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19話 春休み初日

 リアル多忙にて、20話の投稿を遅らせます。夏は繁忙期で、こういうことが多くなりそうです。申し訳ありません。


 春休み。2週間という休みの期間は長いようでおそらくあっという間に終わるのだろう。


 春休みに入って最初の活動日。9時過ぎに登校すると学校内は活気に満ちていた。邪魔な授業のない新入生勧誘期間。この春休みが部員確保の上では正念場なのかもしれない。


 しかし、そんな活気もパソコン室に近づくにつれて縁遠くなっていく。職員棟の端。ここが辺境なのだと改めて感じる。


「あ、文芸部さん、こんにちは」


 パソコン室に入ろうというところで声をかけられた。絵の具のバケツを持った女子。漫研部員。文化祭の時に話した気がする。同じく辺境で活動するご近所さんだ。


「こんにちは」


「新入生来ました? ストーリーが書けそうな子なら、ウチにも紹介よろしくです! 協力しましょう!」


 結構圧が強い。部員確保に文芸部よりもずっと力が入っているようだ。


「あ、はい」


「ウチはシナリオとイラストの分業もありなんで、文芸部さんもよかったらウチと兼部とかどうですか? シナリオライター募集中です。あなたの話に絵がつきます、すごい!」


 テンション高いな。まぁ、勧誘するのにローテンションってこともないか。


「いえ、自分は。でも、新入生が来たら漫研の話もしてみます」


 "来たら"だが。


「よろしくです!」


 漫研部員はそのまま書道室に入っていった。僕の方もパソコン室へと入る。鍵はすでに開いていたので、紅林さんが先に来ているらしい。


「こんにちは」


「こんにちは」

「あ、こんにちは」


 返事が2つ。予想外なことに戸惑うが、相手の顔を見て得心した。


「あー、山城くんだっけ、久しぶり」


「はい、陸斗先輩、お久しぶりです。無事、合格しました」


 文芸部の新入部員候補といえば、まぁ、彼になるのだろう。こうやって活動初日から来てくれているのだし。


「おめでとう」


「ありがとうございます」


 定型的なやりとりをして、僕はいつも座る席についた。


「で、文集制作って何するんですか?」


 山城くんの質問に内心で「さぁ、何するんだろう?」と答える。


「何すると思う?」


 答えが決まってないので、山城くんの言ったやつを答えにしよう。


「えーと、文集に載せる作品ってもうできてるんですか?」


「いや、まだ」


「なら、作品作らないと始まらないじゃないですか。プロットとかは?」


「それもまだ」


「なんもできてないやつじゃないですか、それ?」


「まぁ、そうだね。新戦力に期待してる」


「あ、新入生も即戦力扱いなんですね。なら、俺もやってやりますよ。で、文集のテーマとかありますか? 」


 山城くんは案外乗り気らしい。まだ体験入部なのに。なんか、ちょっと申し訳ない。


「テーマすら決まってない。1から作れるよ」


「先輩たち、今まで何してたんですか?」


 手厳しいが的確なご指摘だ。


「主に定期試験対策とかセンター試験対策とかしてた」


「あー、なるほ、って、いや、文芸部じゃ?」


「高校生の本分は勉学だからね。文芸部である以前に、僕たちは高校生だから」


「なんか、陸斗先輩って意外にテキトーな人なんですね」


 菜子さんとふざけたやりとりをすることに慣れたことによる悪影響か。


「じゃあ、とりあえず、文化祭に出す文集ってのに合う話、テーマ、ジャンルは自由ってことですか?」


「まぁ、そうなるかな」


「んじゃ、試しに書いてみますか。ここのパソコンって使えるんですよね?」


「え、あー、うん」


 山城くんの謎のやる気に戸惑いつつ、全体としてとりあえず何かを書くという流れになった。



面接官「あなたの人生での1番の成功体験を教えて下さい。では、桃太郎さんから」


桃太郎「はい。自分の1番の成功体験は鬼ヶ島で鬼を退治し、宝を持ち帰ったことです。仲間と協力して鬼の大将を討ち取った時の達成感は今でも忘れることができません」


面接官「……それは、鬼の住居である鬼ヶ島に不法に侵入し、鬼を殺害、あまつさえその財産を強奪したということですか?」


桃太郎「いえ、鬼は私が住んでいた村を好き放題に荒らしていて、宝というのも元々は私たちの村民のものでして」


面接官「盗まれたから、殺害して奪い返したと。桃太郎さん、そのように暴力で解決しようという姿勢は我が社には合わないかもしれませんね」


桃太郎「……」


面接官「では、続いて青鬼さん、どうでしょう?」


青鬼「はい。私の成功体験は親友の赤鬼と人間との仲を取り成したことです。人間が赤鬼を誤って認識して恐れていたところを、私の機転によってその認識を改めることに成功しました」


面接官「なるほど、具体的には何を?」


青鬼「はい。私が人間を襲うふりをし、そこを赤鬼が助けるという作戦、一芝居打ったわけです」


面接官「……人間を襲うふり、ですか」


青鬼「え、ええ」


面接官「赤鬼のためです、その演技はさぞ真に迫った物だったのでしょうね」


青鬼「ええ、演技だとバレては元も子もありませんので」


面接官「その時、あなたに襲われるという恐怖を受けた人間の気持ちは考えましたか?」


青鬼「いえ、あの」


面接官「人の仲を取り成す方法としてそのような愚策しか思いつかないのだとしたら、我が社でクリエイティブな仕事をするのは難しいかもしれませんね」


青鬼「……」


面接官「では、寝太郎さん。どうですか?」


寝太郎「はい。私の成功体験は村の灌漑を成し遂げたことです。3年間考えた末の成功には胸が躍りました」


面接官「3年越しの計画ですか」


寝太郎「はい。その3年間は考えるばかりだったので村人からはただ怠けていると勘違いされて迫害もされましたが、それにめげずに考え続けたことが成功に繋がったと思います」


面接官「……3年間考えているばかりで怠けていると勘違いされた。考えている時には他の仕事は手につかなかったのですか?」


寝太郎「はい。考えるのに必死になっていました。しかし、それだけ考えた結果、村の灌漑を成し遂げることができたのです」


面接官「うちの会社では3つ4つの仕事を同時に抱えることもザラです。1つのことを考えながら別の仕事もできないと、我が社の業務は難しいかもしれませんね」


面接官「ではこれで面接を終了いたします。選考結果につきましては1週間以内に電話またはメールにて通知させていただきます」


部下「今日の面接はどうでしたか? 伝説的なメンバーが揃ったと評判でしたが」


面接官「全員不採用。強盗とヤンキー崩れとシングルタスク。どれもうちの会社にはいらん。てか、桃太郎については警察に連絡しておけ。普通に強盗殺人犯だぞ」


部下「あれ、英雄、友達想い、アイディアマンと聞いていましたが」


面接官「いや、どいつもこいつも常識のないDQNだった」



 急に短編を書けと言われて書ける人間がどれほどいるだろう。テーマがあったり、何かを本歌取りするならともかく、ただ短編を書けとそれだけ。書けるか、そんなの。


 初めから書けないとわかりつつも、とりあえず何かは書いたという事実を残すためだけにテキトーな駄文。桃太郎、青鬼、寝太郎が就職面接に行ったというシチュエーションの話をとりあえず書いた。当然、これは不採用だろう。さて、山城くんは本当に書けたのだろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] >菜子さんとふざけたやりとりをすることに慣れたことによる悪影響か。 ……ノーコメントで。 [一言] 英雄って「非常識」の代名詞だから仕方ないですね(笑)
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