18話 文芸部が面倒に
『Oshiro: 今日、部活来れるか? 面倒ごとができた』
『紅林: 行けます』
『蒼井陸斗: 行きます』
そんなやりとりがあり、放課後はパソコン室に向かった。
最近は部活といっても本を読んでいるのが常だ。文芸部としては然るべき姿なのかもしれないが、新歓とか文集とか考えるべきものはすべて先送りしている。面倒ごとというのも、時期的にたぶん新歓関係だろう。
「こんにちは」
パソコン室のドアを開くと、大白先輩が紙を睨みながら腕を組んでいた。
「おう、こんちは」
「それが面倒ごとですか?」
「まあな。ほい」
大白先生は睨んでいた紙をこちらに寄越した。それを受け取ると、『春休み 部活体験期間のためのアンケート』というタイトルが目に入った。
内容は別に変わったものではなく、春休み中に新入生が体験入部する期間を設けるから、活動日と活動内容を書いてくれというもの。
「こんなのあったんですね。記憶にありませんでした」
「いや、春休み中にどうこうってのは今年からだ。てか、結構急遽決まった。説明会か何かの時に新入生にアンケート取ったら、部活についてもっと知りたいって声が多かったっぽい」
毎年恒例とかではないらしい。
「でも、まぁ、活動日とその日の活動内容を簡単に書くだけですよね」
「活動内容って何書くんだよ。読書か? 体験入部に来ましたって新入生に、『じゃ、本読もうか』って言って、あとは各個人で黙々と読書か? それでいいのか?」
まぁ、高校生の部活って言う言葉の持つ活気とは程遠いが、しかし、それが現実なのだから偽るのも違う気がする。
「あと、これ、できれば今日中に書いて欲しいんだと。春休みの予定くらい決まってるでしょって感じだった。そりゃ、明日から春休みだし決まってるべきだよな、普通。いや、決まってねーけど」
春休みについては活動日すら決まってはいない。こんなアンケートが来なければ、その日の朝にLINEで決めるみたいになるところだっただろう。
大白先輩が「はぁ」とため息をついたところで、「こんにちは」と紅林さんが現れた。
「そのプリントが面倒ごとですか?」
「ん」
紅林さんも交えて、先程と同じ話を繰り返す。
「とりあえず、活動日から決めましょうか。春休み中に来れない日を3人で出し合いましょう」
「あー、で、悪いんだけど、俺、春休みほぼ無理だ。塾で、進級に合わせた勉強合宿があって、4月第1週はそれで潰れる。で、それを避けた時期に家族で母方の実家に行く。てか、明日から行く」
「無理じゃないですか」
春休みに活動すること自体が危ぶまれる。
「だから、お前ら2人でなんとかしてくれ。頼んだ。俺はもう引退だ」
「文芸部やるの面倒くさくなってるじゃないですか……」
大白先輩は最近は受験生モードに突入していて部活にはあまりやる気がない。
「いや、改めて俺、別に読書好きでもねぇなって最近思ってな。んなことより、春休み、お前らは来れんの?」
「僕は基本来れますよ。春期講習はありますけど、すぐそこですし」
「私も先に日程が決まっていれば調整がきく予定ばかりです」
「んじゃ、普段通り月水金にするか、休みだしちょっと変えて連日にしてみるか」
「考えるの面倒ですし、月水金でいいんじゃないですか?」
「私もそれで問題ありません」
週に3回。窓際文化部たる文芸部からすれば十分すぎる活動頻度だ。
「じゃあ、活動内容はなんて書いとく?」
新入生に見せるにあたって一応格好がつく活動内容。手堅いところでは文集制作とかだろうけど、そう銘打ったところで一体何をするのか。
「何にせよ、状況によって変更する可能性ありとか、そういう言葉を添えておくのはどうでしょう。実質なんでもありです」
紅林さんがなかなかに小狡いことを言う。しかし、僕も大白先輩も反対はしなかった。
活動内容は結局、文集制作(状況により変更する可能性あり)になった。
「俺は基本来れないけど、菜子先輩とか赤根先輩みたいな助っ人呼ぶか?」
「真白さんはともかく、その赤根先輩という方を私は存じ上げないのですが、蒼井くんは知ってますか?」
「いえ。時々名前は出ますけど、知りませんね」
「あー、お前らは面識ないか。そういや文化祭にすら来てくんなかったしな。呼んだところで来ないかもな」
まぁ、面識のない先輩に来られるのも少し困る。
「菜子先輩の方は暇だろうし呼べば来るだろ、たぶん」
そちらは呼べば意気揚々とやってきそうではある。しかし、体験入部に際して人手不足を理由に卒業生を呼ぶ部活というのもどうなのだろう。マイナスイメージではないだろうか。
「呼びますか?」
とりあえず紅林さんに尋ねる。
「どうでしょう。新入生が来るとも限りませんし、来たとしても、真白さんがいることでプラスになるかというと微妙な気もしますし」
まぁ、あの人のおかげで場が整うとも思えない。いる方がしっちゃかめっちゃかになる気もする。
「まぁ、2人でなんとかしましょうか」
「大丈夫だと思いますよ。私が思うに、新入生なんて来て1人。たぶん、1人も来ません」
それが現実かもしれないが、どうせ来ないから大丈夫だと思っていて来た場合は困る。来るかもしれないと思っていて来なかったとなる方が問題は起こらない。
「一応来る想定はしていた方が安全だとは思いますけど」
「来たら来たでなんとかなると思います。私たちがすべきは来るかもわからない新入生の対応を考えるより、文集制作についてかと。そろそろ書き始めないと余裕がなくなります」
「文集ですか。これ、過去のものがあるならそれを模倣すればいいんですが、それがないので僕たちが型から作る必要かがあるんですよね。で、その型作りが面倒くさい」
どんな内容で、どのくらいのページ数にするのか。そんな根幹の部分から手探りだ。
「型は物を作ってから合うように調整すればいいと思います。問題は物の方です。小説を書くのか、それともエッセイのようなものにするのか、複数の作品を掲載するならテーマの統一はするのか」
漠然と色々やらなければいけないと思うとやる気というものは霧散していく。
「じゃあ、その辺の話を新入生を巻き込んでやるって感じですかね」
そう言って話し合いを先延ばしにした。
僕も大概、文芸部が面倒になっているのかもしれない。




