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1話 いない方がいい

 4章スタートです。文化祭、自分はクラスの仕事をしたことがありません。

 課題試験の結果は予想通りだった。まぁ、どうでもいいミスをしていなくてよかった。


 課題試験については定期試験ほど重要視されていないようで、担任は少しのコメントをするにとどめてさっさと返し、残ったLHRの時間は文化祭のシフト決めになった。


「まず、部活とか委員会の関係でシフトに希望がある人は挙手して」


 文化祭実行委員って佐伯さんだったのか。佐伯さんが仕切る中、僕は挙手をする。僕以外にもポツポツと手が挙がった。


「7人ね。じゃ、まず7人はできるところに名前書いて。最低でも1回はシフトに入ってもらうから」


 シフトの区分は、1日目午前1、午前2、午後、2日目午前1、午前2、午後の6つ。

 僕は1日目午後の欄に名前を書く。


 7人が一点に集中することもなく、その後も佐伯さんの仕切りでつつがなくシフトは決まっていった。


 佐伯さん、勉強はあれだが、こういうことは得意なようだ。


「シフトはこれで決まったから、各時間で時間帯責任者、いわゆるリーダーを決めて。私は実行委員でバタバタするからクラス責任者も別で決めた方がいいかも」


 佐伯さんは「どうかな?」といった目で担任を見た。


「そうですね。クラス責任者は佐伯さんとは別にいた方がいいかもしれません」


 担任は、クラス責任者の仕事云々が書かれているであろうプリントを見ながらそう答えるのだった。


「まず、各シフトで集まってリーダー決めて。その中からクラス責任者を決めよっか」


 ということで、各シフトにて一箇所に集まる。


 文化祭のシフトは、「一緒に仕事しようね」と仲よしグループが同じシフトに集まりやすい。佐伯さんはそのグループを分裂させないようにうまく人を割り振った。


 結果、なんか僕1人だけ蚊帳(かや)の外である。僕以外の5人は仲よしの文化祭ガチ勢だ。男子2名、女子3名。


「誰がリーダーやる?」


「俺、やってもいいぜ」


「蓮は責任感ないからダメ。拓人か茉莉がいいと思うな」


「俺より茉莉の方が適任だろうな。体育祭で仕切るのとかに慣れてるだろうし」


「私? いいけど、なんか非協力的な人が1人いるんだよね」


 5人がワイワイガヤガヤと楽しそうにリーダー決めをしているのを我関せずと聞いていると、見覚えのある顔に睨まれた。体育祭実行委員だった黒崎さんだ。


「確かに協力的ではありませんが、最低限の仕事はしますよ」


 たぶん、最低限の仕事しかしない。


「体育祭の時みたいにサボるんじゃないの?」


 なんか、そんな針の(むしろ)の中でシフトに入らなくてもいい気がしてきた。


「その方がいいなら、そうしますが」


「実際、その方がいいかも。ねぇ、みんなも蒼井がいない方がいいよね?」


 そう問われた4人の答えは、


「茉莉がそういうなら、そうかも」

「いてもいなくてもいいかな。興味ないし」

「俺は別にいいぜ。いなくても」

「一応いてもらった方がいいんじゃないかな。人手はあった方がさ」


「過半数がいなくていいって言ってるし、来なくていいよ。よし、じゃ、私がリーダーでいい?」


 黒崎さんは僕に来なくていいと告げると、すぐに僕のことは視界から外してお友達の輪へと戻った。


 これで部長みたくシフトなしか。これ、部長に言ったら喜ばれそうだな。


 それからの時間はクラス責任者が決められるのをぼーっと見ていた。


 クラス責任者は黒崎さんになった。



「いいのか? あれで」


 放課後、部活に向かおうと席を立つと、クラスメイトに話しかけられた。同じシフトで、唯一僕がいた方がいいと言った男子。名前は……百瀬、だったか。長身で顔もいい、確か運動能力も高い。学力は知らないが。


「何の話ですか?」


 まぁ、シフトの件だとは思うけれど。


「文化祭だ。本当に参加しないつもりか?」


「出席はしますよ。働かなくていいと言われたので、働きはしないでしょうね」


「君がよくわからないよ。人と関わるのが嫌いなのかと思えば、勉強を教えることにだけは協力的だ。人付き合いが苦手というわけじゃないならわかるだろう? そんな風に言うと反感を買う」


