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9話 偽物の言葉に相応しい、偽物の感動を

 いつも通りにHR開始の約10分前に教室に入った。そしていつも通りに誰とも話すこともなく、自分の席つくはずだった。


「あっ、来た! 蒼井くん」


 僕のところにバタバタと向かって来たのは、佐伯さんとその他の女子が3人。いつも4人セットでいる印象があるグループだ。


「なんでしょうか?」


「これとこれとこれ、教えて」


 当たり前のように勉強を教えろと主張する佐伯さん。あれか、昨日の担任との会話。担任の差し金か。


 撤回はなしですからね。


 はぁ。仕方ない。


 自席に荷物を置きつつ問題を見る。まぁ、課題の問題なのだからわからないわけがない。


「えっと、これは」


 解説しようとすると佐伯さんは黒板の方を指差した。あー、はいはい。


 仕方なく昨日と同様に黒板に向かう。


「えっと、条件付き確率の問題ですね。これは――」


 理解している内容をただ出力するのでは、わからないからもう一回となりかねない。だから、丁寧にわかりやすく心がけて、説明する。これ、結構疲れる。


「――よって、1/3です」


「なるほどぉ」


 解説を終えると、佐伯さんは感嘆だか納得だかわからない声で唸り、他3人は音がならない程度に手を叩いていた。


 3問解説したところでHR開始直前。ギリギリだった。


「では、こんな感じで」


 そう言って自席に向かう。


「ありがと。蒼井くんってクラスLINEだと反応ないし、期末の勉強会にも来てなかったから、教えるのとか嫌いなのかと思ったんだけど、そんなことないんだね。普通にうまいし。将来先生とかいいんじゃない?」


 冗談じゃない。教師は僕が最も向いていない職業だ。


「そんなことありませんよ」


 そう否定したところで担任が教室に入りHRが始まった。



 夏休みにあなたが感動したことについて述べなさい。


 これは道徳の問題なのか? どちらかと言うと国語ではないだろうか。


 まぁ、しかし、これは道徳の試験で出題された。つまり、道徳の問題として解かなければならない。


 夏休みに感動したこと、まず思いつくのは、あの夕日だ。美しく沈む太陽。


 道徳の指導要領には"自然に畏敬の念を持つ"という項目があったはずだ。それと絡めれば道徳の答案がつくれる。


 しかし、あの時の感動をそんなどうでもいい言葉で塗りつぶすなんて、本心を言うならしたくはない。あの感動は本物の感動だった。それを偽物の言葉で語るなんて、冒涜だ。


 嫌だ。


 そう思った。だから僕は、別のことを書く。偽物の言葉に相応(ふさわ)しい、偽物の感動を。


 僕は今朝の出来事を脚色して書くことにした。僕の行為にクラスメイトが感謝したことに感動したという嘘八百を、持っている道徳の知識で高得点が狙える答案に昇華させる。


 それが僕の解答だった。


 次で3章ラストです。

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