表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
294/332

17話 指定校推薦


 1つのきっかけで家庭環境が劇的に変わったりはしない。あれから数日経ったが、父親の態度も母親の言動もこれといって変わったようには感じなかった。


 家族関係で変化といえば、妹がどんどん菜子さんと親しくなっていることくらい。2人ともすでに春休みということもあって、一緒に出かけたり、ずっとLINEしてたり、すっかり友達になっている。


 さて、遅ればせながら、僕も今日が修了式で明日から春休みということになる。長かったような短かったような高校1年生がついに終わる。しかし、高々修了式が感慨深いわけもなく、それは周りも同じようで、式中は私語が絶えず、「あぁ、1年生が終わるのかぁ」なんて感じ入っているものはいない様子だった。


 式が終われば、その後に待っているのは通知表。クラス内の様子からすると、そちらの方が気にかかっているようだ。


 今回は1人ずつ廊下に呼ばれコメントを受けてから通知表をもらうという流れで、普通に出席番号順にということで、僕が1人目。


「勉強については言うことはありません。どの先生に訊いても真面目でよくやっている生徒だという評判です」


「ありがとうございます」


「最近は周りへの態度もかなり柔らかくなったように感じます」


「そうですか?」


「ええ、入学当初とは別人のようですよ。というよりは、君は一度壁を破った相手とは普通に親しくなれるようですね。まず仲良くなるところまでが大変なだけで」


「そうですかね」


「蒼井くん、君はこの1年間でとても成長しましたよ」


 そんなことない。そう思った。成長したなんて言われても何も自覚はない。


「ぜひ、その調子で勉学の方にも励み続けてください」


「はい」


「では、和泉さんを呼んでもらえますか」


 担任とのやり取りはたったそれだけで終わった。そりゃ、この後にまだ30人以上が控えているのだからそんな長話をするわけはないのだが、少しだけ肩透かしを食らった気分だった。


 教室内は休み時間と同じ様相だ。僕は淡々と自席に戻る。


「蒼井ってやっぱオール5だったりすんの? それとも実は家庭科とかがダメだったりするタイプ?」


 席に戻ると揖斐くんが百瀬くんを連れて絡んできた。


「家庭科は特に苦手ではないですね。実技が微妙でも、筆記試験がある科目はそっちでカバーしますし」


「さすが優等生。ちなみに拓人の2学期の評定平均は?」


「え、4.9だけど」


「すげー。で、蒼井の今回の評定平均が?」


 勢いでそれを聞き出したいだけなんだろう。でも、まぁ、別に隠すようなものではない。


「5.0ですね」


「はい、また拓人の負け。敗因はなんすかね」


「家庭科だよ。苦手なんだよ、仕方ないだろ」


 百瀬くんにはなんでもできそうなイメージがあったが、苦手科目もあるらしい。


「揖斐くん、次ー」


 揖斐くんが廊下に呼ばれ、僕と百瀬くんはなんとなく向かい合う。


「蒼井って体育とか音楽も5なんだな。悪いけど、ちょっと意外だった」


「実技は人並みだと思いますよ。その分、ワークシートとか体育ノートとか割としっかり書いているので」


 副教科の成績なんてのは先生にある程度媚を売っておけば何とかなるものだと思っている。


「確かに、合唱祭のときも割とうまかったし、別に運動音痴ってわけでないか。で、勉強は飛び抜けてる。改めてハイスペックだな」


「いや、ハイスペックって言葉は明らかに百瀬くんの方が似合うと思いますけど」


 絵に描いたようにハイスペックな人間にハイスペックだと言われても……。


「俺は俺で苦手なことも結構あるからなぁ。料理とか裁縫とか、そういうの本当に苦手でさ。家庭科はワークシート程度じゃどうしようもない」


 肩をすくめるがその様子すらどこか様になっている。


「うし、評定平均4.1、指定校ワンチャン?」


 揖斐くんが通知表片手に戻ってきた。


「お前らって、2人とも指定校出さないよな? てか、出すなよ。普通に一般でいけ。俺の枠を奪うな」


「出しませんよ」


「俺はまだわからないな。今は一般で考えてるけど、指定校の方が可能性があるってことになれば指定校も」


「うちの高校って指定校来て中堅私大までだろ。拓人なら国立も難関私大も狙えるって。な、指定校はやめようぜ」


「なら、蓮だって理系に絞れば」


「俺は3年の2月まで試験に追われたくねぇ。さっさと終わらせて遊びたい。うん」


 一浜高校は進学校だ。9割以上の人間が4年生大学に進学する。しかし、その内訳は高いところでも難関と中堅の間といったところであり、いわゆるFラン大学と言われるものも少なくはない。大学には行くが、どの大学に行くかというところに高い希望はないものも多いのかもしれない。


「指定校で行くにしても勉強はしないと大学に入った後キツイだろ」


「入った後のことは入った後に考えればいいんだよ」


「いやいや」


「てか、高校の勉強って大学に入った後に使うん?」


「さぁ? でも、入試科目になってる分は一般入試組はできる状態で入ってくるんだから、そこはできるようにしとくべきだとは思うけど」


「拓人は真面目だね。なら、一般でいいだろうし、指定校の枠は取るなよ」


「はいはい」


 指定校推薦の出願は1年半後。一般入試にしても2年はない。それだけの期間で僕はやりたいことも決め、受ける大学を、学部を、学科を決められるのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