 百瀬くんは特に反感を持ったような様子は見せず、まるで大人が子供をたしなめるような口調で言った。


「僕は人付き合いが苦手なんですよ」


「冗談だろ。勉強を教える君はまるで教師だ。相手のことを考えて、わかりやすく話す配慮をしてる。課題テストの時、直接君に訊きに行ったのは少数でも、クラスの多くは君が解説するのを聞いてた。課題テストの平均点、クラス別で2位だって長谷川先生が言っていたけど、君はその要因の1つだよ。君は、勉強を教える時だけ人付き合いが苦手じゃなくなるのかい?」


 その口調は諭すように。百瀬くんはずっと穏やかだ。


「いるでしょ、趣味の話だけ饒舌になる人。僕もその手合いなんですよ」


「それとは違うと思うけどね、君は。乱暴な言い方をすれば、君は人付き合いが面倒なんだろう? できなくないけど、面倒だからできないことにしてる。まさに、茉莉が嫌いなタイプだ」


 なるほど。そんな話を妹ともしたな。百瀬くんはクラスメイトをよく見ているらしい。


「僕も彼女は苦手なタイプですから、お互い関わらないのがいいでしょう。だから、僕は文化祭関係の話から降ります」


 クラス責任者が黒崎さんになったことだし、それが賢明な判断だろう。嫌われているらしいし。


「君は1年2組の一員だという自覚はあるのかな?」


 ない。その意識は今も昔も同じだ。僕には1年2組への帰属意識はない。

 しかし、そう断言するのは躊躇(ためら)われた。


「それを意識したことはありませんね」


「面倒だからと逃げられることばかりとは限らないよ。逃げ続けると、より面倒になることも多い。君がどう思おうが、君は1年2組の一員だ。文化祭の件、俺や茉莉に従えとは言わないけど、長谷川先生の言葉には耳を傾けるべきだと思う。じゃ、俺はもう行く」


 百瀬くんが僕の前から動くと、後ろで見ていたらしい担任と目があった。


「百瀬くんと話してどう思いましたか?」


 担任が話し始めた。まだ教室に拘束されるのか。部活に行けるのはいつになることやら。


(おおむ)ね正しい人なのだと思いました」


「百瀬くんの人物評価を聞きたいのではありません。わかっているでしょう?」


 どう思ったかと聞かれたから思ったことを率直に言っただけだ。今のは設問が悪い。


「彼が概ね正しいのだとは思いましたが、僕は間違っているであろう自分が案外気に入っています」


「なるほど。それは君のよいところでもあります。しかし、そのために他者の言葉に耳を傾けないのは短所ですよ」


「聞いてはいますよ。聞いて、考えて、聞き入れないという結論を出すんです」


 クラスメイトと友好的な関係を築いた方がいいのはわかる。僕だって、それがわからない人間ではない。しかし、そのために何かを失うなら。集団に迎合するために自分を失うなら、その必要はないと思うのだ。


 つまり、僕は自分が大事な自己中というわけだ。


「なぜ、聞き入れないんですか?」


 なぜか。


 僕は僕が大事だから。僕は僕の考え方が気に入っていて、それを曲げたくない。だから聞き入れない。


 でも、そんな話を担任にする気は無かった。


「たぶん、僕が自己中だからでしょうね」


「自覚はあるんですね」


「部長に似ていると言われる所以(ゆえん)を、最近自覚してきたところです」


 担任は無表情に、しかし、口調は優しく告げる。


「自己中心的でいられることは、他人に頼らない強さの証明でもあります。君は強い。集団にも立ち向かう強さがある。でも、大抵の人は弱くて脆いんです。君は前に、飛車は銀と一緒だとなお強くなると言いましたが、まずはより強くなることを考える前に、強くなくてもいい状態にすることを考えるべきだと思いますよ」


 なんか、昔に僕のした下手な例え話を引用したせいでよくわからなくなっている。いいこと言ってる風なのに台無しだ。


「僕は弱いから人付き合いから逃げているんですけどね。もう、いいですか?」


 もう、HR終わってから相当経ってる。


「最後に、文化祭ですが、あの5人と一緒に働くのは難しいかもしれませんが、何もしないのはなしにしてください。では、さようなら」


 なんか、前に言質を取られた気もするな。


「はい。失礼します」

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