういうルールがある。そして、運動部の主顧問となってしまった暁には、労働基準法完全無視のブラック生活が待っている。
だから俺は死守するのだ、手芸部の主顧問というこの地位を!
*
そこからは主人公の必死な勧誘活動を描くコメディ。主人公の軽薄な言動がクスッと笑える作品ではあると思う。
文量も程よい。文集のページ数をそれなりに使ってくれるし、でも長過ぎはしない。
「採用。どっかから盗んできたとかじゃないよね?」
「盗んでないですよ! いや、部活勧誘するって流れはラノベとか参考にしましたけど、それでパクリってことないでしょ」
まぁ、部活ものなら勧誘から始まるのはあるあるだ。それを指して〇〇のパクリだと言うのは被害妄想に近い。
「私もこれは採用でいいと思います。色々とちょうどいい作品だと思います。もちろんいい意味で」
紅林さんの言うように、これはちょうどいい。傑作かと言われれば、贔屓目にも首を縦に振ることはできないが、高校1年生が書いたと言われれば「へぇ、すごい」となる。文化祭に出す文集というところにちょうどいい。
「よく、1週間も経たずにこれを書けたね」
感心するばかりだ。
「興が乗ったっていうか、3日間でガッと。アイデアがこう、降ってきて」
こういうのを聞くと、彼はちゃんとした文芸部に向く人材なんだろうと思う。主要な活動が試験勉強では些か可哀想かもしれない。
「先輩たちはなんか書いてないんですか?」
もちろん書いてないわけだが、後輩がこれだけやっているのに書いてないとふんぞり返るのはいかがなものか。
「なかなかアイデアってのは降ってこないからね」
「私もそうですね」
僕は実際のところ書こうともしていないわけだが、紅林さんの方はどうなのだろう。
「自分で色々創作するっていうの、俺結構向いてんのかなぁって思いました。そういうの、今まであんましやったことなかったんで」
「色々っていうと、他にも?」
訊いてみることにした。あのTwitterアカウント、99%犯人は山城くんだと思うが100%ではない。
「いえ、言葉の綾です」
話す気はないらしい。こちらから突っ込む必要もないのでスルーすることにした。
「あの、話変わりますけど、他に1年生って来てますか?」
山城くんとしては、同学年の部員がいるのかは気になるところだろう。
「残念ながら来てないね」
「前も言いましたけど、勧誘しないんですか?」
1人部員が入るのなら、もうそれで安心という気になってしまう。勧誘といっても、何をすればいいのかわからないし。
「なんかイベントとかやりましょうよ」
「好きだね、そういうの」
イベントと言われも何をやるというのか。運動部なら、練習に参加させるとか、試合してみるとかあるのかもしれないが、文芸部にはそんなものない。いつだか、ビブリオバトルみたいなアイデアが出ていた気もするが、盛り上がるビジョンが見えない。
「なんか、こう、ないんすか? 陸斗先輩って、テキトーなことポンポン思いつくタイプじゃないんですか?」
僕は決してそんなタイプの人間ではない、と思う。それに該当するのは。
「それは菜子さんだよ……」
ボソッとそう口にしていた。
「誰です?」
失言した。そう思った時にはもう遅かった。




