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5話 はっきり言っていいですよ。自己中だって

「水族館とか博物館とかって思ったより疲れるな。ずっと歩いてるんだから当たり前だが」


 昨日と同様に4人ともがクタクタだった。

 クラゲは精神的に癒してくれても、肉体的には癒してくれない。


 宿に戻って夕飯を食べながら雑談をする。合宿の夕食らしい光景だ。


「今日は、早く寝よっか。と言うより、わたしもう眠い」


 水族館ではしゃぎ回った部長はもうお眠らしい。少し目が座っている。


「そうですね。私もかなり疲れました」


「足痛ーい。眠ーい。でも楽しかったー」


 いつもの元気のよさはなく、テーブルに突っ伏してそう呟く部長。


「部長、まだ食事の途中っすよ。ここで寝ないでください」


「うーん。ご飯もおいしー」


 眠い目をこすりながら、部長はもそもそと食事を再開した。


「明日は帰るだけだったか?」


「はい。荷物もありますから、そのまま帰る予定です」


「なら、もう終わりか。あっという間だったな」


 夏季合宿(仮)も、あとは寝て帰るのみ。あっという間だった。


「楽しかったですね。プランニングしてくれた紅林さんには本当に感謝です」


「いえ、そんな。感謝するなら、発案者の真白先輩に」


 そして、そう言われた部長は、


「すー、すー」


 寝ていた。右手に箸を持って。それでも一応食べ終わってはいるようだ。


「部長ー、起きてくださーい」


 大白先輩の呼びかけにも、部長は「すー」と寝息で応じた。


「これ、誰が運ぶ?」


「「……」」


 結局、僕と大白先輩の2人で運んだ。まぁ、そんなに大変ではなかった。


 部屋に戻れば、今日は大白先輩と2人だ。


「シャワー、先にどっちが使う? 明日は朝ってわけにはいかんだろ」


「僕はどちらでも大丈夫です」


「なら、先に使っていいぞ」


 大白先輩はそう告げるとスマホをいじりだした。


 僕はその言葉に従い、シャワーを浴びることにした。疲れているので、わがままを言うなら浴槽に浸かりたいが、この宿には浴槽はついていない。


 5分足らずでシャワーを終えると、大白先輩は未だにスマホをいじっていた。


「上がりました」


「おう、わかった」


 そして大白先輩は着替えを持って脱衣所へと向かう。


 なんか、部長がいないとものすごく静かだ。


 大白先輩がシャワーを浴びている間に布団の用意をする。まぁ、夏場なので大して手間取ることもない。2人ぶん敷き終えたところで、大白先輩が上がってきた。


「おう、悪い」


「いえ」


 そして沈黙。僕は文庫本を開き、大白先輩はスマホを手に取る。


「なぁ、蒼井ってなんで文芸部入ったんだ?」


 大白先輩はこちらに顔を向けず、スマホの画面を見ながらそう訊いてきた。


「入学直後は図書室によく行きまして、そこで司書さんに勧められました」


 部員は誰1人勧誘しない中、司書さんは文芸部の勧誘をしていたのである。文芸部に入って以降、図書室に行くことがかなり減った。

 中間試験の件もあるし、今度お礼を言っておいた方がいいかもしれない。


「そうか。紅林もそんな感じなんかな?」


「さぁ? 知りません」


「文芸部、来年の部長って俺なんだよなぁ」


 来年の3年生は大白先輩だけなのだから、そうなるのだろう。


「そうなるでしょうね」


「俺、お前らを引っ張ってく自信ないぞ」


 引っ張る。中間試験の件も、この合宿も、部長が「これやろう!」と言ったからできたことだ。


「まぁ、部長と同じを求めたりしませんよ」


 部長の代わりは誰もできないだろう。逆に、部長は誰の代わりもできそうではない。


「あの人はすげーよな」


「はい。色々な意味で、良くも悪くもすごいです」


 気づくと、大白先輩はスマホから顔を上げていた。


