10話 点を取るために自分を偽るのは生徒として当たり前
3章ラストです。
「テストはどうでしたか?」
例によって、放課後に担任が絡んできた。
「さぁ? 結果はすぐに出るんでしょう?」
「ええ、来週の月曜日には返却します」
実際のところ、道徳以外は満点だろうとは思う。まぁ、そう言ってミスってたら赤っ恥なので言わないが。
「先生、佐伯さんを嗾けたでしょう?」
「ええ、彼女は困ってましたし、君も昨日ああ言ってくれましたから」
やはり。おかげで朝から疲れた。仮に試験でミスをしていたら、それはきっと担任のせいだ。
「即座に撤回しておけばと思いましたよ」
「彼女は君に好意的だったでしょう? 残念ながら、クラスには君のことを嫌い目の敵にしている人もいます。でも、そうでない人もたくさんいるんですよ」
「敵対的でないことを好意的とは言いませんけどね」
僕が求めていたポジションは、好意でも敵意でもなく無関心だ。別に好意的に見られることを望んでいるわけでもない。
「ええ、でも、佐伯さんは君に好意的になったと思いますよ。大ピンチを救ってもらいましたから。昨日今日で君の近寄り難さはだいぶなくなりました。これからは好意的な人も増えるでしょう」
「僕は誰からも干渉されないのが居心地がよかったんですけど」
「その考え方は危険ですよ。特に学校という狭い社会では」
デジャブだ。いや、これも実際にあったか。同じ忠告をされた。学校ってそんなに危険なのかよ。
「下手に干渉されるより安全に感じますけどね」
「それは君の運がよかっただけです。1年2組はいいクラスですから」
担任が言うのは自画自賛ではないだろうか。いや、いいのだが。
「まぁ、このクラスがいいクラスだとは思いますよ。僕がその一員かは置いておきますけど」
「疑いようもなく君は1年2組の一員ですよ。1年2組で1番の優等生で、1年2組で1番の問題児です」
「そうですかね」
「そうですよ」
まぁ、こんなのは水掛け論だ。
「だいぶ喋りましたね。もう帰ります」
「そうですか。では、さようなら」
「はい。失礼します」
*
僕のクラスでの立ち位置は確かに変わった。言ってしまえば、辞書や参考書の代わりになった。
佐伯さんを始め、他にも真面目系の者が性別問わず質問してくるようになったのだ。
一浜は一応進学校を名乗っている。勉強を重要視している者もいる。しかし、なんちゃってがつくあたり、そのような者は少数派ではある。
「蒼井くん、数Aの宿題、答えなに?」
放課後帰ろうとすると佐伯さんがこちらにやってきた。僕は問題を入力すれば答えを出力する機械ではないのだが。そんなことを思いつつも、一応答えはする。
「191/216だと思いますよ」
「あれ? 私のと違う。頑張って数えたのに」
佐伯さんはよく質問にくるが、たぶん自分で勉強していない。授業が全然わかっていないのがわかる。
「数えるんじゃなくて計算しましょうよ。ただの余事象、排反事象の問題ですよ」
「はいはんじしょー、えっと、なんだっけ?」
僕は数学の先生がした説明を繰り返すのだった。
*
「えっと、1から引いて、……191? 191/216だ!」
「はい。そうです」
「ありがと。じゃあね。また明日」
「さようなら」
やっと終わった。やはり誰からも干渉されない方が居心地がよかった。なんか便利に使われている気がするし。
さて、帰ろう。
「蒼井くん」
はぁ。
「先生、暇なんですか?」
すでにHRが終わってから数分は経っているのに、なんでまだ教室にいるのか。
「君に話があります」
なんか毎日のように放課後に絡まれている気がしますが、気のせいですかね?
「なんでしょうか?」
「昨日、道徳の採点をしました。君の答案、あれは本心ですか?」
あの後の担任との話と矛盾するからな、あの答案は。
「いいえ。試験用に作りました」
「君の答案は採点基準に照らしてみれば、90点、クラスではトップの点がもらえる答案です。しかし、中間テストの時にも言いましたが、道徳のテストはそのように臨むべきものではありません」
1学期中間試験。確かにそんなことを言われた。が、納得はしていない。
「前々から言っていますが、道徳で試験をすること自体がおかしいんですよ。点を取るために自分を偽るのは生徒として当たり前じゃないですか」
「しかし、皆さんの道徳観が正しいのかを確認するためにも試験は必要です。その目的を考えても、本心を書いてもらうことが前提になっています」
それは前提が間違っているんだ。仮定が偽なのだからなんだって真になる。
「なら、それで成績をつけるのはやめるべきだと思います」
「成績という実行力を持つものにしないと、生徒は真剣に取り組んでくれません」
「僕が真剣に取り組んだ結果があの答案ですよ」
担任はいつもの無表情のまま、ため息をついた。
「君たちは試験で点を取ることに囚われ過ぎています」
「それで評価されるんですから、当然です」
「制度にも問題があるのはわかります。君の主張も理解はできます。しかし、できることなら、君の本心を答案に書いてもらえると嬉しいです」
「まぁ、それで高得点を取ることができるのなら」
本心を書いて得点が取れない僕の方に問題があるのかもしれない。
「そうですか。残念です。今日はもう帰るんですか?」
「ええ、だいぶ遅くなりました」
「では、さようなら」
「はい。失礼します」
この挨拶、何回交わしているのだろう。
次からは文化祭編になります。




