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2話 わたしの人生、わたしが中心で何が悪い


「おっそいよー」


 ドアを開けると、まぁ予想していた通りの言葉が飛んできた。


「あれ? 蒼くん1人? 紅ちゃんは?」


 しかし、その後に続く言葉は予想してはいなかった。


「まだ紅林さんは来てないんですか?」


 言いつつ、いつもの席となっている椅子に座る。紅林さんがいないどころか、大白先輩もいない。


「うん。蒼くんも来ないから、一緒なんじゃないかなーって」


「大白先輩は?」


「大くんは、なんか用があるからってすぐに帰っちゃった。そのせいで、わたしは1人、まだ来ないのかなー、まだ来ないのかなーって時計を睨み続けてたんだからね」


 それは時計さんにかわいそうなことをした、なんて冗談はもちろん口にはしない。


「紅林さん、どうしたんでしょうね」


「うーん、蒼くんはなんで遅かったの?」


「担任に絡まれていました。文化祭関連で。なんか、成り行きでシフトに入らなくてよさそうです」


「おぉ! 担任に働きたくないでござるって掛け合ってたんだね。ニートの(かがみ)!」


 違う。全くもって違う。僕はニートになりたいとは思っていない。できるだけ人と関わらなくてすむ仕事がいいな。


「いや、クラス責任者から、あんた来なくていいからって言われただけなんですけどね」


「なんだ。わたしと一緒かぁ。ニートじゃなくて就職難民だ。仕事がもらえなーい」


 別に文化祭に関しては仕事もらえなくていい。だが、担任がなんか言っては来るだろう。買い出しとか、設営とか。


「当日はなくなりそうですが、準備は何かやらされそうです」


「なんか1人でできる仕事を担任から回されるあれね、わたしも経験あるよ」


 こう話していると、僕は本当に部長の同類になっているとわかる。


「紅ちゃんもなんかそんな話をしてるのかなぁ。文化祭だって、別にクラス一丸(いちがん)でやらなくたっていいのにねぇ」


 学校において、クラスという単位はどうしようもなく強力だ。こと学校行事では、大抵クラスが1つのチームになる。勝手に決められたチームで1年間活動しなくてはならないのは、理不尽にも感じる。

 しかし、そんな理不尽は学校に限らず、世の中に溢れているのだろう。


「部長、集団行動とか苦手そうですもんね」


「蒼くんに言われたくないっ」


 その通りだ。


「だって、気の合わない人と無理して一緒にいることないでしょ? わたしは気の合う仲間と一緒に楽しくいるのが好きなの。数の多さで価値を測るその他大勢とは違うのだよ」


「数は1番わかりやすい価値ですけどね」


 本質的にどれだけ価値のあるものでも、その他大勢がその価値を認めないのなら無価値とも言える。かもしれない。


 実際、価値とは何かがよくわからなくなっている。


「ふん。その他大勢とか有象無象とか、そんな人たちがどう思おうが、わたしには関係ないしー。わたしの中ではわたしが最優先っ」


 清々しいまでに自己中心的。

 そう高らかに宣言できるところが、部長の魅力だろう。

 そしてそれが、部長の欠点なのだろう。


「自己中ですね」


「わたしの人生、わたしが中心で何が悪いのさ。蒼くんもここまで開き直れると楽だよ、楽しいよ、こっち側においでー」


 すでにそちら側にどっぷりと浸かっている気はするのだが、しかし、なんとなく、部長と同じというのは癪だ。


「部長の同類って括られるのは嫌なので、遠慮します」


「えぇ、類友しよーよー」


「部長の場合、類は友を呼ぶというより、友は類しかいないんじゃないですか?」


「うわー、ひどーい。だいたいあってるけどひどーい」


 棒読みで非難してきた部長にはその自覚があるらしい。


「でも、大白先輩は部長の同類ではありませんね」


「わたしの友達は同類しかいない。大くんは同類じゃない。大くんは友達じゃない!?」


 対偶とれば三段論法でそうなるか。なら、矛盾だ。仮定が間違ってる。背理法はあまり好きじゃないな。


「矛盾が出たんで、仮定が間違ってますね」


「わたしの友達は同類しかいない。大くんはわたしの友達。大くんはわたしの同類だった!」


 こんな言葉遊びを続けて時間を潰すも、紅林さんはやってこない。


「なんか、暇を持て余してますね」


「2学期はテストまで余裕があるからねー。中間テストっていつだっけ?」


「文芸部は試験勉強しかやることないんですか……」


 一応文化部なのに文化祭前に時間を持て余している。活動が最も活発になるのが試験週間って、部活としてどうなんだ?


「なら、文芸部らしくなんか書く? わたし、蒼くんの書いた小説読みたいなっ!」


 仮に何か書いたとして、それを部長に読まれるのは勘弁願いたい。


「僕は部長の書く小説より、西成瑞穂の新作が読みたいです」


「比較対象のハードルが高過ぎるっ! いや! プロの作家と比べられるわたしがすごいっ! ドヤぁ」


 唐突なドヤ顔。あぁ、なんて暇なんだろうか。いや、これが通常の文芸部だ。読書以外に特にやることがない。それが平常のはず。


「蒼くんって、西成瑞穂とか読むんだ。青春群像劇とか、以外に好きなタイプ?」


 西成瑞穂といえば学園もの。学園ものならコメディ、恋愛、ミステリー、ホラーと幅広い。


「まぁ、そうですね。単に想像しやすいってのもありますけど。学園ものなら、舞台はとても身近ですから」


 舞台が身近でも、キャラクターが身近とは限らないけど。


「西成瑞穂かぁ。『学校で鍋を食べるために』は面白かったなぁ」


 確かに、あれは面白い。


「わかります。題名に惹かれてなんとなく読んでみると、えってなりますよね」


「まさかのシリアスーってね。いや、最後に鍋食べたけどさぁ」


「学校では食べてませんでしたね」


「タイトル詐欺だ! あっ、あと、『明日の持ち物はアリバイ』は個人的に好きー」


 部長らしいチョイス。あのぐちゃぐちゃした感じは部長好きそうだ。


「コメディミステリーですね。部長はあのノリ好きそうな気がします。あれ、部長ならどんなアリバイを用意しますか?」


「それはね、前に考えたよ。他の事件起こして警察に逮捕される。最強のアリバイ!」


「ゲームのために警察に逮捕、アリバイが最強でもありえませんよ」


「だって賞金1000円だよ。本気にならないと」


「1000円のために犯罪者になるのは割に合わないですよ」


「そう? でも、『犯罪者倶楽部は探偵を探してます』では、お金払ってまで警察に逮捕してもらってなかった?」


「俺を犯罪者にしてくださいって、あれは完全にネタじゃないですか。西成瑞穂の作品、部長も結構読んでるんですね」


「まぁねー。1番売れてるらしい、『教室の違う2人のお話』は読んでないけどー」


「恋愛ものは嫌いですか?」


「帯と扉絵がなんかねー」


「読んでみると結構面白いですよ。さすが西成瑞穂って感じです」


 本の話になると一気に盛り上がるのは文芸部あるあるだ。その後も部長とあれが面白かっただのなんだのと話し続け、いつの間にか下校時刻となっていた。


 紅林さんは来なかった。


 本話に登場した書籍は全て自分の創作です。仮に同題名の作品があったとしても、それとは一切の関係はありません。

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