「でも、お前らも部長と似てるとこあるぞ。それも、かなり」


「そう言われるのはだいぶ複雑な心境です」


「俺と、部長も含めお前ら3人は違う。能力にしたって、思考にしたってな。お前らは優秀で、個性的だ」


 そう言われるのも困る。優秀で個性的、それは部長だ。部長はまさしく、優秀で個性的。あそこまでその言葉がしっくりくる人と並列されても困る。


「部長と一括りにされても困ります」


「それくらい我慢しろ。俺が文芸部で一括りされて困ることがどれだけあると思ってんだ」


 担任曰く、大白先輩は文芸部で唯一問題児ではない。

 そりゃあ、文芸部で括られれば困ることも多いだろう。


「俺は文系科目が全般的に苦手だ。文芸部なんてもともと似合わない。そんな俺がなんで文芸部に入ったと思うよ?」


「本が好きだったんじゃないんですか?」


「読書をするのは苦じゃないが、本の虫ってほど好きでもない。今だって、お前は読書してたのに対して、俺はソシャゲをしてた。

 俺は、人数合わせのために入った。それだけだ」


 人数合わせ?


「つまり?」


「一浜だと、5月時点で部員が3人を下回ると廃部になんだよ。去年文芸部が廃部になりかけたところを、当時の部長に頼まれて入部した」


「なるほど」


「当時の部長も結構な変人だったが、いい人だった。おかげで文芸部も居心地よくて、今に至る。だが、そんな理由で入った俺が部長になるってのはな。ちょっと、違う気がすんだ」


 そうは言うが、大白先輩は名前だけ貸した幽霊部員ではない。部活に出て、文芸部として活動している。


「大白先輩が部長になることに違和感はありませんよ。部長と呼ぶのは違和感がありますが」


「俺は、俺がお前らの代表って違和感半端ねぇんだよ。さっきも言ったが、俺とお前らは違う」


 そんなことを言えば、人間誰しもが違う。


「文芸部に仲間はずれなんていません。文芸部は4人で1つのグループです」


 思い出したのは漫画研究会。3人と3人と1人の部活。文芸部は違う。決して、3人と1人の部活ではない。


「蒼井って、そういうことを普通のトーンで当たり前のように言うのな。お前はさ、仲いい奴にはすごくいい奴なんだよな。部長もそうだ。紅林も、たぶんそうだろう。

 俺みたいな、誰にでもそれなりいい奴、いや、それなりに上手くやる奴とは根本から違う。

 ただ、そんな蒼井にアドバイスだ。どうでもいい奴にもそれなりにいい奴でいる方が、世の中はうまく渡れる。お前がどうでもいいと思う奴が、お前のことをどうでもいいと思ってるとは限らない」


 ちょっと、いい奴という言葉が多すぎて聞き取りづらいです、と軽口を言えるものではない。


 僕はそんなにも周りを蔑ろにしているように見えるのだろうか。


 担任も、顧問も、大白先輩も。


「大白先輩から見た僕ってどんな奴ですか?」


「部長の同類だ。優秀で個性的で、自分の価値観を持ってる。自分の価値観で物事を測る奴。つまり、部長の同類だよ」


「価値なんて多数派が価値を認めるか否かで決まるわけで」


「お前はそんなこと思ってない。お前の中の価値は周りが何と言おうが決まってる。お前はそういう自分を持ってる奴だ。俺はそう思う」


 そうか。そうかもしれない。僕は多数派に付き従ってはいない。その時点で、僕の価値観は多数派のそれとは一致はしていない。


「はっきり言っていいですよ。自己中だって」


 大白先輩は首を横に振る。


「いや、俺はそれが悪いとは思ってない。俺はそれに憧れてる節があるしな。ただ、悪くはないが、危ないとは思う。特に、学校みたいな狭い社会だとな」


「そう、ですか」


「なんか、変な話をし過ぎたな。もう寝るか。疲れたし」


「そうですね」


 しかし、僕はなかなか眠ることはできなかった。


 悪くはないが、危ない。


 僕の在り方は、危ない。


 旅行記はこれで終了です。

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