21話 秘密倶楽部
「新入生の間に噂を作るんですよ、一浜高校には一部の生徒しか知らない秘密の部活があるって」
山城くんはなかなか楽しそうに語る。
「どこかで聞いたような話だけど」
「ラノベ出典ではありますけど、面白そうじゃありません?」
「出典はなんでもいいけど、それで、噂を作った後は?」
「文化祭までに『そんな噂あったよね』って大体の生徒が思うくらいに浸透させて、で、文化祭の文集でネタバラシ。全部文芸部の創作、しかも、今年の春から作ったものでしたって感じに」
まぁ、流れはわかるがそれはなかなか難しそうに感じる。
「その噂、広がる? 新入生向けに流すとして、新入生はそんな噂を聞いたら、まず上級生に聞くだろう。でも、上級生でそんな噂を知っている人は誰もいない。すぐガセだってバレる」
上級生と全く関わりがない者なら信じる可能性もあるかもしれないが、今が体験入部の期間ということもあり、ほとんどの新入生は上級生と現在進行形で関係を作っているはずだ。
「上級生の一部に協力してもらうんですよ。大人数じゃなくて、この洒落がわかる上で、ある程度影響力のある校内インフルエンサーを数人」
「そう、で、それ誰?」
ラノベならそういう便利な人がいるかもしれないが、少なくとも一浜高校のそういう人物は思いつかない。僕の交友関係が狭いだけかも知れないけど、
「誰かいないんですか、そういう人」
「僕は知らない。紅林さんは?」
「影響力のあるインフルエンサーと、口が堅いという条件は多くの場合 対立しますから。そういう噂の大好きな女子はいますけど、知った側からところ構わず喋りまくると思いますよ」
発信量が多いから発信力を持つ。道理だ。
「なら、その人に協力を仰ぐのはなしで、それとなく噂を教えて広めてもらうとか」
「聞いたことをところ構わず広めるんですから、影響力はあっても信用はないです。その人が1人で騒いだところで騙されていると思われるだけです」
「見えましたね。広める役はその人でよくて、あとは裏取りしたがるそのお友達が信用する人に協力を仰げばいいわけです」
諦めないな、山城くん。というか、とても楽しそうだ。
「で、誰、それ?」
「なら、生徒じゃなくて教師ですね。文芸部の顧問の先生に文化祭の企画として頼むとか」
田中先生に。……可能性はなくもないか? いや、あの人の場合に周りの教師に相談して秘密が維持されない気もする。
「どうだろ、田中先生の口が堅いか僕は知らないから」
「でも、アリじゃないですか? 面白そうな感じで」
山城くんはこの企画を本気でやりたいらしい。
「張り切ってるね、新入生」
「俺、この部活にそういうのを求めてるんで」
菜子さんが喜びそうな新入生だ。
「そんなラノベの中の文芸部って感じの部活じゃないよ。メインの活動は勉強なんだから」
「なんで文芸部でメインが勉強なんですか。クイズ大会でも出るんですか?」
「別にクイズ用の勉強をしてるわけじゃないよ。大学受験はするし」
大学受験のために勉強する。高校生としては至極当たり前のことだ。それを部活内で行うのが当たり前かは置いておいて。
「つまんないっすよ。せっかくの高校生。文芸部なんていうある意味なんでもありな部活に所属してるのに、そこでやることが勉強なんて」
文芸部の認識がなんでもありな部活というのは間違っている気がするけど。
「そう」
僕はただそう一言返しただけだった。
「俺、明後日までに秘密倶楽部の設定とか考えてくるんで、先輩方は教師の懐柔を少なくとも1人、お願いします」
「いや、面倒くさい方を僕たちに押し付けてない?」
「俺、教師と誰一人面識ないですし」
本当にこんな企画をその場のノリで開始して大丈夫だろうか。まぁ、確かに文集のネタにはなるだろうけど、噂が一人歩きして制御不能になる可能性もある。
噂がまったく広がらなかった場合は単に失敗だったとしていいが、何か問題のある形に変化して広がってしまったら責任が取れない。
「渋い顔しますね。ちなみに紅林先輩はどう思いますか?」
山城くんは少し不満そうにこちらを見る。僕が乗り気でないからか。
「私は、文集の題材には十分なると思います。教師側に協力者を作ったり、裏取りをしたがる人をその協力者の元へ誘導したりと課題となる部分はありますが、そこがクリアされればちょっとした噂を作ることは可能かと思います」
紅林さんは肯定派らしい。僕たちは噂の火種を作るだけ、その後のことについては我関せずというスタンスでいいのだろうか。別に悪意のある噂を広めようというわけではない。
しかし、それを文集にして出すのなら、噂はこうすれば広がるという指南書になるわけで、悪意のある噂を広めようとする人間の手助けになりはしないだろうか。
いや、教師に協力を仰ぐ時点で、模倣犯は難しいか。しかし……。
「この企画によって生じるリスクの吟味がなされていないかと」
「リスクですか?」
「噂を意図的に広めるという行為は大抵の場合 悪ですから」
「いや、今回 俺たちが広めるのは別にそういう感じの噂じゃないですし」
「途中で誰かが悪意を加えるかもしれない。その場合に、僕たちは制御できない」
山城くんは沈黙した。リスクの話をすれば大抵の物事は実行できない。だから、この手のことはリスク管理をしなくていい小説内で行われ、現実で行われることはないのだ。
「いや、面白いんだけどね。文芸部という名前を使う以上、リスクは回避しないといけない」
文芸部が文芸部として能動的に動くのであれば、その責任を取るのは文芸部の部長である大白先輩や顧問になる。それを押し付けるのは不誠実だろう。
「なんか、そこまで気にする必要あるって気はしますけど」
「リスクヘッジはしておきたい」
「そうですか」
とてもつまらなそうな顔をする山城くんにどこか悪い気分になり、僕は不用意にも、
「でも、面白い企画だとは思ったし、文芸部にリスクのない形にできればやりたいものではあるけどね」
などと言ってしまっていた。




